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「No.18」「挿絵の魅力」ドレの《神曲》

こんにちは!かずさです!

今週から大学の授業が本格的に始まったので、投稿が隔日になります。やっと学生らしい生活が戻って来て嬉しいです!先生によっては音声のみでラジオ放送みたいになっている授業もありますが…。

最近、物語画ばかり紹介していますが、さらにつっこんだ作品を紹介したいと思います!

作品紹介

今回の作品はギュスターヴ・ドレの『神曲』の挿絵より地獄篇です。

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木口木版 1861-1868年

暗い風景の中、石で囲われた穴が開き、そこから半裸の男性が苦しそうに体を仰け反らせています。その横を2人の男性が通り過ぎようとしていますが、半裸の男性に声を掛けられて立ち止まっているようです。

穴は火がつけられているようで、煙も立ち上がっています。

黒一色の版画で制作されているのに、火の目が焼け付くような光が見えるようです。ダンテの『神曲』の場面を見る前に、画家のドレとこの版画について簡単に考えてみたいと思います。

ドレと木口木版

ギュスターヴ・ドレ(1832-1883)はフランス人の画家で、スイスとの国境近くのブール=ガン=ブレスという街で育ちました。とても早熟で、12歳の頃にはリトグラフ集を制作しています。ドレは、まだ10代の内にパリの出版社から声を掛けられ、挿絵画家としてスタートしました。

ドレは、大型の油彩画や彫刻も制作しましたが、今回の作品のような挿絵がとても有名です。

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ドレ(1867年頃、ナダール撮影)

ドレが挿絵を描いたものの中には、バルザック、フランソワ・ラブレー、ミルトン、セルバンテスなど著作があります。その中でも、よく知られている作品は、セルバンテスの『ドン・キホーテ』、エドガー・アラン・ポーの『大鴉』、シャルル・ペローの『マ・メール・ロワ(寓話集)』があります。

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『マ・メール・ロワ』(1867年出版) 「赤ずきんと狼」

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『ドン・キホーテ』(1863年出版) 

現在手に取ることが出来る書籍では、岩波文庫の『ドン・キホーテ』などでドレの挿絵が用いられています。

これらのドレの版画作品には木口木版という技法が用いられています。これは、18世紀末から多く用いられるようになった技法で、凹版の版画よりも短時間で制作可能で、凸版の活字と一緒に印刷出来るという利点がありました。

また、この木口木版画では、ツゲの木などの硬い材質の木を輪切りにした面に銅版画の彫刻刀(ビュラン)で彫ることで、今までの板目木版画よりもはるかに細かい描写が出来るようになりました。

以前、ミュシャの作品を取り上げたときに、同時代に用いられていたリトグラフについて軽ーく触れたのですが、

このリトグラフが、平面的で大胆な構図が得意でポスター向きであるのに対して、細かい描写を得意とする木口木版画は挿絵向きであると言えます。

現に、19世紀末頃まで木口木版画は新聞、図鑑、文学書の挿絵など精緻な描写を必要とするメディアに用いられていました。

このような技法の登場により以前よりも格段に版画を制作しやすくなったのですが、挿絵の需要が高まったのは当時の社会的背景も関係していると思われます。

産業革命以降、新たな階級として中産階級が台頭してくるようになります。この中産階級は、以前の貴族などに代わって文化の担い手になり、享受するようになりました。絵画など官展に出品された作品でも、この新たなパトロンによってより分かりやすく世俗的に変化した部分があります。

また、19世紀は、フランスの識字率が著しく向上した時代です。ドレがダンテの『神曲』やペローの寓話集の挿絵を制作していた1870年代前後では、約70%の成人男性が字を読み書きすることが出来るようになっています。

このような中で、エドガー・アラン・ポーやジュール・ヴェルヌなどの現在でも知られているベストセラー作家が生まれ、大衆文学の文化が大きく花開きました。

ドレが多く制作していた挿絵は、こういった技術面や文化的な背景に支えられていたのです。

挿絵の魅力

現在、挿絵が入っている本は小中学校が読むような小説や絵本が多いので、大人になってからは挿絵がある本をあまり読まなくなってしまいましたが、挿絵は読者に物語のイメージを分かりやすく伝えるために凄く有効的な方法です。

さらに、イメージを伝えられるだけでなく、読者がもっと想像力を膨らますことが出来ます。

今回の作品、ダンテの『神曲』地獄篇の挿絵も同じことが言えます。

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この作品での2人の男性は、左がローマの詩人ウェルギリウスで、右が主人公のダンテです。この場面は、墓の中に人が入れられているような様子からして地獄篇の中でも第9歌から第10歌に登場する「第6圏邪教徒の獄」だと考えられます。

この地獄での刑は、下のように描写されています。

ここにも墓がいたるところにあって もっと悲愁が立ちこめていた。墓と墓のあいだからは焔が噴きだしていて、どんあ鍛冶屋もこうは鉄を灼けないほどに、その墓はすっかり灼けきっていた。墓の蓋はことごとく持ち上がって、いたたましい呻き声がそとに洩れていた。 
ダンテ(三浦逸雄訳)『神曲 地獄篇』角川ソフィア文庫よりp102から引用

鍛冶屋が鉄を打つときの熱さってどんな感じなのでしょう?鉄の融解温度が1500度らしいので、それ以上でしょうか?生きていたら、灰になるレベルですよね…。

そんな場所で、ダンテはフィレンツェの貴族だったファリナータから声を掛けられます。そのファリナータは穴から身を上げていたをされているので、ドレの挿絵の中の人物もその彼だと思われます。

本文では、墓がならぶ場所を進む中、ファリナータから話しかけられるので、周りには他にもたくさん墓があるはずです。しかし、ドレの絵の中では、ダンテとウェルギリウス、ファリナータの3人だけが暗い中で浮かび上がるようにクローズアップされています。

ファリナータの切々とした表情の描写からは、まだ生きているダンテに自分の考えや辿った道筋を語りたいという気持ちが読み取れるようです。この語り合いの場面をより印象深いものにしています。

この挿絵があることで、読者は登場人物たちの考えや感情をもっと理解し、ダンテの描いた地獄の恐ろしさを追体験することが出来るのではないでしょうか。


今回は挿絵を紹介してみましたが、いかがでしたでしょうか?文章だけでは表現しきれない部分や新しい解釈を挿絵を通して見ることが出来る、そういった魅力が挿絵にはあると思います!

美術館でもドレの展覧会はたまに開催されていたりするので、それに足を運ぶのもいいですが、ぜひ本の中でドレの作品を見て作品の世界を体験してください!

次回は、アジアのアートを紹介します(o^―^o)


画像は全てパブリック・ドメインのものを使用しています。

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今回参考にした本、おすすめの本を紹介します!ぜひ、おうち時間に読んでみてください!

(この『神曲』はドレの挿絵が使われていないのですが、ボッティチェッリの素描が挿絵で使われていておすすめです!あと、訳もきれいです!)

↑こっちはドレの挿絵です

↑これもドレの挿絵です。ドン・キホーテもぜひ!







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