児童養護施設を出たあとはどこに行くのか

児童養護施設はいつか出て行かなければならない


当たり前のことですが、児童養護施設はいつまでもいることはできません。


基本的な入所は18歳までと定められており、高校3年生の在学中に18歳を迎える児童は、児童相談所に措置延長の手続きをしてもらい、高校卒業まで入所を許可してもらう、という手順を踏まなければなりません。


現在は、大学4年間はなるべく児童養護施設から通えるよう、社会的養護自立支援事業という制度があり、児童養護施設から退所する年齢は年々遅くなっているように感じます。


それでも、いつかは子どもたちは施設を出ていきます。


児童養護施設施設をでる子どもたちは、どのように社会に出ていくのでしょうか。


大まかに、子どもたちは以下の3種類、いずれかで退所を迎えます。


・家庭復帰

・社会的自立

・措置変更


では、それぞれに詳しく見ていきましょう。

家庭復帰


家庭復帰とは、読んで字の如く、施設に入所する前にいた家庭に帰ることです。

施設に入所する原因となった問題が改善されることで、家庭復帰が実現します。


親権者が虐待を行なっていた場合を想定して、考えてみましょう。家庭復帰の流れを簡単に説明するための例なので、細かい話は無しです。


まず、親権者は児童相談所で行われる虐待カウンセリングを受けます。その後施設に入所している子どもと面会を重ね、子どもが安心して家庭に帰れるかどうかを児童相談所の心理士が面接で子どもに確認し、家庭復帰となります。


子どもも安心できるかどうかを判断する材料がないので、家族との交流は順序立ててきちんと行います。


最初は、児童相談所で福祉司や施設の職員が同席し、初回面接を実施します。

この時の目的は、親権者が虐待したことをしっかりを謝罪することです。まず、辛い気持ちにさせたこと、暴力を振るったことを、親権者の口から謝罪します。


その上で、子どもの気持ちに応じて、年に数回程度の面会から始めます。面会が好調であれば、面会の頻度を増やします。家庭復帰が見込まれる家庭に関しては、面会が毎月になることもあります。


面会が安定してくると、外出してご飯など食べる機会を設けます。

外出に慣れた頃、児童福祉司が家庭訪問を実施し、家庭が不適切な環境から改善されているかを確認します。この家庭訪問には、施設職員も同行する場合があります。


家庭訪問終了後、外泊が始まります。親権者の家に泊まりに行くことを外泊と呼びます。


外泊は、家庭復帰間近になると、最長で1ヶ月ほど行う場合もあります。その時は、問題がなければそのまま家庭復帰、という流れでの外泊になります。


以上が、簡単な家庭復帰の流れになります。


思っていたより手順が多いと思った方もいるのではないでしょうか。


児童相談所が施設入所の判断をするのは、実は本当に少ないケースなのです。

一時保護された児童のうち、7割近くが家庭に戻ります。残りの3割が、何らかの施設を利用したり、親戚の家に異動したりするのです。

里親やファミリーホーム、自立支援施設なども入所先の候補になるので、児童養護施設に来る子がいかに少ないのかわかります。それだけ、難しい環境だったと判断された子どもたちが来るのです。家庭復帰には慎重にならざるを得ないということです。


また、施設から親戚や別の保護者、例えば、離婚して親権を持った親から虐待されて入所した場合、親権のない方の親のところへ復帰するなど、もといた家庭ではない家庭に復帰する場合もあります。

社会的自立


これは簡単に言えば一人暮らしです。

進学や就職をして、アパートで一人暮らしをする場合、社会的自立と言います。


子どもたちの多くが、家庭復帰できるわけではありません。本当に深刻な虐待で保護される場合もあり、関係修復は容易ではありません。子どもが親と関わるのを拒否する場合も少なくありません。


また、幼い頃から親から虐待を受けており、体が大きくなって思春期以降に、今度は子どもが親に暴力を振るう場合が大変多いです。

子どもの暴力は学習によって獲得されるので、親が適切な養育をしていたにもかかわらず子どもに暴力を振るわれるというケースはあまり見たことがありません。過干渉だったり、暴力を振るっていたり、子どもの自主性を大事にしてこなかったツケが、家庭内暴力を引き起こしているように感じます。


そうなると、子どもが望んでも親が家庭復帰を望まない場合があります。


また、単純に親が虐待の事実を受け入れない場合もあります。

「躾のためにやった。」と、虐待を正当化してしまう場合です。

前述した通り、まず子どもとの初回面接は謝罪から入るので、虐待と認識してもらわない限り子どもと面会することはありません。面会しなければ、家庭復帰は進みません。

順調に進学や就職が決まり、子どもたちが一人暮らしを望み、アパートを探すという流れが理想です。高校にしっかり通えている子はアルバイトをする場合が多く、その中で一人暮らしの初期費用を貯蓄します。

国や自治体からも自立支度金が支給されますが、それだけで自立はスタートできません。児童養護施設で暮らしながら、自立を準備をしなくてはなりません。


そうしてしっかり準備できた子、進学や就職を決めた子が、円満退所として施設を退所します。

では、円満でない退所はどういう退所でしょうか。


稀に、施設を勝手に出て行って家庭に帰ってしまう子や、施設を出ていきたくて高校を中退して自立する子がいます。また、暴力や門限破りなど、施設で保護する上で最低限の安全が守れない行いを続ける子を、不本意ながら無理やり自立させる場合もあります。

そういった場合も、円満ではないですが社会的自立と呼ぶでしょう。


上記のような円満ではない自立の場合、貯金などまずありません。その子たちは、大抵が住み込み就労になります。住み込み就労は、行くアテのない子どもたちにとっては挑戦するチャンスなので、非常に貴重です。

しかし、私の今までの経験で、施設から退所して住み込み就労して、そのまま継続して働き続けた子はいません。大抵は施設にいた時と同じように、その場所にとどまることが出来ず、また別の場所に行ってしまいます。そうして転々としていくうちに、5年から10年ほどかけて、自分に合った場所を探していくという感じです。

そして、その多くの子どもたちが、施設とは連絡を取らなくなります。


円満退所した子も、難しいことがあります。


施設を出たばかりの時は、毎日が刺激に溢れています。自分ひとりの空間、新しい仕事。それこそ、ガスの開通や定期の購入、ゴミ出しや住民票のことなど、やらなくてはならないことが山ほどあります。忙しいし、新鮮な毎日を送るでしょう。


そして、大体1ヶ月ぐらい経つと、新しい生活にも慣れ、騒がしかった施設の生活を懐かしく思い、突然、大きな孤独感に襲われます。


私はこれを「1ヶ月クライシス」と呼んでいます。


施設を退所した子たちから、大体1ヶ月ぐらい過ぎると連絡が来るからです。

寂しいとか、苦しいとか、そういう負の感情は、少し落ち着いた時にやってくるのです。

この1ヶ月クライシス、本当に大変なので、施設を退所する子には必ず連絡するように伝えています。苦しい時は、本当にすぐ連絡して欲しいのです。取り返しがつかなくなってから連絡する子がいますが、本当にもっと早く連絡してくれよと何度思ったことか。もちろん、こちらから連絡すればいいのですが、ついつい毎日の業務に追われていると、うっかり忘れてしまうことはあります。また、知らせがないのがいい知らせ、と安心していることもあります。

ただ、1ヶ月クライシスは本当に辛いので、その時は連絡して欲しいと、私は退所する子にしつこいぐらいに言います。


社会的自立も、楽ではありません。

措置変更


措置変更とは、別の施設に行くことです。

円満な措置変更の最たる例が、自立援助ホームに措置変更になることです。


自立援助ホームとは、就労しながら社会的自立を目指す子どもたちが住む場所で、寮費を毎月3万円程度支払わなくてはなりません。

児童養護施設と違い、お小遣いや日用品のお金も、自分で捻出します。

3万円の寮費に含まれるのは、朝夕の食費、住居費、光熱費です。それ以外は自分で働いた給与から支払わなくてはなりません。

主に、児童養護施設からすぐに社会的自立するのが難しい子や、学校に通わずに働くと決めた要保護児童が入所します。


児童養護施設は2歳から入所できますが、自立援助ホームは15歳から入所できます。


上記は、あくまで円満な措置変更です。


退所の流れはすべてにおいて、円満な形とそうでない形が存在します。


措置変更における円満ではない形は、暴力行為や児童同士の権利侵害が原因の措置変更です。


児童自立支援施設という触法少年が入所する施設が、第一選択肢になります。


定員が埋まっていたり自立支援施設で受け入れが難しかったりした場合、または自立支援施設に相当しないと判断された場合、別の施設に措置変更となります。別の施設というのは、文字通り別の児童養護施設になります。

性的な事故(児童間での性的な加害と被害)が発生した場合、被害児童の安心安全のために、分離を行います。ほとんどが加害児を異動させますが、施設内で別のホームに空きがなかったり、そもそも加害児の問題行動が大きく、他ホームでは養育できないという判断をされることがあります。そうなると、別の施設に異動するしかありません。


性的な事故だけでなくとも、職員への暴力で数名の職員を退職に追い込んだ児童や、威圧が強すぎて他の児童が安心して生活できないという児童も、もう養育出来ないという理由で措置変更を行うことがあります。


そうして別の施設に来た子が、その施設で適応的に生活できるでしょうか。


答えは、「非常に難しい。」です。前籍施設で起こした問題と似たような問題は必ず起きます。そして、施設職員に対して、より深い不信感を持っています。なにせ、前籍施設から「見捨てられた。」のですから。


そういう、深く傷ついた子どもたちを、私は何人か見てきました。もちろん、前籍施設での行いを改め、新たな環境で自分の道を歩もうとする子もいました。また、信頼関係ができて、前籍施設では言えなかった、言わなかったその時の気持ちを話す子もいました。そのたび、「前の施設でもっとしっかり見てくれれば。」と思っていました。


ただ、これは私の個人的な意見ではありますが、施設の変更は、私は絶対悪だとは思っていません。


児童養護施設の研修の場で、「措置変更は良いことは一切ない。施設が、適した環境を用意してあげることが大切。」と聞いたことがあります。それも一つの事実だとは思います。


しかし、措置変更の決断に至るまで、施設では最善の努力を惜しまず行なっています。

それこそ、小さい頃から見ている子どもに、職員も愛情を持って接している場合がほとんどです。

ただし、同じ環境で適応的に生活出来ないということは、その子にとってその環境が辛い環境だという事実もまた、あるのです。


職員に暴力を振るう子が、まったく傷ついていないと思いますか?

子どもを性的に搾取する子が、本当に満足していると思いますか?


問題行動と一口に言えばそれまでですが、多くの問題行動が、子どものSOSです。

その環境、向き合う職員、一緒にいる子どもたちが、本当に本人にとって最善であれば、問題行動にはならないのです。問題行動と言っている時点で、すでに職員の主観が加わっていることを忘れてはいけません。その子の行動に説明や改善方法が見出せないから、問題行動なのです。


私は、子どもが養育者の限界を迎えると思われるレベルの問題行動に対しては、養育者の変更は必要だと思っています。


親子でも、こじれた親子が一緒に住むのは難しい。施設でも同様のことは言えます。

一度こじれた職員との関係を修復するのは、本当に難しいです。

一度暴れた児童が、暴れずに感情をコントロールするのは、本当に難しいです。


だったら、環境を一旦変えて、本人が気持ちよく過ごせる環境かどうか、試してみる価値はあると思います。


残念ながら新しい環境になったからとて、ほとんどの児童が適応できません。それはわかっています。しかし、ゼロではありません。

ゼロではないなら、そこに賭けてみる価値はあると思います。


そして、そのジャッジ、施設変更という判断は、やはり現場の職員がしてはいけない。管理職がしっかり見極めなくてはいけない。

現場の職員は、必死です。それこそ子どもたちの問題行動ひとつひとつに、本当に苦しんでいます。

そして、「自分たちでは見れません。」と言えないのです。なぜなら、子どもの成長を祈っているからです。そして、自分たちの努力でそれが実ると思っているからです。

だからこそ、「もうこれ以上お互いが辛い思いをしなくていい。」と、管理職が言わなくてはなりません。

職員がこれ以上勤務できなくなる前に。

児童がこれ以上傷つくことになる前に。


これが措置変更です。


ちなみに、知的障害を持っているお子さんは、通勤寮と呼ばれる入所施設があります。通勤寮が全国にあるのかどうかは知りませんが、東京都にはあります。

通勤寮を利用した子は、その後はグループホームに異動するか、自活能力がある子は社会的自立をします。

終わりに


簡単に退所の方法についてお伝えしてきましたが、何のためにこれをお伝えしたのかという理由が二つあります。


①日本の制度は、整いつつある。

②それでも子どもたちは、とても苦労している。


退所後の支援がとても重要なポイントであることは昔からわかっていました。

ただ、それが最後に退所した施設任せになっていたことは否めません。

施設には、退所した子がいれば入所する子がいます。職員は、毎日誰かの養育をしています。その中で、年々増える退寮生の全員をケアすることは難しいのです。


そうした中、退所後の居場所を確保するNPO法人が出来たり、施設にいる時間を延ばせる社会的養護自立支援事業という制度が出来たりと、国も大変な努力をしています。その結果が今の児童養護の現状だと思っています。


お金、職員、制度、すべてが、10年前とは比べ物にならないぐらい良い方向に変化しています。


ただ、それでもやっぱり、児童養護施設出身の子どもたちは、苦労しています。


困った時に頼れる実家のような機能を施設に求めることは出来ません。

施設によりますが、退寮生が突然泊まりに来ても、泊まれない場合もあります。

自分が住んでいた部屋は別の子が住み、自分が世話になった職員が退職していることもあります。

産前産後に里帰りさせてあげることは出来ません。子育て中に子どもが熱を出したとて、助けに行けるような存在にはなれません。

個人として保証人になってあげることも、病院からの引き取りもできません。警察からの引き取りはできますが・・・。


今後も制度が拡充し、施設で暮らした子どもたちでも安心して施設に帰って来れるような、子育てまでケアしてあげられるような、うつ病になった時に衣食住に困らなくて済むような、そんな未来があればいいなと思っています。


もしこのブログを読んだあなたが、そのための一手を打ってくれたら、こんなに嬉しいことはありません。

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