見出し画像

#3 寿樹の静謐さ

前回はこちら

住宅街に紛れるようにひっそりと、そのお店はある。
一見しただけでは、単にガーデニング好きな民家にも思えるのだが、そっと掲げられた看板と半分開け放たれた門扉が「もしかして、入っていいのかな?」という好奇心を掻き立てる。

お店には先客が3人。男性1人とカップルだった。
窓際のテーブル席に案内された。
窓からも緑が見える。

「食事を切らしている」とのことだったため、アイスティを頂戴した。

待っている間、私が堪能したのはその空間の静謐さだった。
コーヒーを淹れる音。カップルの話し声。音楽も控えめで、Queenが流れると私にも分かったが、あとは何の曲かわからなかった。
それがよかった。
知っている曲、特にクラシックが流れると、私は集中してしまうからだ。緊張とすら言えるかも知れない。
私は静謐さを必要としていた。心を空にすることに集中したかった。

余計な気持ち、想い、モヤモヤ、悩み、そういった様々な「考え」を受け流し、遠巻きに見て距離を取り、それよりもその空間の静謐さに集中する。そして頂いたアイスコーヒーの味に集中する。
といったことにうってつけの場所だと思ったのだ。

後日奥様から伺ったのだが、実はあのお店の空間は「そういう風に設計されている」らしかった。
空気や気の流れがよどまぬように設計されているとのこと。
私が「癒やされた」と感じたのも、店主の方々や設計士さんなどの気遣いによるものだったわけだ。

その「後日」の際にはカレーランチを頂いた。

辛くて、その辛さが身体の緊張を解きほぐしてくれた。
辛いものを食べて汗を流したのも久しぶりで、余計なものや感情が流れ出ていったかのようだった。

その日は実は、お店に入る段階でものすごく背中が重く、かつお腹の付近にも違和感があった。十二指腸潰瘍をやった頃のあの違和感だ(今はピロリ菌除去済みなので潰瘍にはならない。ご心配なく)。
しかし、お店に入ってしばらくしたら背中の重さが消え、またカレーを食べるうちにお腹の違和感も消えた。
奥様が「お腹の辺りすっきりするでしょう?」とおっしゃっていたがまさにそれで、どうして私のことがわかったのか! と驚くばかり。

カレーを頂いている際に、フルートの演奏があった。
インディアン(ネイティブアメリカン)フルートという縦笛。尺八に少し似た音色だった。
彼女の演奏は自由だった。何の決まりに従わなくても良い。かといって現代音楽のような奇をてらったものでもない。自由で自然。

甘いものが欲しくなってデザートも頂いた。

ブランデーのケーキとブレンドコーヒー。
しっとり感がやみつき。

この時期は随分しんどいことが続いた。
しかし、できる限り心穏やかに過ごしたいと思った。
そんな私を支えてくれた場所の一つだ。
より自由に、より自分を大切にする、そのためになくてはならなかった。

この記事を書き上げるのにも時間がかかったが、今こうして仕上げることができているのも、この場所やこの場所におられた方々だけではなく、この記事を目にしておられる皆様、普段私の近くにいる皆様、あらゆるおかげさまのおかげと感じる。
感謝申し上げる。

気が早いが、次回はまさに今日出会った本のことを書くかもしれない。
美味しいものを「美味しい!」と食べるだけでなく、誰かの連ねた文章や文学、芸術、また意図して作られたものでない自然をしみじみと感じるのも大好きなのだ。

心穏やかでいたい。

次回はこちら

↓つれづれなるよしなしごとはこのマガジンにまとめています。

あなたの気持ちが、巡り巡ってやがてあなたの元へと還りますように。