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仕事を辞めてロースクールに入学する場合の金銭事情(金銭サポート編)

はじめに

 社会人が司法試験を目指す、特に仕事を辞めてロースクールに入学する場合に、現実的な心配事項は金銭事情だと思います。ここでは、仕事を辞めてロースクールに入学する場合における金銭面をサポートする制度としてどのようなものがあるかについて、実体験をもとに書いていきたいと思います。なお、当時の情報を元に書いていますので、最新の情報と異なっている可能性がありますことご了解ください。常に最新の情報をチェックされることをお勧めします。

 社会人がロースクールに入る場合、雇用保険関連の制度として(1)雇用保険給付(基本手当)、(2)専門実践教育訓練給付金及び(3)教育訓練支援給付金を利用でき、授業料等に加えて生活費についても多大な給付を受けることができます。また、大学の(4)入学料免除、授業料免除を利用することもでき、(5)奨学金もあります。就職活動の一環として(6)サマークラーク、スプリングクラーク等に行けば日当をもらうことができます。

 結論として、生活費含め多くの支援があるため、貯蓄額が大きくなくとも、ロースクール進学は可能といえます。

(追記)公務員は雇用保険の対象外であり、(1)~(3)は使えないので、ご注意ください。また、育訓練支援給付金は令和4年3月31日までの時限措置であるため、措置延長等がない限り、実質的に申請できるのは2021年度入学の方までとなります。

各種制度の概要

1.雇用保険給付(基本手当)

 仕事を辞めてロースクールに入学すれば失業状態になりますので、雇用保険給付の基本手当がもらえます。受給要件は、①ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること、②離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あること、です。1年以上働いた社会人の方であれば、ハローワークで申込みをすれば基本的に受給できます。制度の概要はこちらで確認できます。

 受給期間は、ロースクールに入学するために会社を辞める場合は自己都合になりますので、被保険者であった期間が10年未満の場合は、90日間です。しかし、離職後すぐに給付を受けられるわけではありません。受給資格決定日から失業の状態にあった日が通算して7日間経過するまでは、基本手当の支給を受けることができない「待機」という期間があります。また、自己都合の場合、その後3か月間は「給付制限」という期間があり、これらの期間満了後から起算して90日間給付を受けられるということになります。受給額は、年齢や会社の基本給の額によって定まりますが、私の場合は5年勤務後に受給開始し、基本給の約6割の額を受給することができました。

 基本手当の申請にあたって注意すべき点は、離職後すぐにハローワークに行って申請をすることです。これむちゃくちゃ重要です。上記待機の期間は、受給資格決定日から起算されるため、申請が遅れるとその分受給できる期間が後ろ倒しになります。後述の教育訓練支援給付金は基本手当受給期間満了後に受給開始となるため、申請が遅れるとその日数分受給できる教育訓練支援給付金が減るということになってしまいます。私の場合、教育訓練支援給付金の日額は4,700円程度だったのですが、上記仕組みに気づかず離職後1週間程度経ってからハローワークに行ったので、32,900円程損しました。

 また、毎月の認定日に必ずハローワークに行くことです。毎月失業状態にあることを認定してもらう認定日というものが設定されるのですが、認定日にハローワークに行かなければ向こう1カ月の給付を受けることができません。その場合、その分受給期間が後ろ倒しになるのですが、上述の通りその日数分受給できる教育訓練支援給付金が減るので、同給付金1か月分損することになります。私は一度認定日に行くことを失念し翌日に行き、授業の関係で認定日に行けなかった等色々言ってみたのですが聞き入れてもらえず、教育訓練支援給付金1か月分を損しました(計算したくないです笑)。結果的に、私は7月、9月、10月に受給し、合計約40万円を受給しました。

2.専門実践教育訓練給付金

 働く方の主体的な能力開発の取組み又は中長期的なキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とし、教育訓練受講に支払った費用の一部が支給されるものです。離職日から受講開始日までが1年以内で、かつ雇用保険の被保険者であった期間が3年以上ある方であれば利用できます。司法試験受験のための法科大学院進学も含まれており、2021年3月8日現在では、東京大学、京都大学、一橋大学、九州大学、神戸大学、名古屋大学、筑波大学(夜間)、慶応義塾大学、早稲田大学のロースクールが対象となっています。私が進学した2018年から拡充されているので、今後さらに増えるかもしれません。制度の概要はこちらで確認できます。

 支給の対象は、ロースクールの入学金及び授業料で、支払った額の50%を受講中に受給することができます(ただし、上限が年間40万円であり、国立大学でも入学金及び授業料を全額支払った場合には上限に達してしまうため、後述授業料免除の申請を併せてすべきです)。さらに、弁護士等として最短就業年でロースクールを修了し、司法試験に合格して就職した場合、さらに20%を受給することができます(受講中の受給分と合わせて、受講期間2年の場合112万円、3年の場合168万円が上限)。

 なお、20%上乗せ分は、資格取得等をし、かつ終了した日の翌日から1年以内に被保険者として雇用された場合に支給されると記載されているのですが、確認をしたところ、ロースクールの場合は終了後に司法試験を受けることから1年以内に被保険者として雇用されることが現実的でなく、特別な取扱いとなっていて、「受講修了年度の翌年度の司法試験後に司法修習を開始した後、受講修了年度の翌々年度の司法修習生の考試を修了し、翌翌々年度当初までに一般被保険者等として就職した場合」に支給申請ができるとされています(業務取扱要領)。例えば、私は2018年度にロースクールに入学し、修了したのが2019年度(受講修了年度)で、2020年度(翌年度)の司法試験を受験して司法修習を開始する予定で、2021年度(翌々年度)の考試(二回試験)を修了し、2022年度(翌翌々年度)当初までに就職すれば、申請できるということになります(ややこしや)。この特別な取扱いについては、ハローワークによっては担当者が知らない可能性があります(!)。私の地元はあまりこのような申請をする人がないのか、ロースクール終了後1年を経過したらダメだと言っていました(怒)。

(追記)特別な取扱いを受けて就職したとしても、法律事務所に所属して個人事業主となる場合や、公務員となる場合等、雇用保険の被保険者として雇用されるわけではない場合には追加給付はもらえないことになります。

 なお、司法試験受験後、バイト等をすることで雇用保険の被保険者になれば、その時点で形式的に要件は満たすので、申請することができるようです笑。ただし、上記特別な取扱いを知らない担当者が言っていたことなので、本当にできるかは要確認です。

 注意すべき点は、ロースクール入学前に、キャリアコンサルタントによる訓練前キャリアコンサルティングを受ける必要があることです。これ自体はすぐ終わるのですが、キャリアコンサルタントとの日程調整等多少時間がかかるので、在職中に一度ハローワークを訪れ、手続を確認しておくことをお勧めします。

3.教育訓練支援給付金

 初めて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講する方で、受講開始時に45歳未満など一定の要件を満たす方が、訓練期間中、失業状態にある場合に訓練受講をさらに支援するため、訓練受講期間中、雇用保険給付の基本手当の80%を支給する制度です。制度の概要はこちらで確認できます。

(追記)教育訓練支援給付金は令和4年3月31日までの時限措置であるため、措置延長等がない限り、実質的に申請できるのは2021年度入学の方までとなります。

 支給期間は、基本手当受給期間満了後、ロースクール修了(最短就業年)までです。2か月に一度失業認定のためハローワークを訪れ、その際に2か月分の給付を受給することができます(私の場合、約1週間後に振込みでした)。支給額は基本手当の80%ですので、私の場合、前職の基本給の約50%を在学中貰うことができたので、非常に助かりました。

 注意すべき点は、まず2か月に一度失業認定日に必ずハローワークに行くことです。行かなければ当該期間分について受給できないという悲劇が起こります。また、失業認定日にハローワークに行った際に次の認定日を決めるのですが、授業が被ったりしていても認定日をずらすことは基本的にできない(!)ので、確実に行ける日を選ぶようにしてください。

 また、対象期間の授業の出席率が8割未満になった場合、それ以降受給することができなくなることです。加えて、授業に欠席すればするほど受給額が減らされるという鬼畜設定なので、授業には遅刻してもいいので絶対に出席するようにしましょう(私が行っていたロースクールの場合、授業後に教授に出席確認のためのサインをもらうという形でした。ロースクールが単位認定のために取る出席とは異なります)。

 なお、私は1年目の11月から受給を開始し、ロースクール修了まで合計約246万円を受給しました。上述の通り受給が1カ月遅れましたが、授業出席率はほぼ100%でした。

4.入学料免除、授業料免除

 会社を辞めてロースクールに行く場合、独立生計で申請をすれば、収入が一気にゼロになるわけですので、入学料免除及び授業料免除が認められる可能性が高いと思います。私は国立のロースクールに通っていましたが、授業料は1年目は全額免除、2年目は前期全額免除、後期半額免除でした。2年目後期は日本学生支援機構の奨学金を借りたこともあって、半額にとどまったものと思います。成績はあまり考慮されている感じはなく、収入の減少を主に考慮されている感じでした。入学料免除は通らないだろうと思ってしなかったのですが、今から考えるとしておくべきでした。半額免除でも、そこから70%が専門実践教育訓練給付金として返ってくるので、学費の支出はかなりの部分抑えることができます。

5.奨学金

 日本学生支援機構の貸与型奨学金及び民間・地方奨学金があります。前者は、会社を辞めて独立生計者としてロースクールに入るのであれば無利子で通ると思いますが、授業料免除が通りにくくなるため、慎重に検討する必要があります。後者は教務のところに案内が来ているので、応募できそうなところは片っ端から応募すればいいと思いますが、中々通らないようです。私は、2年目から学生支援機構の無利子奨学金を借り始めました。また、民間・地方奨学金も色々応募しましたが、通りませんでした。

 なお、学生支援機構の奨学金については修了時に返還免除の申請をすることができる場合もあります。成績優秀者に教務から連絡が来るようですが、学部に比べて大学院の場合は(半額免除であれば)通りやすいようです。

6.サマークラーク、スプリングクラーク等

 在学中に、採用活動の一環として法律事務所が3日~5日程度のサマークラーク、スプリングクラーク等のインターンを募集しており、これに採用されれば、日額1万円程度もらえることが多いです。これらは法律事務所に就職する上で非常に重要であり、お金ももらえるので、可能な限り申し込むべきです。私は1年目の2月に3事務所のスプリングクラークに参加し10万円、2年目の8月に3事務所のサマークラークに参加し15万円を頂きました。

おわりに

 以上の通り、様々な制度が用意されており、うまく活用すれば授業料及び生活費のかなりの部分をカバーすることができます。その反面、特に国の制度は知らなければ損をするというものが非常に多いです。以上は私が実際に利用したものですが、他にも教育訓練受講者支援資金融資や学資ローン等、様々な制度があると思います。事前にしっかりと調べて計画を立て、使えるものはうまく使って、人生の選択肢を広げて頂ければと思います。

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