トマト

夏合宿 #7 (シナリオ)

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合宿4日目の夜。熱海のビーチで花火大会。1年女子4人は輪になって地味に線香花火を垂らしている。

ヤヤ「ねぇ、ヒカリちゃん。そろそろ話してくれてもいいんじゃない?」
ナッチ「そうよ。さっきユリさんと二人で何しゃべってたの?」
ヒカリ「うーん」
アキ「どうせ『天海さんに手を出すな』とか言われたんじゃないの?」
ヤヤ「わ、ユーミンの歌みたい。♪Keep off your hands!彼から手を引いて♪」
ナッチも加わって「♪私の大切なパートナーよ♪」
ヒカリ「いや、ちょっと違うんだなぁ」
アキ「じゃ、何、百恵ちゃんみたいな感じ?」
ヤヤ「♪別れて欲しいの彼と♪」
ナッチ「♪そんなことはできないわ♪」
ヤヤ「♪愛しているのよ彼を♪」
ナッチ「♪それは私も同じこと♪」
ヒカリ「♪ジャンジャン、ジャンジャン♪って違うから。むしろ応援された」

ヒカリの回想シーン。

ユリ「前の男と似てたらダメなの?」
ヒカリ「ダメというかですね… もちろん一緒にいて『楽しいな』とか『カッコいいな』とか思うことはありますよ。でもそういう時に限って、我に返っちゃうんですよね。今、私、誰を見てたのかしらって。それってすごく失礼じゃないですか?」
ユリ「あのさぁ、言わせてもらうけど、あなたちょっと難しく考え過ぎ」

回想シーンが終わり、現実に戻る。3年男子がやってきてネズミ花火を投げつける。シュシュシュシュシュ、パン!1年女子はキャーキャー言いながら逃げ回る。

ヤヤ「なんてことをするんですかぁ」
島谷「しけてんじゃねーよって言いに来たんだよっ」
ナッチ「危ないですぅ」

天海と江川はゲラゲラ笑っている。

島谷「向こうでドラゴン花火しようぜ」
ヒカリ「あ、私、火、怖いんで。ここから見てます」
ヤヤとナッチ「私も」「私も」
天海「ちっ。ノリが悪いな。バンドやる人間がそんなでどうする」
アキ「私は全然平気―。むしろ火遊び大好きー」
天海「お、いいぞ、呑み助。君だけ来いよ」

3年男子とアキは楽しそうに砂を蹴りながら波打ち際の方へ。やがて地面からロケット花火が吹き上がる。その周りで、天海と島谷が小型ドラゴンを手にもって奇声を上げている。

ナッチ「なーんか、先輩達ガキっぽいね」
ヤヤ「無邪気というか、悩み無さそう」

ヒカリは目を細めて彼らを見ている。そして再び回想シーン。

ユリ「あなただけじゃないよ、なんか引きずってんのは。天海さんも、ああ見えて長いことしんどい恋をしてる」
ヒカリ「え?そうなんですか?」
ユリ「詳しいことは直接聞いてみな。結構ペラペラしゃべってくれるよ」

回想シーンが終わり、現実に戻る。アキが手を大きく振って叫んでいる。

アキ「ヒカリ達もこっちへおいでよぉ。これからパラシュート花火だよぉ。パラシュートを拾ったらビール券もらえるんだってさぁ」
ヤヤ「その花火、危なくなーい?」
島谷「全然危なくなーい(女子の声真似)」
天海「オラオラ、とっとと来ないとそっちに打ち込んじゃうぞー」
ヒカリ達「ひぇ~」

江川、腹を抱えて笑う。

ヤヤ「どうする?」
ナッチ「行ってみる?」
ヒカリ「行ってみよ」

ヒュー、パンッ。パラシュートが落ちてくる。みんながそれに群がる。その繰り返し。最後の一発、長身の天海がパラシュートをキャッチする。一方、惜しいところでキャッチしそこねたヒカリは天海に抱きつく格好になり、二人はバタンと砂浜に倒れる。

天海「あっちっち。これまだ熱い。火傷するぜ」
島谷「ひゅー、ひゅー、アッチッチなのはお前らだよ」
江川「天海、ビールおごれよ」
アキ「なんか、よくわからないけど、めでたい。なので滅多に観れない美しいものをお見せしよう。ヤヤ、ナッチ、これに火を付けて」

アキが両手に持った手花火をヤヤとナッチに向けて突き出す。ヤヤとナッチは「何?」「何?」と言いながら、言われた通りに火を付ける。

アキ、両手の花火をバトンのように使って新体操を始める。一同は「おお」と唸った後、静かに見惚れる。満月が波の上に光の道を作っている。アキがその光の道を歩いて月に行くかと思われた時、その両手の花火が一斉に消える。少し沈黙の間があってから天海が拍手を始める。それにつられて一同の拍手がクレッシェンド。アキは柄にもなく可愛い顔でお辞儀をする。

島谷「よーし、宴もたけなわということで、そろそろアレいくかぁ?」
天海「毎年恒例のアレか」
江川「おーし、乗ってきたー!」

男子陣は防波堤に繰り出し、打ち上げ花火を海に向けて点火する。ピュー、火の玉が満月めがけて飛んで行く。

江川「ほっほう」
天海「月に向かって撃て!」
島谷「よい子の皆さんは真似しないでくださーい」

ハチャメチャな騒ぎの中、林とユリが手を繋いで砂浜に消えていく。ヒカリはそれに気づくが、気づかない振りをする。

ヒカリ「なんか、幸せだね」
ヤヤ「うん、幸せ」
ヒカリ「この合宿がずっと続くといいな」

(つづく)

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1986年夏、とある音楽サークルの5日間です。ノンフィクションではありません。次回はいよいよ最終回。