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ケトン体

ケトン体と脂質の関係と糖質制限

「ケトン体」と言う言葉は、糖質制限のときに聞いた事があるかもしれません。

私たちの細胞は、ブドウ糖からATPを作り出して暮らしています。
ところが、ブドウ糖が欠乏した状態になると、脂肪を使ってATPを作り出そうとするエンジンが回り始めます。

もともと、糖質を沢山食べていてブドウ糖が豊富にある場合、ミトコンドリア内ではクエン酸回路がブンブン回っています。大量のインスリンを使って、細胞内にブドウ糖がとりこまれ、それを原料にATPがつくられています。

脂肪はβ酸化で小さく分解されて、ブドウ糖をエンジンとするクエン酸回路に取り込まれてATPを作る手伝いをしています。

糖質を沢山取り過ぎると脂質を使わなくてもATPを作れるため、血液中の脂質が上昇して「高脂血症」になります。それほど脂質を食べていなくても、余ってしまうと高脂血症になってしまいます。

炭水化物(糖質)を制限すると、脂質を使ってATPを作ろうとするようになります。脂質は分解されると、ケトン体という物質に変わります。

糖質制限をする際に、ケトン体と言う言葉が登場するのはそのためです。

中鎖脂肪酸とTCAサイクル(クエン酸回路)


ココナッツオイルや加工食物油に多く含まれる中鎖脂肪酸は脂質の仲間です。一時期、大変にもてはやされました。摂取すると『痩せる』という記載も散見されました。大きな誤りです。

中鎖脂肪酸も脂質なので、1gにつき9Kcalの熱量をもっています。そのため、食べればやせるというオイルではありません。けれども、大きな利点があります。それは、何でしょう?

私たちの体は、ブドウ糖を最も利用しやすいようにできています。糖質(炭水化物)を制限したり使い果たしてしまうと、次に脂質を利用するようになります。

私たちは、ミトコンドリアでATPを産生するために食事をしていることを書きました。糖質から生まれるブドウ糖は、ミトコンドリア内のクエン酸回路を回しています。クエン酸回路を回す部品もブドウ糖から作られます。

ブドウ糖が不足すると、クエン酸回路を回す部品も欠乏してきます。ATPを作る原料も、回路を回す部品も不足するわけです。

そういったときに、体は脂質を利用するようになります。これが『β酸化』です。

ミトコンドリアは、中鎖脂肪酸を他の脂肪酸よりも利用しやすい性質を持っています。ですから、糖質制限をしている際にエネルギー源として中鎖脂肪酸を摂取することには、とても大きな意味があります。

そして、脂質が利用されるときに発生するのが、ケトン体。体は、ブドウ糖が欠乏するとケトン体を利用するようになります。つまり、ブドウ糖が不足した状態を作り出すと、

1.脂質からATPを生み出すメカニズム、と、2.ケトン体をブドウ糖の代わりに使うメカニズム、の2つが発動し始めます。

十分量あるいは過量の糖質を摂取している状態では、通常の脂質と同じエネルギー源としての働きをするに過ぎません。

通常、私たちはブドウ糖を利用しているので、上記の2つのメカニズムを急激に発動するには無理があります。

そのため、糖質制限を行うには徐々に体を慣らす必要があります。また、長期的にそれだけに依存することは良くない事だとされています。ゆるやかな糖質制限が推奨されているのはそのためです。

肝臓のケトン体は全身へ


飢餓や糖質を制限、運動などでブドウ糖が不足すると、リパーゼという酵素が働くようになり中性脂肪(トリグリセライド)が分解されます。中性脂肪は、グリセロールに脂肪酸の鎖が3本つながっています。

様々な脂肪酸がグリセロールにつながっています。通常脂肪酸は、カルニチンとともにミトコンドリア内にとりこまれます。

中鎖脂肪酸は特殊で、カルニチンが必要なくミトコンドリアに取り込まれます。

肝臓のミトコンドリアではアセチルCoA(アセチルコエー)が大量に作られます。ところがブドウ糖が不足している状態だと、TCA回路でアセチルCoAを原料としてATPを作ることができません。

そこで、2分子のアセチルCoAからアセトアセチルCoAを経てケトン体(アセト酢酸、βーヒドロキシ酪酸)が作られます。ケトン体にすると、血流に乗せて他の臓器に届けられるためです。

ケトン体


肝臓からケトン体を受け取った他の臓器(例えば脳や筋肉など)では、ケトン体を分解してアセチルCoAにもどしTCA回路でATPを作ります。

食事制限をして運動をすると通常でも脂質を原料として、エネルギーを作れます。

ブドウ糖が不足すると脂肪酸からアセチルCoAが作られ、ケトン体になり、他の臓器へデリバリーされることを先程書きました。

糖質制限を加えると、肝臓で脂肪酸からケトン体を生み出し、他の臓器の細胞ではケトン体を利用することが順調に行えるようになります。ケトン体からATPを作れるようになります。

糖質摂取ををゼロにすると、どんどん体脂肪が消費されて万々歳のような気がします。

ところが、それほど単純ではありません。

どんなに糖質制限を厳しくしても、飢餓状態でも血糖値はゼロになりません。なぜなのでしょう?

ミトコンドリアでケトン体から潤沢にATPを作るためには、TCA回路が回っている必要があります。

そのためには、回路の材料を調達するために少量でもブドウ糖が必要です。また、細胞の方も全くブドウ糖がゼロでは暮らして行けません。

足りない糖分は、アミノ酸などから糖を作り出す糖新生というメカニズムでなんとか最低限は確保しようとします。脂質が足りなかったり、エネルギー摂取不足や、運動過多だったりすると低血糖になってしまいます。

糖新生の最大の弱点は、アミノ酸を利用するため筋肉が痩せてしまうことです。


筋肉→<分解>→タンパク質→アミノ酸→<糖新生>→ブドウ糖

エネルギー不足になると、筋肉を壊してブドウ糖を作るというメカニズムが強力に働いていきます。栄養管理しないで、運動ばかりするとかえって筋肉が弱る事になります。

これは、リハビリを始めて活動量が上がった際にも重要な問題点になります。管理栄養士さんと相談しながら栄養補給をやっていかないと、患者さんがせっかくトレーニングしても筋肉を痩せさせるだけになってしまいます。

筋肉を落とすことは、痩せるよりも『やつれる』ことになります。
私たちは、大切な筋肉を守りながら余分な体脂肪を徐々に落とすことを目標に設定すべきです。

食欲は、体重増加になるように絶妙に調整されているのが幸いなところです。

大切な筋肉を守りつつ、カラダの余分な脂肪を消費するには、セミケトンダイエットが優れています。

糖尿病などでインスリンが極度に不足すると、「ケトアシドーシス」と呼ばれる意識障害をともなう重篤な状態に陥ることがあります。

インスリンが高度に不足していると、糖新生でつくられたブドウ糖さえも細胞内に取り込むことができません。ブドウ糖を細胞内に取り込むにはインスリンが必要だからです。

こういった状況下では、細胞内のATPが不足しているため肝臓ではケトン体を大量に合成して、カラダの細胞のエネルギー不足を解決しようとします。

けれども、カラダの細胞内ではTCA回路が回せないためケトン体を使えない。そのため、使うことができない大量のケトン体が血液中にあふれだしケトアシドーシスという状態になります。

通常の状態であればカラダの細胞は、肝臓が作ったケトン体をミトコンドリアで消費することができます。そのため、糖質制限を行うと通常よりもケトン体は増加しますがケトアシドーシスにはならないので、心配する必要はありません。

糖質の過剰摂取は、インスリンの大量分泌を促します。肥満だけで無く、大量のインスリンに細胞が常にさらされることが代謝を悪化させていきます。その事からも糖質の過剰摂取を避けることは、懸命だと言えます。

人生は長い道のりです。最低限の糖質は確保し、運動に見合った脂質も摂取して筋肉を消費する糖新生を起こさせない工夫が必要になります。

この工夫は、『セミケトンダイエット』とも呼ばれます。

また、カルニチン不要でミトコンドリアに取り込まれる中鎖脂肪酸は、エネルギー源になりやすいので糖新生を防ぐ働きを持ちます。

上手に摂取する栄養素の割合を管理しながら、運動することが重要です。オイルでダイエット、とは一見矛盾した言葉に聞こえます。けれども、代謝のメカニズムを考えるとダイエットにオイル(脂質)が必要であることを理解出来ますね!

脂質を上手に摂ると太りにくい、ということが報告されています。


炭水化物を摂取すると、
1.インスリンが上昇するとカラダのエネルギー代謝が落ちる
2.炭水化物がカラダの脂質に変わる
という点が問題とされています。

炭水化物を制限して、エネルギーを脂質から摂取するようにすると、代謝が上がり体脂肪も減らしていけるという事が示されています。

気を付けなくてはいけないことは、ショートケーキやポテトチップスのように、多くの油脂は砂糖や炭水化物とともに食物内に存在している点です。

脂質と糖質が同時に存在する物は人間の脳への刺激が大きく、強烈においしく感じる点が問題です。

褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞、ベージュ脂肪細胞


肥満になると、脂肪組織が増えます。

体には、内臓脂肪と皮下脂肪があることをご存じの方も多いでしょう。

腸管の周りの内臓脂肪は、代謝されやすい性質があります。枯渇してしまう可能性のあるブドウ糖のバックアップシステムとして働いています。

皮下脂肪は、消費されにくいものの長期的な栄養の貯蔵に重要です。

これらは、白色脂肪細胞という脂肪組織の仲間です。

栄養の貯蔵を主に担うものです。

一方、褐色脂肪細胞という脂肪組織も存在します。

主に体温を作り出すための〝特殊な〟脂肪組織です。脂肪組織に色々な物があることが遺伝子レベルで明らかになってきました。

栄養蓄積が目的の白色脂肪細胞と、体温維持に役立つ褐色脂肪細胞の2種類がありますよね。

白色脂肪細胞は、蓄積した脂肪を代謝してATPを作り出します。ミトコンドリアとATPの関係は前述した通りです。

代謝病や肥満で問題になる内臓脂肪は、白色脂肪細胞です。

褐色脂肪細胞には、ミトコンドリアが多く存在します。このミトコンドリアは特殊で、脱共役タンパク質 UCP-1 (uncoupling protein-1)という酵素を沢山持っています。UCP-1は、ATPを作り出す代わりに、直接脂肪を燃やして熱を発生させます。

肩や肩甲骨付近や肋骨のあたりに存在しています。

寒いときなどに、活発に働き体を温めてくれます。

実は、この白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞いがいにも、その中間の性質を持つベージュ脂肪細胞があることが明らかになってきました。

白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞にして、燃やす。そういった肥満の解決も考えられています。
オイルがその手助けをすることがあります。

オメガ3脂肪酸の働き ベージュ脂肪化


脂質を食べると、体脂肪が増える〟というのは、一面では事実です。

糖質を制限しているときには、ATPを作るためにミトコンドリアで利用しやすい中鎖脂肪酸というものがあることは前述の通りです。

EPA、DHAといったオメガ3脂肪酸も特殊な働きを持っています。

オメガ3脂肪酸は、脂肪細胞にあるタンパク質共役受容体GPR120というレセプターに結合することが知られています。

脂質として代謝されるだけでなく、体にシグナルを与える物質として働くことを意味しています。

例えばGPR120が作れないようにしたマウスは肥満になっていきます。脂肪細胞が大きくなり、同時に糖代謝も悪化します。

GPR120を刺激するということは、脂肪細胞の代謝を高める事につながります。創薬のシードとして注目されています。
EPAやDHAが高脂血症の治療薬として保険適応になっているのも、こういったことが背景にあります。

そして、白色脂肪をベージュ脂肪化するのではないかということにも注目が集まっています。

オメガ3脂肪酸の働き 抗炎症作用


オメガ3脂肪酸というと、EPA、DHAと並列される事が多いのですが、DHA(ドコサヘキサエン酸、Docosahexaenoic acid)に特有の働きがあります。

それは、体の炎症を抑える抗炎症作用が高い点です。
DHAそのものもそうですが、DHAが代謝されると細胞を守る(プロテクト)するプロテクチンという物質に変わります。

DHAは、気管に炎症が起きる喘息や皮膚に炎症がおきるアトピーなどに良い影響があることも報告されています。

過剰に蓄積した脂肪細胞は、炎症を惹起する様々な物質を放出することが知られています。炎症が体をむしばんでいく点が、代謝病を解決すべき重要なポイントとなっています。

オメガ3は、代謝病の原因となる脂肪細胞を減らすだけでなく、過剰な脂肪細胞が引き起こす炎症も抑えてくれます。

その2点は、とても大切です。

ちなみに。
ミトコンドリアはかつて細菌であったので、その見かけは細菌に似ています。


真核細胞のミトコンドリアは好気性細菌のαプロテオバクテリアが原始真核細胞に寄生したものという「細胞内共生説」が定説になっています。

私たちの身体の中に、
ミトコンドリアという、別の生物が共存していると言えますねー。

いつ、どうやって?
その関係が出来たのか??

はっきり言えることは
私たちはミトコンドリアの働き無くしては、生きていけないということ。

ミトコンドリアに限らず、
細菌無くしては
生きていけないのが、
私たち人という生き物です。

昨今は除菌が当たり前の風潮ですが、
それをすることにより
抵抗力が落ち、
健康を損なう原因になっていることに、
多くの人に気づいて欲しいと心から願っています。

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参考

漢方がん治療を考える
https://blog.goo.ne.jp/kfukuda_ginzaclinic/e/cd9904a202401df5eb79a6ffb1cf02ef