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恋と思い出とデストルドー feat.タイムマシーン/chara

田村さんとのデートから2週間、私たちの関係は膠着状態を極めていた。

田村さんと別れたあの夜、帰りの電車で私は田村さんにLINEを送ったのだが…

A子「今日はありがとうございました!」既読
田村さん「楽しかった!また飲もうね」
A子「はい、ぜひ!楽しみにしてます。」既読
~完~

会話が終了してしまったのだ…これは脈無し路線が濃厚なのか…!?

いやいやでも、前回のデートで私が「包容力のある人がタイプ」と言ったら「俺って包容力あるかな?」って聞いてきたあの会話の件、あれは私と恋愛する可能性があるという合図ではなかったのか?

いやいやでも、気になる女とのLINEのやり取りを、普通そんなすぐに終わらせたりしないよね、普通の男は!!!

あれ、田村さんってもしかして普通じゃないの?気になる人がいても、マイペースに恋愛進める系のタイプ?LINEとかめんどくさいって思ってる系男子?

てか普通ってなに?誰が普通の基準を作ったのですか?それってちゃんと統計取った上で「普通」って言ってるんですか?データドリブンしたんですか?責任とってよ「普通」!!!!


ここ1週間ずっとそんな風に、「田村さんは私に気があるか否か」という、永遠に埒のあかないテーマに自問自答を繰り返していたら、遂に私にイマジナリーフレンドが見えはじめた。ソイツは黒いもやもやとした気味悪い形をしていて、目が一つしかなく、手足は合計8本ある奇妙なやつだ。ソイツは夜眠る前に私の前に現れて、

「お前が経験するすべての恋は絶対に叶わない、叶わない、叶わない…」

と囁いてくる。

私がおそるおそる「あなたは誰?」と尋ねると、

「デストルドー」

と言って、気味悪い黒い影を広げて私に覆いかぶさってくる。私ははじめ恐怖に怯えるのだが、ソイツが覆いかぶさってきて私の体と一体になる瞬間、不思議なことに、なんだか安心した気持ちになる。そして私は眠りにつき、必ず同じ夢を見る。

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中学生の時の初恋の相手、高校生の時の初めての彼氏、大学生の時好きだった先輩、私が過去に好きになった人たちが一斉一同に集まって、食卓を囲みながらホームシアターで何かを鑑賞している。短編映画か何かだろうか?その映画は1話から3話までのオムニバス形式で構成されていた。

オープニングカットでは、タイトルと思われる「タイムマシーン」という文字が大きく映し出され、charaの『タイムマシーン』がBGMで流れていた。そして、「私のかわいい、美しい、思い出の旅」というナレーションが入る。私の声だ。

1話「中庭の花壇、チューリップの赤、紫のパンジー」

学校の昼休み、中庭の花壇で、私と中学の時の初恋の相手が、距離を空けて体育座りしながら話をしている。「好きな人いるの?」「いるよ」「何組?」「言わない」会話はそれだけ。すると、最後に彼の伏し目がちな横顔がアップになって映像が止まる。

2話「帰り道、味噌汁はワカメ、夕陽」

部活の帰り道、私と高校の時の初めての彼氏が、並んで歩いている。「俺は味噌汁は豆腐派だなぁ」「えー私は絶対ワカメ」「ワカメはないわ~」「ワカメ嫌い?」「嫌いじゃないよ、好きだよ。」そして、彼の恥ずかしそうな横顔がアップになって映像が止まる。

3話「夏の朝、漫画、カーテンから差し込む光」

先輩の家。朝起きて私は先輩の家に置いてあった漫画を見ている。すると、先輩が後ろから私に抱きつきながら「何見てるの?」と声をかける。そして、彼の優しい横顔がアップになって映像が止まる。

1~3話までの短編映画が終わると、映画を見ていた3人の男たちは拍手しながら「美しいね」「心が現れたよ」「綺麗な話だったね」と口々に映画を絶賛する。

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と、こんな感じの夢だ。

その夢を3日連続で見た翌朝、起きたらなぜか、涙が出ていた。

そして一向に田村さんからの連絡のない携帯を手に取って、私は田村さんにLINEすることを決めた。

A子「金曜の夜、空いてますか?仕事の終わり飲みませんか?」
田村さん「21時以降になるかもだけど、大丈夫?」
A子「大丈夫です!また金曜連絡します。」

過去の思い出たちが、私に勇気を与えて、田村さんとの恋を後押してくれているのかもしれない、とその時の私はそう思っていた。だけど私はまだずっと背後に取り憑いているイマジナリーフレンド「デストルドー」の存在に気づいていなかった。

★todey's song★