【小説】異世界に飛ばされたら弱いまま不老不死にさせられて人生詰んだ件 Episode.27 ロナのお仕事

 「何とか眠れたけど、眠れた気がしない」

早朝、目覚めた俺が最初に発した言葉がそれだった。

「顔洗ってこよう」

俺は眠れた気がしないものの、寝直す気にもなれず外にある井戸で顔洗う事にした。

「あれ、ロスト?」

家から出て井戸に向かうとそこには既に先客がいた。


「ロナか、おはよう」

「おはよう、ロスト」

互いに朝の挨拶をし、順番に井戸の水で顔を洗う。

「それにしても早いな」

「前にも言ったけど、猟師ならこれくらい普通だよ」

顔をタオルで拭い、ロナと何気ない会話を交わす。

「なるほどな、これから狩りに行くのか?」

「うん」

どうやら、ロナはこれから仕事に出かけるらしい。

「そういや、ここで暮らす事になったけど俺は何をすればいいんだろうか」

屋敷の時は薪割まきわりという明確な仕事が割り当てられていたが、この町ではそうはいかない。

「大丈夫、しばらく暮せばロストに向いた仕事が見つかるよ」

ロナはそう励ましてくれるが、ここでの生活に早くも不安を感じてしまった。

「あ、そうだ、今日は私の仕事について来る?」

不安なのが表情に出ていたらしく、ロナが俺にそう提案してくれる。

俺は彼女のその提案に……

「ああ、頼む」

迷わず頷き、同行を申し出るのだった。

Episode.27 ロナのお仕事

「ロスト、足元に気をつけて」

「ああ」

ルドルフさんの屋敷があった森ではなく、ウィンミルトンに面している森に俺達はやって来ていた。

「もうすぐ再生の月だから、狩りが出来なくならない内に頑張らないと」

「再生の月?」

俺は聞き慣れない言葉を耳にし、どういう意味かヨナに尋ねる。

「あれ、知らないの? 再生の月というのは、再生の大精霊レアナからとられた季節を表す言葉だよ」

どうやら、再生の月とは四季の一つを表す言葉らしい。

ちなみに再生の月は冬を表す言葉で……

春は創造の大精霊ピューリからとられた創造の月。

夏は破壊の大精霊ノトからとられた破壊の月。

秋は不変の大精霊エゥルゥからとられた不変の月と呼ぶらしい。

大精霊は異なる属性を司っており、ピューリは風、ノトは火、エゥルゥは土、レアナは水とそれぞれイメージから月の名前は付けられたそうだ。

「なるほど、春夏秋冬みたいなものか」

「はるなつあ……え?」

今度はロナが聞き慣れない言葉に混乱している。

「俺が住んでた世界の言葉だよ、意味はロナの言ったものと同じだ」

「ロストが住んでた世界? ごめん、それってどういう意味?」

ロナのその言葉を聞き、まだ彼女達に俺が別世界の人間で記憶を失ってる事を説明していないのに気付いた。

「すまん、まだ話してなかったな、実は……」

俺はそのまま流れで今までの経緯けいいをロナに話して聞かせる事にした。

……

…………

………………

……………………

「信じられない、ロストって違う世界から来た人なの?」

「ああ」

ロナは俺が異世界から来た人間だと知り、驚いた表情を見せるがすぐに元の調子に戻った。

「何か、大昔から語られてる御伽話おとぎばなしの救世主様みたいだね?」

「御伽話?」

その後、ロナが教えてくれたお話は現在の自分の状況と重なる部分があり、大変興味深いものだった。

まずお話の始まりは、一人の神様が大地に生命の木と呼ばれる大樹を植えたところからである。

その生命の木は大地に根付き、人や動物など様々な生命を生み出して現在のソムニアと呼ばれる大陸を創り出した。

そこから500年は神と生命は平穏な日々を共に過ごし、共に成長していったそうだ。

しかし、それは空から現れた世界を脅かすものと呼ばれる悪しきものの出現より終わりを迎える事となる。

全身が禍々まがまがしい瘴気しょうきおおわれたそれは、神様に匹敵する程の力を持っていて力のない生命は抵抗する間もなく殺されていったらしい。

そんな光景を目の当たりにした心優しい神様は、生命を救う為に世界を脅かすものと戦う決意をする。

100年にも渡る長い激闘の末、勝利したのは神様ではなく残念な事に世界を脅かすものだった。

それ以降、神様の力を失ったソムニアは世界を脅かすものの支配下となり、各地に瘴魔しょうまと呼ばれる化け物が出現する様になる。

そこから暗黒時代が続き、生命はただ瘴魔に怯え続けて100年の歳月が過ぎた。

世界が絶望する中、亡くなった神様から神託しんたくを受けたと言う者が現れる。

その者は自らに世界を救う力はないと断言し、300年後に異世界から本当の救世主が現れるまでつなぎとして瘴魔と戦う使命を与えられたと言うのだ。

それからの300年は神託を受けた者、繋ぎの巫女と呼ばれる存在により瘴魔との長い戦いを繰り広げる事になったそうだ。

そして、ソムニア大陸が誕生してから1000年、救世主が現れるとされている年――

「それが今年、ソムニア歴1000年って言われているんだよ」

「なるほど、御伽話なんだろうけど世界の事とか瘴魔の事とか色々面白いな」

屋敷で過ごしていた時は、ルドルフさんもフィオもそういった話はしてくれなかったので聞いていて楽しかった。

「さて、そろそろお仕事を始めようか?」

長話をしていて気付かなかったが、かなり森の奥深くまで来ていたらしい。

「えっと」

当然、来た以上はロナの仕事である狩りをする訳だが付いてきた俺が何をすればいいか分からない。

「俺は何をすれば?」

「んー、そうだねぇ」

俺はロナの指示に従おうと彼女に何をすればいいか尋ねる。

「よし、獲物の陽動ようどう係をお願いできる?」

「陽動?」

ロナに詳しく聞くとロナの弓の射程内に獲物を追い立てる仕事の様だ。

「獲物ってうさぎだよな?」

「うん」

念の為、狩る対象である獲物の動物を確認する。

屋敷の時に遭遇した犬モドキみたいな動物なら、俺では手に負えないからだ。

「なら、任せろ」

小動物を追い回す程度なら俺でも出来ると確信し、ロナの提案をこころよく引き受けた。

が、獲物の兎を目にした瞬間に俺は激しく後悔する事となった。

「ロナさんロナさん」

「ん、何?」

見た目は俺の想像した通りの普通の野兎だった。

でも、問題は見た目じゃない。

「何かでかくありません?」

「そう? これが普通だと思うけど?」

その兎は体長が40cmもあり、俺のいた世界の中型犬と同じぐらいのサイズがあったのだ。

「もしかして、ロストってワイルドラビットを見るの初めて?」

「……あぁ」

何だろう、今すっごく異世界にいるって実感する。

「どうする? 陽動係やめとく?」

「……いや、やる」

正直、今すぐ帰りたかったが何もしないでロナに養ってもらうのは避けたいので俺は覚悟を決めた。

それに犬モドキや盗賊に比べたら大した相手じゃない。

俺は準備が出来たとロナに合図を送り、彼女が弓を構えるの確認してから行動を開始した。

「お゛ぉぉぉぉ」

陽動と言っても何をすればいいか分からなかった俺は、奇声をあげてワイルドラビットへ走り寄る。

近付いている最中、これって猟犬がやる仕事ではないかと考え込んでしまって軽く憂鬱ゆううつになった。

ただワイルドラビットとやらは図体の割に臆病な動物だったらしく、俺みたいな非力な人間が近付いても怖がって逃走を始めた。

奇声をあげている姿は完全にやばい人のそれであったが、ロナが待機している場所へワイルドラビットを追い立てる事は出来た。

「っ、そこっ!」

その後、逃げ惑うワイルドラビットをロナが弓で仕留めて狩りは無事成功した。

「ぜぇ……ぜぇ……」

「お疲れ様、ロストのおかげで仕留められたよ」

ロナは嬉しそうに仕留めたワイルドラビットを俺に見せてくる。

「役に立てて良かった」

ここはもう屋敷ではないので、これからは自分で出来る仕事を見つけていかなければならない。

そういう意味では、ロナの仕事に同行して俺でも役に立つと証明出来たのは素直に嬉しかった。

「帰ろうか?」

「ああ、そうだな」

俺達は狩りの成功を喜び、互いにハイタッチなどをしながら帰路についた。

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