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「がんと移動の関係を考える インタビューvol.6 〜最後まで運転をしたいという願い〜」

モビリティチームでは、がんに関わる方々に「がんと移動」をテーマにお話を伺います。 6回目は、メンバーでもある森内倫子のコラムです。「私調べ」のモビリティについて感じた課題をお伝えしたいと思います。

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旦那とにゃんこと、そして嫁

うちの旦那は黒いにゃんこのカレラさんと、嫁の私が嫉妬するくらい仲良しでした。働きモノの私は仕事で家を空けることも多く、旦那は自営業(お仕事は車のチューニングなど)だったので、自宅で過ごすことが多かったためか、カレラさんは旦那を愛していました。カレラさんは、旦那になるべく多くの面積をくっつけて過ごしており、旦那もまんざらでもない、そんな2人と1匹の暮らしでした。

ある日、仕事中の私に旦那から電話がありました。「胸が痛いから帰ってきてくれ」と。「胸が痛いって、外から?内側から?」と聞いたところ、「内から・・・」と答えました。病院で合流したところ、夜間救急の先生がレントゲンを見て「肺がんか結核のいずれかですね。すぐ入院してください。」とおっしゃいました。旦那が「これ、肺がんだったら、切るところないな」と言うほど、そのレントゲンは真っ白でした。翌日にはステージ4の肺がんと診断されました。

 余命3カ月と言われましたが、分子標的薬がうまくマッチし、宣告から2年と5カ月。 その間に感じたモビリティの課題についてお伝えしたいと思います。

ベンチを探しながら乗り換えた東京駅

年末に大阪の私の実家への移動を試みました。混雑は避けようと思ったものの、新幹線の予約状況はほぼ満席。旦那の場合、肺に空気が入らず、酸素が十分いきわたらず、呼吸がすぐに上がってしまうため、一度に長い距離の移動が出来なくなっていました。座ってしばらく休んで呼吸を整えられれば、また、動けるようになるのですが、呼吸を整えるための場所が少ない・・・。ベンチが少ないのです。旦那をおいて、先回り、ベンチを探しながら移動しました。日常生活の中では車椅子を使うほどではない時期でしたので、駅がこんなに広いのか、と再発見でした。お昼ご飯を食べるためにお店に入って休憩、コーヒーを買って休憩、ベンチが少ないために、ちょっとずつ有料スペース(飲食店)も間に入れながら、新幹線乗り場までいきました。今ある数の倍、いや、3倍くらいのベンチがあるとありがたいと思いました。

病院の設計とオペレーション

旦那がお世話になっていた病院は、駐車場が遠い。いや、私にとっては大した距離ではないのです。でも、旦那にとっては遠い。元気な間はいいんです。ちょっとくらい遠くても。何とかなる。車椅子が必要になった時期の真冬の通院、悩むわけです。 

車寄せに車を停める→病院の中に貸し出し車椅子を取りに行く→旦那が車から降りて車椅子に乗る→旦那を寒くないところまで入れる→車寄せから駐車場に車を停めにいく→旦那と合流 こんなプロセスになります。遠い道のりです。車椅子の旦那を室内にまで入れる。この間、すんません・・・車、止めっぱなしです。車寄せに。帰りは逆に同じ手順です。絶対に1人で通院させられない、と思っていました。昨今、世の中で叫ばれているMaaSは病院の中でも実現してほしい、そんな風に思う私でした。

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「移動」が出来ることでもたらされる「自由」

旦那の仕事はクルマのチューニングやら、ドライビングレッスンの講師やら、ドライバーやら。クルマの運転が大好きでした。運転、上手いんですよ。だから、嫁のヘタッピな運転は許せないわけです(笑)。なるべく自分で運転することを考えていました。主治医の先生の許可を得て、携帯用酸素を運転席の後ろのポケットに設置、そこからチューブを出して吸いながら運転していました。脳に転移し、足に麻痺が出てきました。そこからドライバーは私に。ですが、最後まで自分の足で歩きたい、と脳に放射線の部分照射をしてもらいました。そのお蔭もあり、足の麻痺はなくなり、ぎりぎりまで、愛車でドライブを楽しむことができました。足は自分のモビリティ、車椅子ではなく自分で動けたことも旦那のプライドを支えていたと思います。 

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私の希望もあって、2人で温泉行きました。部屋風呂のある旅館に行きました。旅館は段差が多く、ホテルにすべきだったか、と反省しましたが、食事もお部屋で頂き、趣きがあって良かったです。クルマがあったからこそ出来た楽しみでした。 もし、クルマが無かったら、私に免許がなかったら・・・。通院も、余暇も、自分の満足するクオリティは担保できなかったと思いました。クルマがなくても、免許がなくても、いろいろな選択肢があり、満足できる方法があるといいな、と思っています。


さいごに

最期は自宅で過ごしたいと希望した旦那でしたので、いろいろな人に協力頂きながら、在宅で看取りました。我が家は、駅から徒歩だと12分、所謂、閑静な住宅街にあります。バスや電車は充実していて、日常生活に支障はありません。 でも・・・、旦那の呼吸がしんどくなって、初めて、クルマがないと無理だ!と思いました。そして、環境は人によってそれぞれだと思います。

現在、タクシーを利用する際の費用が、介護保険で一部適用になっています。クルマが無くても、免許がなくても、やりたいことができる世の中、Cancer Xを通じて実現したいと考えるようになりました。自分でだけでは解決できないことが、世の中の仕組みやサービス、周囲の人の協力で出来るようになっていくと素敵。どんなシチュエーションがあるのか、どんなユースケースがあるのか、「Cancer X Mobility」で考えていきたいと思っています。ちょっとした工夫や努力で解決できることもあるかもしれない、大きな挑戦が必要なこともあるかもしれない、まずは、どんなことがあるのか知る機会が増やすことを目指しています。

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