話題沸騰中の「Notion」に秘められたローカライゼーションへの“こだわり”と日本人コミュニティの存在【Canva × Notion対談 #1】
仕事の業務効率化に役立つツールとして、よく名前にあがることが多い「Notion(ノーション)」。エンジニアやデザイナーを中心に世界中で熱狂的なファンを持つことで知られ、日本国内では三菱重工、サントリー食品インターナショナルなどの大企業での導入が進んでいます。
「一度使ったら手放せない」との声が多く、仕事だけでなくプライベートでも活用している人が増えている話題沸騰中のツール。読者の皆さんの中にも、実際にNotionを使っている方がいらっしゃるのではないでしょうか?
CanvaとNotionは、プロダクトの特性は異なるものの、ともに世界中で注目を集めるユニコーン企業。そんな海外で話題のプロダクトを日本ユーザー向けにローカライズするために、最前線で奮闘する両社の日本代表が対談を行いました。
対談では、ローカライゼーションの大切さから、チームユースにおすすめの機能・特徴、そしてそれぞれが目指す目標や今後の展望まで、ざっくばらんに語り合いました。
その全編を3回に分けてお届けする第1回目は「ローカライゼーション」をテーマに、日本語版Notionのローカライゼーション秘話に迫ります。Canvaカントリーマネージャーの植山周志が気になることを、Notionゼネラルマネージャー 日本担当の西勝清(にし かつきよ) 氏にすべて答えていただきました。
今回はその様子をたっぷりとお届けします。
NotionとCanvaは、“誰でも自由に作りたいものを作れる世界”を実現するプロダクト
ローカライゼーションの話に入る前に、今回の対談が生まれた背景についてお話いただきました。
西さん(以下敬称略):
Canvaとの最初の出会いは、僕がまだ日本で一人でNotionで働いていたときでした。一人ながらもウェビナーを実施したくて、ランディングページを作ることになったんです。そのランディングページに、Notionらしいデザインのバナーが必要になった時に、周りからおすすめされたのがCanvaでした。
その時は、Canvaの使い方を調べることなく、Canvaを開いて直感的にデザインを作りましたね。実際にかっこいいバナーができたので驚きました。Canvaさんが目指されている、デザイナーじゃなくてもデザインが作れるとはまさにこのことかと思いました。
植山:
Canvaでは「Empower the World to design(すべての人が、どこからでも、デザインで輝けるようにする)」をミッションに掲げているので、そう思っていただけて嬉しいです。
Canvaでは、デジタル時代に急増するデザインの需要に対して、“誰でも” 自由にデザインできるプラットフォームの提供を通して、デザインの民主化に動いています。誰もが自由に作りたいものを作れる世界を目指すという点において、Notionさんと通ずるものが多いこと、そして日本のユーザーに向けて改善を続ける外資プロダクトとしてもきっと面白いお話しになりそうだと思い、今回お声がけしました。
西:
Notionでも同じように、「Making software toolmaking ubiquitous(誰もが思い描いたソフトウェアを自由自在に組み立てることができれば、世界はより多くを実現できる。私たちのミッションは、そんな世界をユビキタスな現実にすることです)」を目指しています。
Notionでは、自分たちで思い描くソフトウェアを自由自在に組み立てられるよう、ブロックを組み立てるようにページを制作できます。Canvaさんも自分たちが思い描くデザインを自由に作れるツールなので、「無限大の可能性を秘めている」というところに親和性を感じています。
日本語ベータ版Notionができる前から、日本で熱狂的なファンが多かった理由とは?
植山:
西さん、Notionの日本語化おめでとうございます!Notionさんは、日本語化される前から熱狂的なコミュニティがあって、多くのユーザーの方々から愛用されていましたよね。その理由や秘密は何ですか?
西:
理由はいくつかありますが、まずプロダクトの特性にあると思います。Notionの特徴を説明するときに「レゴブロック」の例えをよく使っているのですが、Notionはブロックをレゴのように組み立てるようにして使えます。だから、コーディングの知識がなくても、ユーザーさんが思い描いていることを、自分でNotionを使って実現できます。
そういった直感的に操作できるところが、英語が大きな障壁にならなかった理由のひとつだと思います。プロダクトの自由度が高いところにユーザーさんが魅力を感じてくださったのも、日本語化される前からNotionが愛されていた理由の一つだと思っています。
Notionの場合、ユーザーがツールに合わせるのではなく、ユーザーがツールをカスタマイズできます。そういう点では一線を画しているユニークなツールです。だからこそ、たとえ英語の壁があっても、「Notionを使ってみよう」と思ってもらえたのではないでしょうか。
あと、今は色々な方に使っていただいていますが、日本語化する前のユーザーは、エンジニアやデザイナー、プロダクトマネジャーの方々が多かったですね。比較的英語に抵抗の少ない方たちに最初は使っていただけていたのも、日本語化前から愛用者が多かった理由かもしれません。
そういった方々たちが中心になって、SNSでNotionの使い方を発信するなど、コミュニティ活動も行われていました。Notionの使い方レクチャーをしてくださったり、簡単なページを作ってくださったりして、よりNotionが日本語化する前からとっつきやすい存在になったというのもあります。
当時はヘルプページが英語しかなかったところを、日本のユーザーさんがボランティアで日本語にしてくれていたこともありました。そういうユーザーさんの自主的な発信があって、ユーザーさん同士がSNSを通して学び合って使っていたことも、Notionが日本語化する前から広まった理由だと思います。
植山:
なるほど、そうだったんですね。僕もプライベートでNotionを使っているのですが、やっぱり便利ですよね。オフラインになっても作業を滞らせない使い心地には本当に驚きましたし、なんといっても書き心地がいい。こだわりを持ってプロダクトを作られたんだろうなって凄く感じます。
西:
プロダクトのスピードや検索機能、書き心地は、Notionのコアな部分でもあるので、「ここまで達成できればOK」というものはなく、常に改善が施されています。社内でも、継続的にプロダクトを改善するためのプロジェクトが走っています。社内全員がNotionが目指しているクオリティーを常に目指しています。だから社内の雰囲気が、どことなく “アートスタジオ” や “工房” に近いですね。
ユーザー同士が使い方を共有し合うプロダクトだからこそ生まれたコミュニティの存在
植山:
先ほどの日本語化する前のお話の中で「コミュニティが自然に生まれた」とありましたが、その背景や過程についてもっと教えていただけますか?
西:
Notionのコミュニティは結構早くからできていましたね。日本第1号社員である私が入社する前からすでに存在していたので、コミュニティが生まれた瞬間をリアルタイムで見てはいないんですよね。
コミュニティが自然に生まれたのは、コミュニティで使い方を語り合いたくなるプロダクトの特性があったからだと思います。Notionは、ブロックの組み合わせ方次第で何でもできる、自由度の高いツールです。
「自分が知らない機能や活用方法を知りたい」「他の人がどんな使い方をしているのか見てみたい」「自分の活用方法を発信したい」というユーザーさんの思いから、コミュニティが生まれたのではないかと思います。
日本語化する前は、まだ公式ガイダンスページもすべて英語だったということもあり、他の人に使い方を教えてもらいたいという人も多かったのだと思います。
ユーザ同士の情報交換が盛んに行われていて、Notionで作ったテンプレートを「こんなものを作ったよ」と周りに共有されたりもしていますね。情報共有ができるという特性も、自然にコミュニティが生まれた理由の一つではないでしょうか。
何よりも、Notionに愛着を持っているユーザーさんが多かったのは大きかったと思います。
あとは、ユーザーさんからのフィードバックも大切にしています。“Feedback is a gift(フィードバックは宝)”が、会社のバリューになっているくらいです。だから、お問い合わせフォームやTwitterからあがってきたフィードバックは全部吸い上げて、Notionのデータベースに入れて管理しています。
どの項目に関するフィードバックが一番多いのかが、グローバル全体で見ることができるようになっていて、多いものから真摯に応えるようにしています。Notionのアップデート速度も早いので、ユーザーさんも自分の声が届くのを感じ取ってもらえているのではないかと思います。そういうところも、Notionのコミュニティ活動に繋がっているのかなという印象です。
植山:
“Feedback is a gift” がバリューになって、アクションをし続けているというのは素敵な文化ですね。あと、開発チームの対応の速さも大事ですよね。西さん自身もきっと本社にリクエストをあげて、実現されていらっしゃるんですよね?
西:
そうですね。先ほどのデータベースとは別に、特筆すべきものはslackチャンネルでリクエストを送っています。内容によっては、即日で直っていることもあるくらい、スピードは速いなと感じています。
Notionには日本語専用のコマンドが存在する!?日本語環境を常に意識したローカライゼーション
植山:
日本人ユーザー向けにプロダクトを日本語化、そしてローカライズするにあたって、どのような “こだわり” を持っていますか?
西:
日本の方のためのツールとして愛されるためには、日本の環境にあったプロダクトである必要があります。Notionについて知って、実際に使って、困ったときにサポートを受ける。このすべての過程で、違和感なく使ってもらうことが大事だと思っています。
だからこそ、ローカライゼーションをするときは、英語版を使うときと変わらないNotionらしさを失わず、かつ日本語で心地よく使えるようにしたいという思いで取り組んでいます。
日本語ベータ版Notionを作ることができたのも、ひとえにコミュニティの皆さんの協力のおかげです。今回の日本語ベータ版リリースの前には、一部のコミュニティメンバーの方にプライベートβ版を事前に利用していただきました。
より日本語で使いやすくするためのフィードバックをいただき、すぐにフィードバックを反映しました。機能面はもちろん、翻訳した言葉もNotionらしい文言に変えています。
機能面では、日本語入力環境を考慮するようにしています。例えば、英語版にはあらゆるブロックを作成できる「スラッシュコマンド」があるのですが、それが半角スラッシュなんです。日本語の入力は全角で行うので、半角スラッシュの切り替えが必要になって、日本のPCでは使いづらくなるのではないかという懸念がありました。そこで、半角スラッシュと同じ機能を持った「全角セミコロン」を日本語環境だけに作りました。
あと、日本語キーボードに即した予測機能の改善もおこなっています。例えば、/page(スラッシュページ)と打つと新しいページを作成できるコマンドがあります。これはローマ字で入力すべきなのですが、かな入力のままだと「ぱげ(page)」になってしまう。
そんな時に、「ページ」でも「page」でも「ぱげ」でも、意図しているコマンドに近いキーワードを打ったときに意図を判断できる仕組みにしたいなと思ったんです。だから今は、かな入力で「;ぱげ」と打つとページの新規作成ができるようになっています。
ユーザーさんと一緒に作り上げたプロダクト「日本語ベータ版Notion」
植山:
日本語版のNotionをリリースして、日本のユーザー層からの反応はどう変わりましたか?
西:
まずは、日本語ベータ版をローンチした日は反応が大きかったですね。日本語化した日には、数百人のコミュニティの方に集まっていただいてオンラインイベントをしました。Twitterのトレンド入り(Twitterでトレンド6位)したのは今でも忘れられないです。
コミュニティーに携わってくださった人たちから、「一緒に一つのプロダクトを作ったという経験になって嬉しかった」という声を頂いたのも思い出ですね。日本語化する前は6つだった地域コミュニティも、ベータ版ローンチ後には11にまで増えました。メンバー数もローンチ前の約1,000名から、1,700名(2021年11月時点)にまで大きく増えました。
日本語化したことで、ユーザーさんから「日本語に対応したのでチームで使います」、「他の人に勧めやすくなりました」という声もたくさんいただきました。
Notionのユーザー数は日本語化してから着実に増え続けていますし、大企業からの問い合わせも増加しています。一部の情報感度の非常に高い方々に知られるツールから、より幅広い層に普及したという実感があります。
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プロダクトとしての魅力はもちろん、きめ細やかなローカライゼーションと熱狂的なコミュニティの存在が後押しになって日本でさらなる成長を遂げるNotion。個人アカウントは無料で使えますので、ぜひ一度お試しください。
Canvaの植山が語る「Canvaのローカライゼーション秘話」に関する記事は、Notionのウェブサイトに掲載されています。ぜひこちらも併せてお読みください。
第2回目は、テレワークとオフィスワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」について考えます。CanvaとNotionを使うことで、どのようにハイブリッドワークの可能性を広げることができるのかを語り合います。Notionのチームユースにおすすめの機能・特徴についても紹介しますので、ぜひお楽しみに!