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ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』レビュー

※もちろん書評ではなくレビューです。一緒か……。

先日、ようやく『銃・病原菌・鉄』上下巻を読み終わった。
通勤時間と会社の休み時間に少しずつ読むだけだったので、本当に遅々としていたが、こうして「引き延ばし読み」するのもなかなか面白かった。
昨日読んでいた続きが今日初めて判明する、というのも毎日の楽しみで、こういう教養書には珍しく「この後どうなるんだろう」「どういう論の展開が進むのだろう」というワクワク感がずっと続いた、不思議な本だった。

不思議じゃあないか。
きっと世の中にはそういうワクワクする世界がたくさんあるんだ。
私がまだ知らないだけだ。

ユーラシア大陸とそれ以外の大陸のこと

正直、私から見ても、世界を支配しているのはヨーロッパ人とヨーロッパを起源に持つ人々であり、少なくともユーラシア大陸を起源に持つ人々であると言わざるを得ない。
現EUの人々やイギリス、アメリカ、中国の人々。日本はユーラシア大陸ではないように見えるが、中国と地続きであったこともあったので実質的にはユーラシア大陸のうちに含まれる。
そして、それ以外の大陸を起源に持つ人々は控えめな言い方をすると「影が薄い」。
たとえば、アフリカ大陸を起源に持つ黒人、ピグミー族、コイサン族。オーストラリアのアボリジニ。ネイティブ・アメリカン。

その差は一体どうして生まれたのか?

著者は、よく言われがちな「ヨーロッパ人などユーラシア大陸を起源に持つ人々が、生物学的に優れているからだ」という意見を明確に否定した。
そうではない。「環境や気候・地形」の違いが重なって長い時間をかけて差が拡がっていったのだと。

かいつまむと、大陸間の「文明」や「持てる物」の違いは、

・現生人類はアフリカ大陸を起源とし、そこからユーラシア大陸に到達するのにさほど時間はかからなかった
・ユーラシア大陸が東西に長いのに対し、それ以外の大陸は南北に長い
・経度が違っても同緯度なら気候(主に気温)が変わりづらいが、緯度が違うと気候は大幅に変わってくる
・ゆえに東西には農業、栽培作物、家畜やさまざまな技術が伝わりやすいが、南北には伝わりづらい
・やっと各大陸の南端まで伝わった頃には、ユーラシア大陸はもっと別の新しい技術などを既に発展させていた

まず、これが一番の要因である、と述べる。

私はこれを読み、合点がいった。
私の持論も、あらゆる人間の、もっと言うと生き物の進化は「環境や気候がそうさせる」というものだったからである。
ただ、具体的に「どういう環境が」「どういう気候が」「その地の人間をどう変えていったか」までは考えたことがなかったので、それを詳しく(それでもかいつまんで)知れたことが本当に楽しかった。

病原菌のこと

更に、この書は『銃・病原菌・鉄』というタイトルであるが、上記の要因で「銃」と「鉄」は何となく登場場所が予測できると思うが(つまり技術・文明ということである)、「病原菌」はなお圧巻である。

・現生人類がアフリカ・ユーラシアからアメリカ大陸に移動していくうちに、狩猟の技術が上がっていった
・南北アメリカ大陸に到達した人類は、優れた狩猟技術により大型哺乳類をほとんど絶滅させてしまった
・そのため南北アメリカ大陸に家畜化可能な哺乳類がほとんどいなくなってしまった
・時が下り、ユーラシア大陸で家畜を育てるようになった頃、家畜の病原菌がやがて人間にも感染可能になっていき、それが伝染病(天然痘やペストなど)となってユーラシア大陸をしばしば襲った
・伝染病に抵抗力を持つヨーロッパ人がアメリカ大陸に進出した時、先住民達は、家畜がいないため病原菌もおらず当然伝染病への抵抗力も持っていなかった
・ヨーロッパ人がもたらした伝染病による死者は、侵略や戦いによる死者よりも遙かに多かった

ということだった。

全ては、たまたま。環境や気候、地形、緯度など、病原菌がうじゃうじゃいる大陸とそうでない大陸が発生させたのは、そういう偶然の要素である。

それにつけても、この病原菌の下りには本当に圧倒された。
折しも新型コロナウイルスが流行している昨今、まさにタイムリーで、こういう言い方をするのもなんだが無常を感じずにはいられなかった。
よくあることなのだ。何百万人もの死者を出す伝染病というのは。
伝染病を病原菌の立場から考えてみた第11章なんかもとてもオススメである。

おわりに

トヨタ式は「なぜ」をつきつめていくやり方だと言うが、論文を書く作業というのはまさにそれだなと感じる。
しかし、この書に関してはそれどころではなく、あらゆる学問を総動員して書かれていると感じる。特に、言語学の登場は私にとってはこれまた圧巻だった。
歴史学と呼ばれる分野に言語学が投入されるのは、よくあるとは思うのだが、それにつけてもこの本は分野が広すぎる。遺伝学、分子生物学、進化生物学、生態地理学、地質学、文化人類学、技術史、文字史、政治史、そして言語学。聞いたことも無い学術分野もたくさんある。

私は、この途方もない書に出会えて本当に楽しかった。
何より、世界に起こるあらゆることの「究極の要因」を探っていく旅が、楽しかった。

さて、前回のnote記事で「音楽における楽譜の有無もひょっとして似たような原因だったりするのか?」という疑問を抱いたが……

前々回でした。
それを突き詰めて考えていくには、私には知識も時間も足りなさすぎる……が、いつか研究してみたいテーマではある。

そう、この書を是非とも音楽にも活かしていきたい。
それが私の願いだ。

↓サイトの新記事もよろしければどうぞ。

次は燃え殻さんの本にしようと思うけど、先だってコメントにて同じ作者の『文明崩壊』をオススメされたので、それも買ってみようと思う!

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