【児童養護施設職員が児童虐待をしてはいけない】

【児童養護施設職員が児童虐待をしてはいけない】


冒頭から当たり前のことを言いますが、児童養護施設職員が児童虐待をしてはいけないです。


そもそも、児童養護施設に入所するほとんどの児童が、保護者からなんらかの虐待を受けて入所しています。


大人に権利を侵害されている子ですから、施設に保護した後に権利を侵害してはいけません。


まぁここまでは、当たり前のことを当たり前に言っているだけです。児童養護施設で働く職員は全員、そんなことはわかっているのです。


でも、どうして施設内児童虐待はなくならないんでしょうか。


私の経験から、一つだけ仮説を紹介します。

「私は大丈夫です」の恐怖


私の仮説は、私は大丈夫です、と言う職員こそ本当は危ないということです。

私が児童養護施設職員になったばかりの頃、こどもの問題行動の意味が理解できず、私は私なりの方法で子どもと関わるしかありませんでした。


新卒で入職した男性職員など、子どもたちからしたらただの近所の兄ちゃんと同じ感覚です。言うことなど聞きませんし、基本的に舐めてます。


私に対して強気な発言をする子や、小馬鹿にする子はたくさんいました。


その中に、小柄なのに私に威圧的に接してくる子がいました。


当時中学3年生だった男の子です。


子ども同士の諍いがあり、仲裁に入った私に対して、「ムカつく」ということで、私とその子の間にあった事務所のカウンターをバンバン叩き始めました。


そのカウンターはアルミ製だったので、昔から叩かれてボコボコでした。


そのカウンターを執拗に叩く男の子に腹が立った私は、カウンターから遠ざけるため、その子を押しました。


その小柄な男の子は、1メートルほど吹っ飛び、後ろの壁に背中を打ち付けました。


男の子はびっくりした様子で、事務所から出て行きました。


私と男の子のやりとりを見ていた先輩職員が、「さっきのあれ、虐待だよ。」と言いました。


新卒ほやほやの私は、「そうか。虐待だったか。」と思い、「これはこのまま施設職員を続けてはいけないな。」と自己判断し、次の日に園長に面談をお願いしました。


昨日の男の子とのやり取りを説明し、自分の対応を伝え、「私は、自分の感情を抑えられずに子どもに暴力を振るいました。施設職員失格だと思っています。辞めます。」と伝えました。


私は私の思いがあって入職したので、志半ばで断念することを、断腸の思いで伝えました。子どもを守るために入職したのに、自分は子どもを守れないと。


園長は、私に言いました。


「施設職員に、あなたは子どもに暴力を振るうかと聞いたら、おそらく95%以上が、私は振るいませんと言うだろうな。でも俺はそんな言葉は信じない。本当に感情が揺さぶられるような際の際の対応をしている時、それでも暴力を振るわない自信なんて、どこからくるんだ?そんなものないんだよ。5%の職員が、自分は暴力を振るうかもしれないと言う。その職員の言葉を俺は信じるよ。暴力を振るってしまうかもしれない、でもその気持ちを抱えながらも暴力を振るわないように対応するってことが大事なんだ。お前はようやくスタートラインに立ったんだ。辞めるな。続けろ。」


私は、堪えていた涙が溢れました。


この日のことを私はずっと忘れないだろうと思いました。

それからも、暴力とまではいかなくとも、子どもと取っ組み合いになることは何度もありました。何しろ舐められるので。


自分が経験を積んで、お兄ちゃん→職員、に変わった時期がありました。


ベテラン職員が使っている、大人パワーを使えるようになりました。


子どもたちが、少しずつ私を受け入れるようになりました。


今では、もう感情を揺さぶられるほど、私を試す子どもは減りました。


私が、子どもと寄り添うようになったのも大きな要因ですが、1番の理由は、「私は私が暴力を振るうかもしれないと思ってるから、必要以上に際の際に行かない。」と決めることができたことです。


子どもたちは、自分ではどうしようもない苦しさの中にいる時があります。


その苦しさを、私たちにぶつけてきます。


私は、子どもの苦しさを、今の自分が受け止められるのか、必ず確認します。


明日辞めてもいいなら、全力投球できます。


でも、職員の仕事はこれからも続きます。


今、このコンディションでどこまで受け取れるのか、私は私に確認します。


もし、自分がこれ以上受け止められないと思ったら、私は逃げます。


私と、子どもを守るためにです。


私が必要以上に子どもたちにいかないので、子どもたちも私に必要以上にきません。


しかし、それで信頼構築ができないようでは話になりません。


必要以上に子どもの苦しさを受け止めず、それでもそばにいるようにするのです。


私が子どもたちを理解するように、子どもたちにも私を理解してもらうのです。


そうして、今でも児童養護施設職員を続けています。

自分を過信せず、自分が万能ではないことを知り、出来ることを出来るだけやるのです。


これが、意外に難しい。


児童養護施設の職員が虐待を行う場合、多くの場合は子どもを大事に思うことで、自分に出来ないことをやろうとして失敗していることが多いのです。


虐待親も、根源は近いものがあると思います。


期待していない子であれば、愛していない子であれば、無関心な子であれば、わざわざ虐待なんてしません。


あ、中にはネグレクトという育児放棄もあるので、一概には言えませんが。


施設職員が悪意を持って虐待するケースは、私はあまり見たことがありません。


それぐらい、際の際で働いているのが現状だと思っています。

だからこそ、私たち児童養護施設職員は、「自分には大したことは出来ない。」と思っておく必要があると、私は思っています。


多くを求めず、それでも出来ることをするしかないのです。


その苦しさに、耐えられるかどうかなのだと思います。


そして、その苦しさに耐えた後、子どもたちが自分の人生を歩む姿を見て、幸福を感じようではないかと。


さてと、明日も頑張りましょう。

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