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《写真の保存修復を考えてみた vol.1 》~保存修復の始まり~ by タケウチリョウコ

今回から本格的にシリーズ開始となります。
こんにちはタケウチリョウコです。

第1回目は『保存修復の始まり』です。
まず本題に入る前に、私が何故写真の保存修復に興味を持ったのか、少しお話をさせてください。

きっかけは学生時代、写真を専攻していましたが、その主な授業は”写真作家”や”カメラマン”になるためのものでした。
わたしは”撮影すること”、”写真作品を創ること”以上に、写真を見ることが好きでした。
身近な仲間が制作した”写真作品”から100年以上前の”古い写真”まで。
他者の視点により切り取られた時間を感じることで、身体が震えるような”喜怒哀楽”に包まれた事を覚えています。
そして今でも同じ心の動きが私の中にあり続けます。

沢山生まれては、人目につかず消えていく写真や経年により朽ちていく写真。
そのような写真を少しでも多く残し、後世に伝えることはできないものか?と思い保存修復に興味を持ちました。

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それでは本題スタート!
お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

最初に”写真の『保存修復』”とは何?!っというところから始めたいと思います。
早速個人的な見解になりますが、特に明確な定義やこれが写真の「保存修復」である!と言った定めは無いように思います。
私が興味を持ち始めた10数年前から、日本ではメジャーな分野ではありませんでした。そして専門家も数えるほど。
世界ではどうかと言うと、専門的にカリキュラムを持つ大学が両手に収まる程度です。

日本では仏像や古文書、絵画などの保存修復の歴史は長く、脈々と受け継がれた理念や定義を持ち、文化財保存という分野が広く伝わっています。しかし写真はそれ自体の歴史も浅く、基盤が整っていないのが現状です。

しかし最近では文化財に指定される写真も出てきており、保存修復の大切さが注目されているのも事実です。
そのため、歴史的に古い写真を保護するために行われる処置や、時代は関係なく有名な作家による写真作品に損傷が生じた際に行われる処置など、すでに写真作品、写真記録としてプリントされた写真またはフィルムなどの中間生成物に対するケアー全般を『保存修復』と示している傾向にあります。

ここまでは昨今の動向になりますが、さて写真の『保存修復』はいつ頃から始まったのでしょうか。
それは、ズバリ!写真の誕生と共に常に考えられてきたと私は考えています。

写真の誕生は1839年のルイ・ジャック・マンデ・ダゲールにより発表されたダゲレオタイプからとされています。
この技法は非常に繊細な画像を持ち、空気中に放置したり、指で触れる事で画像が失われてしまうこともありました。
そのため制作後すぐ、ガラスでカバーし保管されてきました。
写真は化学反応により画像を得るプロセスのため、物質的に不安定で、画像を固定するため様々な試みがなされてきました。
そのため、常に画像を安定させたい!長く見られる状態に維持したい!という気持ちから「保存」もセットになって考えられてきたのではないかと思います。

実際に日本に残る写真関係の文献を少し読み漁ってみるとこんな記事が残されていました。

明治7年から刊行された日本最古の写真雑誌*1とされる『写真新法』には鶏卵紙の抱える問題についての記事が残されていました。
「鶏卵紙印画の變色することは何人も之を知り」とあり、鶏卵紙の変色の起こる原因を三つ挙げています*2。

 一、 着色消滅すること
 二、素地色を帯ひ爲めに画像を不明となすこと
 三、印画磨滅すること

*1 『淺沼商會百年史』管保男 株式会社浅沼商会 1971年 pp35
*2『寫真新法第十七號』 淺沼商会 1890年 pp136,137

このような問題から、画像を長期にわたり視覚的に認識できるよう、今日まで次々と新しい技法が開発されていくのです。
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ちなみに『写真新報』には当時の写真に関する悩みや記事が多く掲載されています。
国立国会図書館デジタルコレクションにて書誌情報と目次など確認できます!!
(残念ながら著作権の関係で画像が公開されていませんが…。ご興味のある方は是非!!)
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現代ではデジタルカメラにより撮影されたデジタル画像も写真です。技術革新は日進月歩です。
そのため、写真の『保存修復』の存在も、写真そのものが変わるたび、あり方技術も変容していきます。
写真そして保存修復と一口で言っても、その種類は様々です。

それゆえ、いつから写真の保存修復が始まったのか?という主題に振り返ると、ここから!っと断言できるものがまだ探せず、写真の誕生から今もなお探究され続けている分野ではないかと感じています。

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さて次回は「保存修復」の対象となる写真の種類や特徴を振り返っていきたいと思います。
写真技術の進歩と共に、どのように「保存修復」が考えられてきたのか?個人的に興味を持った部分を詳しく探っていきたいと思います。


タケウチ蛇足memo

前回『新型コロナウィルスの影響で在宅時間が多くなり、家族写真の整理を始めた』とお話しましたが、その続きです。

実家を整理中、私の祖父母の写真が沢山出てきました。
多くは家族写真でしたが、中には関東大震災の写真や戦中の物資配給の紙などが出てきました。
戦争の事は歴史の授業で知っているつもりでいましたが、身近にいた祖父母(もう亡くなってしまいましたが)が経験した時間を写真を通して見る事で、とてもリアルに感じました。

そして1980年までの変わりゆく東京の写真も一緒に残されており、最近の清潔で便利なデジタルに包まれた東京に”ふっ”と切なさを感じました。
自宅にいながらタイムスリップ気分で、身体を動かしていないのに体力が消耗され、その日はとても良く眠ることができました。

本日は、昭和初期から中期のイメージ写真を一枚!
(ちなみにトップの写真は関東大震災と戦後の写真です。)

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みなさんも実家や田舎の写真を見ることで、思いがけない出会いがあるかもしれません。
緊急事態宣言も今週で解除され、6月から慌ただしい生活に戻る方がほとんどかもしれません。
しかし、この機会に働き方が変わり在宅が増える方もいるかもしれません。
少し時間に余裕ができたら、その時間を写真集や、実家の写真を見て過ごして見るのは如何でしょうか。

タケウチの次の課題は、この家族写真たちをどのように保存していこうか?!っということです。
またシリーズ内でご紹介できたらと思います。


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