トマト

夏合宿 #4 (シナリオ)

#1 ~#3はコチラ https://note.mu/candycandy/m/m153c52b2cf20

合宿3日目の夜、Lスタにて発表会ライブ。サークル代表の林が司会をしている。

「えー、3日間スタジオに缶詰めだった皆さん、お疲れ様です。今夜はその練習の成果を存分に発揮して下さい。トップバッターのチョコ・ファッションさん、準備をどうぞ」

アキ「げっ。バンド名ダサすぎ。いつ・どこで・誰が決めたの?」
ヤヤ「天海先輩たちがオールド・ファッションだからその妹分ってことでそうなったみたい」
ナッチ「へぇ。先輩達、ドーナッツが好きなのね」
ヒカリ「ほら、行くよ」

ドラムの江川、ハイハットを調整する。ギターの島谷、エフェクターをセットする。ベースの天海、何度かネック上で指をすべらせた後、ボーカルのヒカリに合図をする。ヒカリ、頷いてマイクに向かう。

ヒカリ「チョコ・ファッションです。はじめは1年の女子だけでやるつもりでしたが、見かねた3年のお兄さんたちが手伝ってくれることになりました。レベッカのコピー・バンドです。聴いて下さい」

♪Tonight 悲しみはプライベート 一人で踊ってる強がりなヒロインなの~♪
♪夢は見てるけど 美味しい話なんて乗らないわ そんなに馬鹿じゃないの~♪
♪どこで壊れたの Oh, friends…♪

ヒカリ「ありがとうございました!」
オーディエンス「ひゅー、ひゅー」

ヤヤ「気持ちよかったねー」
ナッチ「うんうん、みんな練習より上手だったしねー」
ヒカリ「ほら、先輩達にお礼、お礼」
ヤヤ、ナッチ、ヒカリ「ありがとうございましたー」
天海、島谷、江川「おお」「ああ」「…」
アキ「ったく、じゃれ合うのはステージ下りてから。次のバンドが睨んでるよ」

一同が振り向くと、2番手の女子バンドが待機してる。
2年女子A「もう、いいかしら」
ヒカリ「あ、はい。すみません」
2年女子B「先輩達、若い子に甘すぎるんじゃないですかぁ?」
2年女子C「パンクする人間がそんなでいいんですかぁ?」
島谷「ドキ」
天海「おら、撤収するぞ、撤収、撤収」

1年女子の肩を押す天海の横を、ユリが通る。すれ違いざま、天海とユリの視線がぶつかる。ヒカリはそれに気づくが見ない振りをする。

「えー、次は100%ガールズ・バンド。お馴染みのピルさん、今回もゼルダの完コピで楽しませてくれることでしょう。お願いします」

ドラムのユリは、ボーカルが挨拶する間もなくカウントを始め、そのまま演奏がスタートする。

♪東京タワーのてっぺんから足を揃えて飛び降りる 世界で一番おおきなキス♪

ヤヤ「なんだか怖い。誰も笑ってないね」
ナッチ「蝋人形が歌ってるみたい」
ヒカリ「表情までゼルダっぽくしてるのよ」
アキ「っつーか、うまい」

♪十の自由は通り過ぎ、二十の自由がやってくる 一歩踏み出して二歩目に逆戻り 巨大な時計が遡る時 何も見えない記憶の渦 時よ 永遠に尾を切ってしまえ♪

ヤヤとナッチ「…」
ヒカリ「くるね」
アキ「くるわぁ」

♪歌うは楽し リズムに合わせ さまよう小人 ここに集えよ アブアラカタブラヤー♪

ヒカリ「やられたね」
アキ「完全にやられた」

ひゅーひゅーという掛け声と、指笛と、大きな拍手の中、ピルの演奏が終わり、続けて3つのバンドが登場。それぞれ3曲ずつ披露した後、司会の林が前半終了の挨拶をする。

「ここで30分間の休憩タイムをとります。後ろのテーブルに酒と料理があります。立食になりますが、皆さん、後半に向けてエネルギーをチャージしましょう。では、また後程」

客席が明るくなる。みんな飛ぶように後ろのテーブルに向かう。ひたすら食べる者、ひたすら飲む者、歓談する者、入り乱れている。そんな中、瓶ビールを持って天海がヒカリに近づいてくる。ヒカリはそれに気づき、さりげなく紙コップを手にして待機する。

が、その時、瓶ビールを持って天海に近づくユリの姿に気づき、ヒカリは咄嗟に紙コップを紙皿に持ち替えて、少し離れたテーブルにある唐揚げを取りに行く。

天海はユリに気付き、やぁやぁという感じになり、いったんビールを置いて紙コップをとり、ゆりにビールをついでもらう。二人、笑いながら前半の感想を述べあっている。

ヒカリは食べきれない程の唐揚げを紙皿にとり、少し途方に暮れながらそれをムシャムシャ食べている。そこへアキがすり寄ってくる。

アキ「なんで譲ったんだよ」
ヒカリ「なんのこと?」
アキ「さっきだよ、さっき。天海先輩、お疲れ様の乾杯をしようとしてたのに」
ヒカリ「ああ、また見てたんだ。アキ、もしかして私のこと好きなんじゃない?」
アキ「はぁ?」
ヒカリ「冗談、冗談。」
アキ「で、なんで譲ったんだよ」
ヒカリ「しつこいなぁ。尊いと思うからだよ」
アキ「尊いって、何が?」
ヒカリ「誰かが誰かを特別に想う気持ちが、だよ。世の中には沢山の人があふれているけど、特別な感情を持てる相手ってごくごくわずかじゃない。しかも『よぉし、この人に特別な感情を持つぞ』って意気込んでから始まるんじゃなくて、気づいたら始まってて、なんかそれって、人間の力を超えた命令を感じて、すごく尊くて、邪魔しちゃいけないもののように思うんだよ。Do you understand what I mean?」
アキ「なんでいきなり英語になるの?」
ヒカリ「面倒臭いと英語になるの」

(つづく)