冬の拾い物
今までに、一体いくつの物をなくしてきたのだろう? 時計、ビーズで作った指輪、ミッキーマウスのタオル、傘、リップジェル…数え上げたらキリがない。
ほとんどがそれっきりとなってしまった。けれど、絶対になくしては困るもの、例えば免許証、自宅の鍵等は、今まで必ず無事に戻ってきたことに感謝している。
私はそそっかしいので、忙しい朝など、コンビニでPASMOにチャージした際、免許証の入ったパスケースごと、そのまま忘れてしまったことが数回ある。会社に着いてから、パスケースがないことに気付き、慌てて取りに戻ったことがあった。きちんと戻ってきたのは、いずれもコンビニの店員さんが、親切に取り置いて下さっていたお陰だ。知らない人にどれだけ迷惑をかけ、助けて頂いた事か…。
同じ事を数回繰り返してしまったので、自分で自分が信用出来なくなり、免許証だけは別にした。
他の物に関しても「落としましたよ。」と親切に声をかけてくれた人もあった。そういう時はいつも、ほんの一瞬の人の優しさが、何となく嬉しかった。
一方で、拾い物をした事もある。こちらは落とし物に比べてさほど多くない。財布、小銭など、その場ですぐに渡せて良かったものもあった。一方で、見なかった事にして、何となく後ろめたさを感じた事もあった。タイミングの問題だ。
今までで一番ビックリした拾い物がある。ある冬の朝のこと。出勤時に、前を歩いていた女性が何か落とした。最初、黒いハンカチかと思ったが、拾ってみたら、黒のティーバックだった。
『えっ?』と思ったが、拾ってしまったもの、今さら知らん顔も出来ず、かといって放り出す訳にもいかず…追いかけて、すぐにその女性に声をかけた。
「落としましたよ。」と言って渡すと、その女性は「えェっ!? 嘘ォ! キャー!」と訳の分からない悲鳴に近い声を上げた。きっと、穴があったら入りたい心境だったと思う。拾った私だって、決まりが悪かった。
そのまま何事もなかったように、私は彼女を追い越し、後ろを振り返らずに歩いて行った。『この場合、仮に私が男性だったら、親切でしたことでも、セクハラになるのかな?』なんて考えながら…
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