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政治改革はどこから始まる④変革は、小さいところ、弱いところ、遠いところから~カギを握る改革派首長〜

首相に「大きな改革」を望むのは酷

私たちの社会にネットが急速に浸透するなか、政治においてどんなチャンス、そしてリスクがあるかについて、前回、前々回と考えてきたが、今回はそれを踏まえて、日本の現状、生き残るための切り口について考えてみたい。

この第1回でも書いたが、日本全体をすぐに変えようとしても、それはかなり難しい。巨艦がすぐに方向転換できなかったり、大企業の主力事業を改革するのが難しかったりするのと同じで、過去の習慣やしがらみ、成功体験が邪魔をするからだ。

もっと言えば、改革に取り組むメンバーの何十倍もの抵抗勢力が現れるので、いつ足元を救われるかわからない。大きな図体をもつものの改革は、中国共産党のような一党独裁体制とか、日本電産やユニクロ、ソフトバンクのような創業経営者でないと難しい。
 
日本では、一国の首相といえども、状況的には1期2年か2期4年で交代するサラリーマン社長と、決定権の強さという面ではそれほど変わらない。そもそも「大きな改革」を望むこと自体が酷だろう。

変化の波にさらされる日本

とはいえ、変化の波は日本にも容赦なく訪れている。
 
日米安保のもと、アメリカの「核の傘」に守られ、人口増加の追い風を受けて経済を中心に舵取りをしていればすんだ以前と、現在の日本が置かれている状況はまったく違う。人口減少は止まらず、各方面で影響力を増す中国の存在によって、日本の国防、経済、政治も大きく揺さぶられている。
 
かつての自民党は、政権交代は基本的に起こらないという盤石な状態で、大株主のような存在とも言えるアメリカの声と、党内の派閥間の調整を気にしていれば大丈夫という政治をしていた。しかし今は、SNSによって「モノ言う国民」が増え、選挙の足元を脅かされたり、スキャンダルや失態も隠すのが難しくなっている。
 
困難であっても、改革は必要なのだ。

首長次第で地方は大きく変えられる

では、どうすればいいのか。私は、国全体を飛躍的に再生するのは難しくても、特定地域の暮らしや生活を画期的に良くすることは可能だと思う。
 
実は、知事や市長には、大統領制のように予算と権限が集中している。地方自治は本来、二元代表制なので、首長と議会は権力を二分しているはずなのだが、現状を見ると地方議会は事実上「追認議会」(当局が出してくる予算を丸呑み賛成する議会)になっている場合が多く、知事や市長がやりたいようにできる自治体がかなり多い。
 
こうした状況は、裏を返せば、改革派と呼ばれる知事や市長が登場して芯を食った政策を断行すれば、地域がみるみる良くなるという可能性を秘めている。大阪維新の会が躍進したのも、橋下徹・大阪府知事や松井一郎・大阪市長による大阪改革の実績が、府民や市民に評価されたからに他ならない。
 
“暴言市長”として話題となった兵庫県明石市の泉房穂市長も、「明石市で実現できたことは、国でも当然に実現可能。 お金なんて、やりくりで何とでもなる。要は、政治家の“やる気”次第。 必要なのは“検討”ではなく、“決断”と“実行”だ。」とTwitterで明言している。
 
もちろん、改革には痛みが伴ったり、副作用が出たりなど、後遺症が出る場合もある。大阪や明石の改革にも賛否両論あり、最終的な評価がどうなるかは今後、注視する必要があるだろう。
 
ただ、確実に言えるのは、国を一気に大きく変えることは無理でも、地方ならそれが可能だということだ。

変革は、小さいところ、弱いところ、遠いところから

議院内閣制のもと、国会議員の投票で選ばれる首相は、どうしても政党バランスに配慮をするしかなく、とんがった政策を掲げにくい。これに対し、市民の直接選挙で選ばれた知事や市長は、圧倒的な決定権を持ち、あえて言えば「強引に」改革を進めることができる。
 
「変革は、小さいところ、弱いところ、遠いところから始まる」という私の信条は、そうした日本社会の空気やメカニズムも包含した正攻法だと思っている。
 
企業でいえば、戦略子会社や買収した企業が、本体を変えていく影響を及ぼすことがあるように、政治でも地方から変えていくというやり方が、結局のところ本丸を変える近道ではないだろうか。
 
地方都市で「ある政策」がうまくいけば、それは瞬く間に全国に広がるものだ。地方自治体は基本的に保守的なので、誰もやっていない政策に着手するのは苦手だが、他の自治体の成功事例を真似(まね)るのは上手い。図書館を公設民営化しTSUTAYA化して話題となった元武雄市長の樋渡啓祐氏も、「大事なのはTTP(徹底的にパクる)」と公言していた。

地方自治体は国に隷属していない

良し悪しはともかく、原発再稼働や辺野古基地移転問題でも、知事が首を縦に振らなければ、国が勝手に物事を進めることはできないぐらい、地方自治体の首長は権限を持っている。政府が進めた種子法廃止も、半数くらいの都道府県が主要農作物種子事業に関する条例を制定し、これまでやってきたことをやめずに粛々と事業を進めている。地方自治体は国に対して隷属関係に陥らず、しっかり機能していると思う。
 
たとえて言えば、政府与党は民間企業の持株会社のような存在であり、地方自治体が事業会社のような立ち位置なのかもしれない。国と地方自治体は“親子関係”にありながら、事業実態は地域にあり、住民の民意を掴んでいるのは自治体だ。国からすると、地方を動かすのは意外と難しく、手触り感のないコックピットにいるような感じだろう。

衆院選で勝つよりも……

現在、日本の政令指定都市(人口50万人以上)は20あり、その人口を合わせると約2775万人、日本の人口の約22%に当たる。これに東京都の人口を加えると日本の人口の33%、つまり3割をカバーする。さらに中核市(人口20万人以上)62市まで加えると日本の人口の半分になる。
 
仮に、東京都知事と政令指定都市の市長の21人を改革派が占め、地域の改革を進めれば、国民の3割はその恩恵を受ける。中核市の首長62人も改革派にかわれば、日本の半分が改革されるはずだ。住民にとって望ましい改革なら、残りの1600強ある市町村にもあっという間に拡がるであろうことは、想像に難くない。
 
もうお分かりだろう。国会で衆議院議員の過半数の233議席を獲得し、政権をとって改革を進めるよりも、政令市長20人や中核市62人を改革志向の首長にする方が、日本再生の近道になる。そう私は確信している。

ミッションは改革派首長100人輩出

現在、上述した樋渡氏が事務局長を務める「活力ある地方を創る首⻑の会」 に参加する首長は185人。ICTの活用、教育改革、ベンチャー支援、少子化対策、公共人材育成など多岐に渡って情報交換を続けている。
 
私が理事を務めている、地域創生に興味関心があるリクルートのOB500人が集まる「かもめ地域創生研究所」は、リクルートの事業分野である就職、人材育成、教育、旅行、結婚、移住など地域行政にマッチする分野が多いので、直接地域創生に関わったり、首長や地方自治体のアドバイザー的な役割を果たそうと活動している。
 
日本を本当に良くする、そのために抜群に仕事ができる改革派の首長を100人輩出するというのが、かもめ地域創生研究所のミッションだ。ここにこそ、日本再生の突破口があると私は考えている。
 
次回では、これまた突出した行政手腕で名を馳せると同時に、暴言問題でマスコミを賑わせた兵庫県明石市の泉房穂市長の言動からみる首長と地方議会の問題や、地方議会の存在意義、来年行われる統一地方選挙の意味について考えたい。

参考図書
リクルートOBのすごいまちづくり (世論社)

リクルートOBのすごいまちづくり2(CAPエンタテインメント)

議員という仕事(CAPエンタテインメント)

情報オープン・しがらみフリーの新勢力(CAPエンタテインメント)


楽しんでもらえる、ちょっとした生きるヒントになる、新しいスタイルを試してみる、そんな記事をこれからも書いていきたいと思っています。景色を楽しみながら歩くサポーターだい募集です!よろしくお願いします!