児童養護施設の心理士

児童養護施設の職員集団


児童養護施設には様々な職種の職員がいます。


トップは園長(施設長)です。その下に、副施設長や主任などの管理職がいます。


現場で直接子どもをケアするのはケアワーカーの仕事で、施設職員と言われれば多くの場合がケアワーカーのことを示します。


その、ケアワーカーの仕事を支えるのが、専門職と呼ばれる職員です。


専門職には、個別対応職員、家庭復帰支援員、自立支援コーディネーター、栄養士、調理士、看護師、精神科医など様々な職種が存在します(※東京都のみ配置されている専門職もいます。)。


それぞれの役割に応じて、それぞれの専門性を発揮するのが、専門職です。

心理士


その中でも、看護師、精神科医や栄養士と同様、現場のケアワーカーとはまったく違う資格で働くのが心理士です。


心理士の資格で最も有名な資格は臨床心理士です。認定心理士という資格もあります。


児童養護施設には心理士がカウンセラーとして配属されており、施設で生活する児童のセラピーを行います。


基本的には週1回50分のセラピーが行われます。


心理士は児童の定員によって配属できる人数が決まっており、施設の人数に応じて採用される心理士の人数が変わります。


心理士は常勤採用と非常勤採用があり、常勤採用1名、非常勤採用が複数名という構成が一般的な施設の印象です。

心理士の仕事


私はケアワーカーなので、ケアワーカーから見た心理士の仕事ということを前提に説明します。


心理士は、前述したように児童にセラピーを行います。


それ以外に、生活場面面接と呼ばれる、文字通り生活場面に入って児童を行動観察する場合もあります。


その他に、各種会議に出席し、心理面からの見立てを共有したり、ケアワーカーに助言や提案を行います。


非常勤心理士は出勤する曜日が固定されていることが多いのですが、週に1回〜月1回の頻度で、心理職ミーティングを行います。


担当しているケースの共有やスーパーバイズを受けます。


私が知っている心理士は、施設内のスーパーバイズの他に、自分で外部のスーパーバイザーを探してスーパーバイズを受けていると言っていました。


施設の心理士は、自分がどのように子どもと関わっているかを客観的に見てもらう機会が少ないので、積極的に自分で成長する機会を外部に取りに行かないといけない、とも言っていました。


難しい仕事だと思います。

ケアワーカーとの連携


心理士は、セラピーを通じて子どもをアセスメント(見立て)します。


アセスメントは現場のケアワーカーに共有し、子どものケアに必要なことをアドバイスします。


また、発達や精神疾患の情報もケアワーカーに提供します。


心理士が見立てるのは個別のケースなので、現場のケアワーカーはその助言を聞きながら、複数子どもがいるホームでどれだけ助言を活かせるのか検討します。


そして、最終決定はケアワーカーが行います。


この、最終決定はケアワーカーが行うということがポイントです。


心理士はあくまで、助言と提案が仕事です。


実際の支援を行うケアワーカーが心理士の言わんとしていることを理解して実践しなければ、本当の意味でのケアにはなりません。


心理士の言っていることを機械的に実践しても意味はありません。心理士は発達上、もしくは精神医学上、効果が期待できる方法を提案しているはずです。その根本を理解して関わることで意味が生まれます。


心理士は、ケアワーカーのレベルを見定めて、ケアワーカーのチームで実現できるレベルの提案をしなくてはなりません。


このあたりが微妙なのですが、心理士が正しいことを言うことが大切なのではなく、ケアワーカーに理解できる言語で、理解できるように、理解されるような関係性を構築して話すことが大切です。


心理士は、臨床心理士資格を取得するため、大学院を卒業しています。学歴、年齢ともに、ケアワーカーより上位である場合が多いです。


一方ケアワーカーは、専門学校や短大卒もいます。異業種から来た職員は、まったく資格を持っていない場合もあります。


そういうケアワーカーがしっかり仕事をするために、心理士は支援をするのです。決して、ケアワーカーを指導したり注意したりすることが仕事ではありません。


勘違いしてはいけないのは、第一線で子どもをケアしているのは、ケアワーカーということです。週に2回の宿直をこなし、常に子どもの前に立ち、時間の枠がない中で緊張状態を持続させているケアワーカーが、心理士と同じパフォーマンスを維持することは出来ません。


そのことにリスペクトを持ち、ケアワーカーを支えてください。


そして、ケアワーカーは、専門的な知識で助言をしてくれる心理士を、同じようにリスペクトしましょう。


心理士は、前述した通り外部のスーパーバイズを自費で受けて施設のセラピーに当たっています。


ケアワーカーは評判を元に仕事を取りますが、心理士は技術を元に仕事を取ります。


資格と自己研鑽を積まないと、心理士は仕事を得ることが難しいです。


また、常勤で仕事をすることもリスクです。技術を用いて非常勤として複数の仕事を掛け持ちするのが普通です。そういう意味では、心理士は非常に高いレベルで学習を積み続ける職種です。


だからこそ、児童の発達や精神症状について、詳しい助言ができるのです。

心理士の過酷さ


心理士は、自分の価値観や生い立ちがセラピーに影響を与えやすい仕事です。


私は大学の心理学部出身のケアワーカーですが、カウンセリングの授業を受けた時、この仕事は私にはできないと思いました。


それだけ難しい仕事をしているので、自己覚知を徹底的に行います。


セラピーを受けることはもちろん、意識の高い心理士は教育分析を受けます。


教育分析は、精神分析を一定期間行った心理士だけが行える、レベルの高いカウンセリングのようなものです。


1時間25000円ほど、かかるところはかかります。


それを、真摯に仕事をするために、自費で受けている心理士もいます。


そういう人たちを、リスペクトしなければなりません。


ケアワーカーは、体力と精神力を消費し、心身をすり減らして仕事をしています。


心理士は、知識と技術を使い、信頼関係を軸に仕事をしています。


心理士に敬意を払い、心理士の知識と技術を会得しましょう。そして、無敵のケアワーカーになってやるのです。


陥りやすい罠


ここからは、困った心理士の話をします。


前述した通り、心理士は高いレベルの知識と技術を要します。


それゆえ、ややケアワーカーを見下してしまう心理士がいます。


心で思っているだけならいいのですが、それがケアワーカーに伝わってしまうと、心理士としては無能です。


信頼を得られない心理士は、仕事になりません。


高い知識と技術があっても、信頼関係のない心理士ほど不要な存在はありません。


心理士はこのことをしっかりと覚えていてもらいたいです。

ケアワーカー側も用心することがあります。


レベルの高い心理士ほど、質問に的確に答え、必要な助言をくれ、問題の解決方法を提案してくれます。そして、なぜそう考えるのかを、ケアワーカーがわかるように説明してくれます。


そうなると、困ったことは心理士に聞けばいい、困ったら頼ればいいという甘えが生じてきます。


依存関係の一丁上がりです。


こうなると、ケアワーカーは心理士がいなくては仕事が出来ない人間になってしまいます。


忘れてはいけないのは、子どもと関わるのは自分だということ。心理士は、自分が直接関わる手助けをしてくれているだけだということです。


そのプライドと前提を忘れてしまうケアワーカーが、たまにいます。


自分の頭で考えることなく、それこそ心理士の言う通りに仕事をする人間になります。


そういうケアワーカーは、人を育てることはできません。


現場で経験を積んで人をマネジメントする立場になった時、使えないケアワーカーになります。


心理士も大変ですが、ケアワーカーが自立して仕事ができるよう、徐々に自分で考えられるような助言に切り替えていってあげて下さい。

終わりに


心理士が受けている外部のカウンセリングや教育分析は、ケアワーカーが受けることにも大変な意味があります。


私もカウンセリングは受けましたし、メンターになってもらっている人も職場以外の人です。


職場の人間関係ではどうしても利害関係があり、言えないことや言ってしまってはマイナス評価になることもあります。


そうならないよう、すべての人が自己研鑽しながら仕事に励んでもらいたいと思います。

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