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上に立つもの資質とは。信長の原理(上)(垣根涼介著)を読んで

部下の使い方(P137)

(信長の弟、信勝を担いできた林秀貞が、信長に敗戦後、赦された際に柴田勝家に語る)

「わしとおぬしは10年以上に渡って信勝どのを担ぎ、信長どのに事あるごとに盾突いてきた。(中略)おそらく信長どのの腸は、今も相当煮えくり返っておる。その気持ちを押し殺してでも、才があると思えるわしらを、今のごとく扱うことができる。少し考えてみよ。分かるか、この異常なほどの我慢強さが。単に粗暴なだけのお方ではない」

(中略)

「そこまでしても、能ある者を家中に置いておことする。集めようとする。優しく扱われ、労いの言葉をかけられることだけが、我ら家臣が大切にされることではない。所詮そんなものは凡庸な将の、上っ面な家臣のの気の取り方でしかない。使われてこそ、取り立てられてこそ、能ある家臣は励む気になるというものなのだ」

将の資質(P159)

(柴田勝家の信長への評価)

「武官たちの間で相反する戦術について議論が百出ても(信長は)ほとんど口を挟まずに最後まで我慢強く聞いている。議論の途中で大将が下手に意見を挟めば、それに無意識に阿ろうとする家臣も出てくる。話の全体の方向が、万一にも間違っているかもしれない自分の意見に引き摺られることを、恐れているからだ(中略)粘り強く色々な可能性や方向性を考えられるだけ揃えたうえで、その中から慎重に決断を下す。」

「一方で大局的な戦略ーその戦自体をやるのかやらないのか、やるとしたらいつ始めるのかなどーは、だれにも相談せず、自分の中で長い時間をかけてじっくりと検討する。それは、大将が己の責任において一人で決断をすることだからだ。(中略)だから、一人で思い悩むことになる。孤独の中で、常に武門の重みを背負うことに耐え続ける。悩み、苛立ち、躊躇しながらも、流動的な状況のなかで、いくつかの選択肢の中のどれが最善なのかを、常に考え抜くことが習慣化している。だから、結果として、信長はいつも憂鬱かつ不機嫌そうな顔をぶら下げているのだ。その執拗さ、神経の太さ、耐性の強さ。武門の棟梁として必須であるこの三つの資質を信長は全て併せ持っている」

勝つためには(P224から)

(信長が今川義元に勝ったのは偶然という風聞に対して、信長の独白)

「確かに僥倖が重なって、やっとこさ義元の首を取ることができたのは事実だ。自分の戦略が際立って優れていたわけでもない。しかし、その幸運に向かって血の滲むような汗をかいてきた者にしか、九天神は微笑まないものだ。逆に言えば、必死に勝つための条件をか積み重ねてきても、その苦労の大半は徒労に終わる。ましてや勝つ努力を何もせぬ者になど、ごく稀にしか転がっていない運を拾うことは、到底かなわない。」

名将とは(P226からP233)

(財力)

名将とは、その根本の資質として盛んに殖産を行い、何度でも戦を行える財力を蓄えていける者であることを指している。(中略)信玄と輝虎が国外への輸出で銭を稼ぐなら、おれは今まで以上にこの尾張に人を大量に住まわせることによって、富を生む。

(人心掌握)

(信玄や輝虎に人格的魅力や、自己演出能力において負けているという信長の自己分析の後の独白)

「愛されたり畏敬される資質がこのおれにないのなら、むしろ大いに恐れさせれえばいい。己の好悪を無視してでも、臣下への信賞必罰さへ公平に行えば、それで部下はきちんと働く

勝敗(P237)

「そもそも戦の勝敗に絶対などない。だからこそ、考えうる限りの万全の準備をして戦に備えるものだ。それでも、必ずうまくいくという保証はない。ようは確率の問題なのだ。勝ちの確率を高めるだけ高めて出陣しても、わずかに残っている負けの確率にひっくり返されることもある。しかし、その危険を敢えて冒し、捨て身で戦った者にしか勝利という果実はもぎ取れないものだ」

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