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作品はある種の実験のかたち【寺岡海】


作品は実験結果

雲を多方面から撮影し、展示会場に雲を再現する。
おもちゃの星を風船に括って、それを飛ばして星を増やしてみる。
丘の上で録音した風の音を展覧会会場で流して風を再現する。
目をつぶって女性の姿を描いてみると女性の姿は一つの輪郭に定まらないとか。

《a cloud》2011
《星をつくる》2012
《A Wind》2017

いつもいつも彼の試みは実験的でハッとさせられる。自分でも彼の手法になぞらえて、例えば女性の姿を瞼の裏に描いてみるけれど、一回たりとも定まった女性の姿にはならなかった。思いつかなかったけど確かにそうかも…という実験を提示してくれて、追体験をしたくなってしまう。(この作品は探したのだが、記録が見つからなかった、でも大好き。)

ポエトリーでロマンティック、それが彼の作品に対する印象だ。考え方の提示が作品の形式として多いためか、言葉や感情を乗せやすく、ただでさえ感情移入しやすい私は、作品の余韻がいつも色濃く、その余韻が薄まるまで時間がかかる。何度も作品を反芻して自分の考えに馴染ませる。仕事をしていてもそのことを考えてしまうため、私生活に支障が出まくるが、そんな時間が私は愛おしくてたまらない。


彼を知ったきっかけ

彼の作品を知ったのは、大学時代一緒に博物館実習をした関西出身の女性に、あなたきっと好きだと思うからぜひ見てみてと、名前を聞いたのが最初。すぐにインターネットで見たところ、ピンときて過去作品の情報を探しまくっていたのを覚えている。これが展示されているところを見たかった〜!という作品数が一番多いのは彼ではなかろうか。
そこまで期待が高まる彼だ、初めて展覧会で彼の作品を見たときには憧れの有名人に遭遇した気持ちになった。

彼が展覧会に出品するときに合わせて京都へ足を運ぶことも多かったが、見にいくたびにわざわざ来てよかったと感じるくらい良い作品を発表する寺岡さん。展示出品情報を目にするたび仕事の予定を整理しだすなど、私のアートライフに多大なる影響を与えてくれた。ちなみに彼目的で出かけた展覧会で見たアーティストにも良い方がたくさんいて、私にとっては追いかけない理由がない人である。
本当に博物館実習で出会った彼女に、そして彼を教えてくれたことに感謝している。


最新作〈春のまえがき〉

最新作は〈春のまえがき〉という展覧会で発表された。
未見であることが今でも悔やまれる、展示期間がもう少し長ければ、コロナがなければ…(なんなら日本が東京を中心として円形だったらと気になる展覧会が遠方で開催される度に思っている)。

絵画も展示されていることはギャラリーのタイムラインで知ったが、何より気になるのは《Snow Clock》という作品。

《Snow Clock》2022


Twitterで京都の雪を砂時計型ガラスに閉じ込めた作品を会場にインストールする様が動画公開されている。どうやら、時間を計るものではないようだ。

素材の欄に、「ガラス、雪どけ水」とある。
雪深い京都で、彼がかじかむ手で雪を集めたことがわかった途端、スケジュールの都合がつかなかった自分を悔やんだ。
この人は春を迎えるためにこの作品を作って、この作品のために雪を取りに行ったのだ。水道水じゃ意味がない。このガラスの小さな世界で冬を越えるために雪を取りに行ったのだ。

雪はとける。それは外の雪もガラス管の中の雪も。
冷凍庫に入れなければ雪にはならないから、なんの意味があるのかと思うかもしれない。時間も計れない水時計だ。

でも何度も何度も雪にして、あの時の雪、あの時の冬がとける時間を味わう。
時間や季節の縛りなく雪どけを待てば、夏から春へ、秋から春へワープする。

春を待つ、という言葉は他の季節にはない表現だ。
本作は春という言葉が包含する事柄を想起させられる。
雪どけを待ちながら、寒さに耐えながら。

こうやって何度だって春を待つのだ。



作家紹介

■寺岡 海
美術作家 1987年広島生まれ 京都在住
https://twitter.com/teraoka_kai

※以下URLは記事執筆当時最新の寺岡さんの展覧会情報
(本文中の仕事の都合で訪れられなかった展覧会)


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