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【対談】VC グローバル・ブレイン林 昇平氏から見た株式投資型クラウドファンディングの課題と未来

2017年以降、複数のプラットフォーマーがサービスを提供し、2020年は業界全体で約20億円程の流通が生まれた株式投資型クラウドファンディング市場。しかし、「株式投資型クラウドファンディングを利用するとIPO準備に影響が出るのでは」「VCからの資金調達が難しくなるかもしれない」といった印象を抱いている方も多くいるように思います。

そこで今回は、「CAMPFIRE Angels」を運営する株式会社CAMPFIRE Startups(以下、Startups社)代表・出縄良人と、機関投資家や事業会社を出資者とするフラッグシップファンドの運用や、事業会社とのCVCファンドを行うグローバル・ブレイン株式会社・林昇平氏の対談を企画。

スタートアップ企業の株式投資型クラウドファンディング(以下、ECF)利用について、VC側はどう考えているのか?じっくり伺いました。

「資金の出し手」としての尖り方を追求するグローバル・ブレイン社

出縄:本日はVCの視点からECFに期待する点や懸念点、VCとの協調投資の可能性などについてお伺いできればと思います。まず、グローバル・ブレイン社のVCとしての特徴や投資先への支援内容などを教えてください。

林:ここ数年でスタートアップ業界に流入する資金量が一気に拡大し、VC業界内での競争も激しくなっています。「色のつかないお金」と私は表現するのですが、純粋に量的な資金の補完だけでは選ばれなくなってきており、いいスタートアップから選ばれる「資金の出し手」になることが重要であると考えています。

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グローバル・ブレイン株式会社 Investment Group Director 林 昇平
JPモルガン証券、JICA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、2018年グローバル・ブレイン参画。JPモルガンでは金利トレーディング、JICAでは新興国民間セクターやインフラ案件への投融資を経験し、デロイトではクロスボーダーM&Aの戦略及びPMIコンサルティングに従事。グローバル・ブレインではキャピタリストとして活動しつつ、Value Up Teamも兼任し、複数の投資先支援プロジェクトを担当している。同志社大学法学部卒。カーネギーメロン大学公共政策マネジメント工学修士。

林:グローバル・ブレインの特徴は、投資先のバリューアップをハンズオンで行っている点にあります。我々キャピタリストとは別に、バリューアップのみを担うチームが数年前から発足しており「資金の出し手」としてどう尖っていくか、どれだけ投資先に貢献できるかがより求められる時代になっていると感じますね。

出縄:なるほど。我々ECFプラットフォームと同じく、他VCとの差別化が重要なのですね。

林:そうですね。VCとECFはスタートアップ企業に対する「資金の出し手」という意味では競合といえるかもしれませんが、スタートアップ企業の資金調達手段が多様化することは業界全体の活性化につながります。ECFの盛り上がりは一個人としてぜひ歓迎したい流れです。素晴らしいことですよね。

出縄:そうですね。有望なスタートアップ企業に選ばれるよう、当社も審査力・ハンズオン力を高めていきたいですね。そうすることが、個人投資家の信頼獲得にも繋がると考えます。

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株式会社CAMPFIRE Startups 代表取締役 / 公認会計士 出縄良人
慶應義塾大学経済学部を卒業後、太田昭和監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)に入社。公認会計士として主に株式上場コンサルティング業務に従事。ディー・ブレインを設立し、中小企業向けコンサルティング事業を開始後、株式投資型クラウドファンディングの前身となった中小企業向け証券市場であるグリーンシートの立ち上げに関わり、株式公開主幹事で9割を超えるシェア。2010年までに141社に対して112億円のエクイティファイナンスを支援。上場引受主幹事業務にも進出し14社を上場。多くの非上場企業へのエクイティファイナンスやIPO支援を手がけ、2015年にDANベンチャーキャピタル(現:CAMPFIRE Startups)を設立。

VCから見た「株式投資型クラウドファンディング」の課題

気になる課題①上場前審査の工数増加

出縄:では、ECFについて気になる点を聞かせてください。

林:現時点では3点あります。まず、個人株主が増えることから、反社チェックの精度が気になっています。我々VCが中心となるファイナンスの場合には、上場前であっても株主の数は数十程度。一方、ECFを利用すれば一気に数百名規模になりますよね。もちろんStartups社はじめECF各社で審査していると思いますが、株主要因で上場に至らなかったケースもあるため、気になるポイントではありますよね。

出縄:なるほど。ECFプラットフォームとして、投資家の皆様にご登録いただく際、法律で定められた必要な審査はもちろん行っているので、その点はご安心いただければと思います。とはいえ、最終的には上場の段階で主幹事が改めて審査を行う必要があるため、「ECFを利用したから」というより、審査対象となる株主の数が多いので審査が大変になる、ということですね。

林:そうですね。万が一上場審査で反社に該当する投資家が確認された場合、対応策にはどのようなものがあるのでしょうか。

出縄:株主間契約の中に「買取条項」を設け、判明した時点で強制的に株式を買い取れるようにしていますが、VCから見てこれで十分カバーできていると思われますか?

林:そうですね、その条項によって問題は解消できていると思います。ただ正直なところVCとしては、株主が多いと「大変だな」という印象は持ってしまいますね。リミテッドパートナー(有限責任組合員)への責任を果たすべくVCも出資前には審査を行いますが、その中には株主の審査も含まれます。例えば、全く同じサービスを展開している同じ2社があったときに、株主の少ないほうの会社を投資先として選んでしまうということはあるかもしれません。株主が多いと審査にどうしても時間がかかってしまうので。

出縄:なるほど。主幹事も上場引受の際に株主の少ない会社を優先することがあるかもしれませんね。

林:そうはいっても、株主の数が出資判断のクリティカルな要素になるわけではありません。最終的には「本質的にいい会社かどうか」が重要です。魅力的な会社であれば、株主が多くても出資するだろうとも思います。

出縄:よくわかりました。ありがとうございます。

気になる課題②株主管理の煩雑さ

林:2点目は、単純に株主の数が増えると管理コストが増えますよね。株主総会のお知らせや委任状の管理など、事務的な手続きが煩雑になるのではないでしょうか。

出縄:CAMPFIRE Angelsは上場会社向けに株主管理のDXプラットフォームを運営している株式会社WILLSと業務提携し、ECFを利用した企業も同じプラットフォームを利用できる体制を整えました。株主総会の招集通知の電子的交付や議決権の電子行使、オンライン株主総会開催など、株主管理業務の大幅な効率化が期待できます。上場企業と同様のサービスをご提供できることで株主の皆様にご安心いただけるだけでなく、非上場のうちから株主管理体制を整え、経験を積めることは上場審査でもプラスに働くと考えています。これについて、林さんはどのように思われますか?

林:WILLSさんも含め、新たなSaaSの出現で業界での切磋琢磨が進み、株主管理コストがどんどん抑えられていくことを期待したいですね。今の段階ではまだ株主管理の問題が懸念点になる場合もあるとは思いますが、テクノロジーの発展によっていずれ解決できる課題であると思います。

気になる課題③みなし清算・優先株の優先分配の取り扱い等に伴う、合意形成の難易度向上

林:テクニカルな話ですが、上場ではなくM&AでEXITするスタートアップ企業も多い中、みなし清算や優先株の優先分配になった場合、数十~数百名にのぼる株主の理解をどう得ていくのかが気になっていますが、この点いかがでしょうか?

出縄:反社の際の買取条項と同様、株主間契約において予め合意をいただいております。これによってたとえ株主の規模が大きくなったとしても、円滑にM&Aの手続きを進行できるものと思っています。

VCと考える「株式投資型クラウドファンディング」の可能性

出縄:ECFの利用に伴う課題や懸念点が全くないわけではないものの、それぞれに解決策を提示できる状態にはあるわけです。そこで林さんに伺ってみたいのですが、今後ECFがスケールしていくにあたって、どのようなことが必要になりそうでしょうか。

林:個人投資家がECFを通じて「共感・応援」という思いをもったうえで投資できるのはVCにはない部分であり素晴らしいことであると感じます。その意味でC向けサービスや地域性の高い事業などとは非常に相性がよいのではないでしょうか。ただ一方で、「共感・応援」の気持ちだけで行われる投資がどれくらいスケールするのかは、いまだ未知数であるとも思っています。そのため、VCと同じような視点で出資対象となるスタートアップ企業を選び、ECF市場をスケールさせていくことを目指すのであれば、「共感・応援」に加え、金銭的リターンをどれだけ個人投資家にもたらすことができるのかが、今後より重要になるのではないでしょうか。

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林:先程は「発行体がECFを利用する場合の課題」についてお話しましたが、ECF市場に流入する資金は個人投資家から出ているので、個人投資家に向いた改善が必要になってくるでしょうね。資産運用における現実的なアセットクラスとして広く認めてもらうには、金銭的なリターンが外せない要素になってくると思います。

出縄:そうですね。そして、個人投資家からそのように捉えてもらうためには、ECFを通じて投資できるスタートアップ企業がいかに魅力的であるかが重要になりますね。

林:そう思います。個人投資家から選んでもらうためには、しっかりとした審査能力を持つことはもちろん重要ですし、合わせて、スタートアップ企業からも魅力的な「資金の出し手」として選んでもらう必要があるでしょうね。これまでは投資家優位でしたが、スタートアップ業界における資金の流通量が増えたことで、我々のようなVCも含めた投資家・プラットフォームが、スタートアップ企業から”選ばれる”構造になりつつあるので、そこでの差別化が必要であるように思います。

出縄:なるほど。我々もグローバル・ブレインのように、ハンズオンで投資先となる企業のサポートを行っていければと思っているところです。

林:CAMPFIREグループは他の事業との連携や、独自のネットワークで十分にエッジを立てられるアセットを持っているので、対ECF業者に限らず、VCと比べても選ばれるプラットフォームになりうると思っています。

出縄:ありがとうございます、期待に応えられるよう頑張りたいと思います。ECFに取り組む中で、投資家のニーズとして「GBのようなVCが出資しているスタートアップ企業に投資したい」という声も聞かれます。VC同士で協調投資を行うことがあるように、私たちCAMPFIRE Angelsも同じような形でVCとの連携を考えていますが、現実的にはいかがでしょうか?

林:現状、グローバル・ブレインとしてはまだECFで資金調達した企業への出資は行ったことがないはずですが、冒頭ご説明いただいたようにVC側が抱く懸念点にはかなり正面から対応いただいている印象です。今後、VCとECFが協調投資を行う事例はどんどん増えてくるのではないでしょうか。

出縄:仕組みや制度についてのハードルは解消されつつある、と。これは嬉しいですね。

林:私たちVCも、「本質的にいい会社を支援していきたい」という思いを持っていますので、成長性の高い魅力的な事業を行っている会社であれば、ECFの利用経験を問わず投資していきたいですね。

出縄:力強いお言葉、ありがとうございます。まだまだ業界は混ざっておらず、ECFとVCは別々の場所でそれぞれに取り組んでいるような感覚でいますが、熱意は同じだと思っています。ECFの課題を一つずつ解消しながら、いずれは共に、より力強くベンチャーのサポートを行っていけたら良いですね!

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取材後記
歴史が浅くまだまだ課題の多いECF業界ですが、それらの物理的な課題は「解消されつつある」と捉えておられる林さまの言葉が印象的でした。今やECFだけでなく、VCまでもスタートアップから資金の出し手として選ばれる立場である中で「CAMPFIRE Angels」として独自の価値を発揮していくべく、CAMPFIREグループ全体のアセットの活用可能性を改めて見直し、魅力的なスタートアップ企業との接点を増やしていければと思っています。
ライター:井形(CAMPFIRE Startups マーケティング部 マーケター)

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