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たぬきのお菓子屋さん🦝①タルトタタン【童話】

たんたんたぬきのお菓子屋さん。

お母さんが毎朝早くからお菓子を作って、お父さんがお店で売って、僕と妹も時々お手伝いをしているよ。

お昼を過ぎてすぐにやって来たのは、商店街で金物屋さんをやっている、ちょっぴりお喋りなきつねのおばさん。

「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「あら、今日も2人でお手伝い?えらいわねえ。お父さんのすること、なくなっちゃうんじゃない?」
おばさんは、コンコン笑った。
お父さんは、お店の奥のガラスケースにお菓子を並べながら、にこにこして聞いている。

「それにしても妹のチョコちゃんったら、いつ見ても本当に可愛いわねえ」
チョコはにっこり。
お父さんもにこにこ。

「おばさんね、お母さんの作るチョコレートのケーキが大好きなの」
「ありがとうございます」と、お父さん。
「お父さんもお母さんも、チョコちゃんが産まれた時にあんまり可愛い赤ちゃんだったから、1番得意なお菓子から‘チョコ’ってお名前つけたのかしら?」

きつねのおばさんは、チョコレートのケーキを3個買って、「それじゃあ、また来るわね」と帰っていった。

僕は、ちょっぴり悲しくなった。
お父さんとお母さんは妹のチョコの方が僕よりも可愛くて、だから1番得意なお菓子の名前を、妹につけたのかな。

しょんぼりしていたら、後ろからお父さんがポンと僕の肩をたたいたんだ。
「お母さんが本当に1番得意なお菓子はね、林檎のケーキなんだよ」
林檎のケーキ?アップルパイのこと?

「タルトタタンっていうケーキなんだ」
「たると…たんたん?」
ハハッと軽く笑ったあと、お父さんはしゃがんで僕の顔を見ると、こう続けた。
「タルトタタンっていうケーキはね、林檎をどっさり使うんだ。だから1年のうちでも美味しい林檎がたくさん手に入る、ほんの短い時期にしか作れないんだよ」
「そうなの?」
「うん。それとね、林檎をゆっくりじっくり焼いてから、最後にえいっと逆さまにするケーキなんだ」
「逆さまに?ぐちゃぐちゃにならない?」
「ならないさ。しっかり焼いてあるからね。」
「ふうん」一体、どんなケーキなのかな。

「お前がまだお母さんのお腹の中にいる時に、そのケーキから名前をつけようって決めたんだよ」
僕の、名前?
「タルトタタン。タルトをえいっと逆さまにすると?」
「ト、ル…トルタ!」

タルトの逆さまでトルタ!僕の名前!
お父さんとお母さんは、1番大事なお菓子の名前を、僕につけてくれていたんだ。

「ほらほら、トルタもチョコも。お客さんがいないうちに、早くおやつ食べちゃいなさい」
工房からお母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。

おやつだ、おやつ!
今日のおやつは何だろう。
何だか、すごくいい匂いだよ。

さあ、どうぞ。
召し上がれ。


おしまい

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