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組織の抵抗その2~”組織体”にも慣性の法則 キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(32)

 今回は前回「インディペンデント・コントラクター」を取り上げたため、お休みしていたテーマ、「組織にはたらく慣性の法則」の続きをお伝えしたいと思います。

 組織に働く慣性の法則とは、いざ、組織を変革しようと思ったとき、それに抵抗しようとする力、今までのやり方を変えたくないという力です。
 慣性の力の実例として急ブレーキをかけたときの車の中のことをお話ししましたが、大型船が急に旋回することができないのも同じように慣性の力の働きです。
 こうしてみると大きな組織がなぜ変わりにくいのか分かるような気がしませんか?

 前々回はこの慣性の力になるものとして、「習慣」や「未知に対する不安」など個人の側の抵抗について説明しましたが、今回は組織のもつ特性について触れたいと思います(なお、厳密にこれは個人、これは組織と区分できるわけではありません)。

★組織はもとより保守的

 実は、何となく感じている方も多いと思いますが、組織とは本来保守的なものといえます。
 その理由として「組織行動のマネジメント」でステファン・P・ロビンスは、6つの要因を挙げています。

【構造的慣性】
 まず、組織には元々安定を生むメカニズム(構造)が内包されているからです。
 平たくいうとそういう風にできているとでも申しましょうか。

 例えとして挙げられているのが「採用」。
 多くの会社で「我が社が求める人材像」というのを持っています。
 この人材像は、意識しているかどうかにかかわらずその組織に合った人材ということになります。
 同じような人、つまり今の組織になじみやすい人を増やそうとしているといえます。
 同じ業種の会社でも、その会社ごとになにがしかのカラーがあるというのはこのためかもしれませんね。
 同じような人が集まると、その人たちが過ごしやすい、その人たちの好む組織文化ができあがります。
 好みの組織文化が変わるのは避けたいですよね。
 ということは毎年、組織文化が変わるということに反対することになるであろう人を採用しているということになります。

 我が社の求める人材像といいながら、実は「課題構成力のある人材」というように抽象的な場合が多く、しかも結局はそうしたものとは別の基準、「うちの会社でやっていけそうかどうか」で判断しているところが少なくありません。
 最後には役員面接があるところがほとんどでしょうけれど、役員のほとんどは採用が本来業務ではありませんから、採用の基準(着眼点や判断基準)を覚えている訳でもなく、親和感があるかどうかで決めていないでしょうか?
 そうするとこの「類は友を呼ぶ」ような傾向は一層強くなますから、ますます変わりにくい集団になっていくかもしれません。

 少し前の話、まだほとんどの企業に人材育成の余力があったころ、会社によっては、「大学に仕事に役立つ教育は望まない。マナーだとか社会人の基礎だけしっかりしてくれていればいいんだ。後は会社が自分たちの色に染めていくから」と豪語していた会社もありましたねぇ。
 新入社員研修をはじめとして、階層別研修などで、「我が社の文化」を刷り込んでいくわけですね。
 あのように仰っていた会社、どうなったんでしょうか?

 その視点で見ると、逆に異色の人材をあえて採ろうとしている会社は変化への対応が早いようも思います。

【変革の限られた焦点】
 実際に変革に着手して、何かを変えようとすると、ずるずるとあれも変えなければ、これも変えなければということになったことはありませんか?
 組織自体が実は大きな「システム」なので、一部を変えると他に何らかの影響を及ぼしてしまうのです。
 次々に連鎖反応してしまうような、例えばドミノ倒しみたいなもんでしょうか?
 しかしこのように全体に影響し始めると、他な部分が黙っていないです。
 結局、大きな組織の方を変えるはしんどいので、最初に変わった小さな変化、せっかく変革したサブシステムの方を元に戻してしまおうということになるわけです。
 それはあたかもけがの傷口がなくなってしまうようなもの。
 気がつかない内に元の皮膚に戻っている。
 変化の兆し、変化の萌芽が、踏みにじられていくという感じです。
 そんなこと、身近にありませんか?

 製造現場であればせっかく工程改善しようと計画したのに、前工程あるいは後工程が変化を嫌がって、前の通りにしてくれないと困ると迫ってくる。
 管理部門が、営業マンがいちいち事務所に戻って伝票を書くのは面倒だろうし、間違いが多いからと気を利かせて経費精算をノートPCでできるようにしようとすると、逆に営業部隊から前の方がなれていてやりやすいと反発を食ったりする。


【グループの慣性】
 いつかは足を洗おうと思っていたんだけれど、仲間と離れられなくて、ついずるずると-これがグループの慣性です。
 例えとしてはよくないかもしれませんが、もう万引きは止めようと思っていても仲間から「一人だけいい子になんのかよぉ~」とかいわれると‥‥というのもこのパターンです。
 組織の中には部や課、業務グループなどオフィシャルに決まっている集団(組織図に記載されているような集団)と、そうしたものとは別に構成されている集団(例えば、同じ学校を卒業した人、同期、同郷の人、趣味の共通する人などなど。「社長のあとを狙う副社長派VS専務派」というのもそれですね)があります。
 前者を公的グループ、後者を非公式グループといいますが、グループの慣性の発信源となるのはこの両方です。
 なかでも後者の方は公に存在するものではありませんから、より対処しにくいと言えるかもしれませんね。


【専門性への脅威】
 専門的なスキルを持っている人たちは組織にとってとても大切な人たちですが、その人たちが逆に組織に慣性の力を及ぼすようになることがあります。
 顕著なのは(善し悪しは別にして)、機械化に伴い熟練工の活躍の場がなくなるといった場合、熟練工は機械化に反対するでしょう。
 最近、見直しされているところもあるようですが、情報システム部門のアウト・ソーシング化に情報システム部門が反発するというケースもあります。

 ある金融会社のコンサルティングをしていたとき、情報システム部門の専門職が組織内でかなりの、非公式な権力を持っていることがありました。
 情報システムのことが分かるのが彼しかいないので、辞められては困ると彼の上司や同僚が、彼のほぼいいなりになっているのです。
 例えば、もとより部下の人事考課権を持っていないのに、考課に対して口を出し、自分の好き嫌いを反映させようとするといった類です。
 また、その会社では情報システムのグレードアップが経営課題となっていたのですが、その彼が会議で反対意見ばかり述べるのでなかなか進みません。
 結局、数年後に彼が退職し、ようやく情報システムの改善に着手することができるようになりました。
 彼が情報システムの再構築に前向きではなかったのは、新しいシステムになることで、自分の専門性が薄れてしまうと考えたからのようです。
 新しいシステムにおいても専門家となればよかったのですけどね。
 今まで先輩風を吹かせていた他のメンバーと一緒に学習していくことに我慢がならなかったのかもしれません。


【既存の権力関係に対する脅威】
 組織変革に伴い、権限の委譲、再配置が発生することがあります。
 事業部制の導入、組織のフラット化‥‥こうした組織体の変更を伴う変革はいずれも権限の委譲を伴うものですし、それがきちんと行われるかどうかが、成功要因の一つに挙げられるほどです。
 例えば、組織のフラット化とは、組織の階層を少なくして、意志決定に関わる人の数を少なくし、タイムリーに判断できるようにするのがねらいの一つですから、権限をより現場に近い管理職に委譲すると同時に、現場から経営層に至るまでの職制の階層を少なくします(例えば、現場-主任-係長-課長-部長-本部長と決裁印が必要だったのを、現場-課長ですませるようにするといったようになります)。
 お察しの通り、削減される階層の管理職にしてみれば、自分の席がなくなるかもしれないという身分上の不安もありますし、権限を失うことへの不安もあります。


【既存の資源配分】
 先の権限と同様に管理する経営資源がなくなってしまったり、少なくなったりするかもしれないということが慣性の力を助長する原因になることもあります。
 簡単な例を挙げるなら、運送会社のある部門に100台のトラックが所属しているとします。
 これまではトラックの積載量別にチーム編制をしていましたが(例えば4トン以下、4トン以上、特殊車両のように)、効率を図るとともに、顧客の多様なニーズに対応する、つまりすべての運送を受注できるようにと顧客別のチーム編成とするように変えるとします。
 4トン車が多ければ結果的にこのチームのリーダーは多くの資源(この場合、トラックの台数の多さだけでなく、運転するドライバーもそれに比例して多くなる)を持っていたことになりますが、顧客別に編成し直すことで、4トン車だけでなく10トン車や特殊車両なども管理するものの台数は減ってしまうかもしれません。
 これに併せて影響を与えられるドライバーも少なくなってしまいます。
 これを不服として変化に抵抗するようになるわけです。

★本当は変わりたくないのは誰?

 組織が変化に抵抗を示す場合、もっとも強くて意向を示すのは、もっとも大きな変更がある部門ということになります。
 多くの場合そうした部門の長は発言力の強い有力者です。
 このためによけいに変化はしづらくなります。
 逆に、外部から変革を迫るなら、このもっとも影響を受けるであろう人物にターゲットを絞らなければうまくいきません。

 組織開発や人事制度改革のコンサルテーションに入ったとき、大きな阻害要因になるのは、一般社員や中間管理職よりも経営層であることが少なくありません。
 自分たちは既に上位のポジションを得ているので、そうした権限に影響があるかもしれないという不安や、今までのやり方を変えられることへの不安がそうした慣性の力を生み出すことになります。
 これらは個人の抵抗のところで触れた、「習慣」や「未知への不安」などでもあります。
 冒頭で個人と組織の区分は難しいということを指摘しましたが、それはこのことを指しています。

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