【小説】異世界に飛ばされたら弱いまま不老不死にさせられて人生詰んだ件 Episode.21 予期せぬ事態

 「お待たせ、予定通り酒を盗賊の連中に渡してきたぞ」

俺とロナは作戦通り三人と合流し、盗賊団のいる洞穴ほらあなから少し離れた茂みに身を隠す。


「よくやったわ、後は奴らが酒を飲んで気持ちよく眠っている間に大岩で洞穴をふさげば成功よ」

俺が提案したネタみたいな作戦は皆の賛同により、採用される事になった。


洞穴を塞ぐ大岩は、俺とロナが盗賊の連中に酒を渡している間に三人が見つけて運び出してあるので抜かりはない。


後は奴らが酒盛りをし、寝静まるのを待つだけだ。


隠れている間、各人それぞれ作戦の準備と戦闘になった場合の武器の確認をした。

 

俺は勿論もちろん、戦う武器なんか持っていないので薪割まきわり用の斧である。


次にフィオは魔法を使うので置いておくとして、他の三人が何を持ってきたのか気になったので尋ねてみた。


「自分の武器はこれなんだ」

まずはとエリックが立ち上がり、持ってきた剣を見せてくれる。


彼の家は鍛冶師の家系なので、彼とトールの武器は彼自身が製作したお手製のものらしい。


「俺のは槍だ、かっこいいだろ?」

次にトールが手に持っている長い槍を自慢してきた。


エリックみたいに剣の方が扱いやすいのではと思ったが、トールはトールで槍にこだわりがあるらしく深くは聞かないでおいた。


「私は猟師だから弓、武器の扱いなら一番上手いと思うよ」

最後はロナが狩りに使っている弓を見せてくれる。


仕事で使ってる為か、一番使い込まれていて頼りになりそうだ。


各自武器の見せあいをした後、深夜に作戦を決行するので今のうちに寝ておこうと順番を決めて就寝する事にした。

話し合いの結果、最初に寝ずの番を任されたのは……


「あたし一人でもいいから、あんたは寝てていいわよ」

俺とフィオだった。


「いや、寝る順番は決めたんだし、起きているさ」

俺達は三人が起きてくるまで他愛ない会話をする。


「あんたに一つ言っておかなければならない事があるわ」


「何だ、急に改まって?」

唐突とうとつに何気ない会話から真剣な話をする雰囲気となり、急な変化に対応出来ない俺は戸惑った。


「ごめんなさい、あたし達はあんたを試していた」


「え、試す?」

話の意図が全く読めず、間抜けな返事しか返せない。


「ルドルフは何も言わないつもりみたいだけど」


「ごめん、何を言ってるのか分からないんだが?」

口ではそう返答したが、ルドルフさんとフィオが俺に何か隠し事をしていたのは理解できた。


「今は多分説明しても分からないわ、その時がくるまでは……」


「なんじゃそりゃ」

もう俺はそんな事しか言えず、フィオが次に話す言葉に耳をかたむける。


「変な話をして悪かったわね、嫌なら忘れてちょうだい」


「いや、別にいいけど」

フィオはこの話はおしまいと締めくくり、さっきまでの他愛ない話を再開させた。


時期がくれば話してくれる、俺はそう信じて寝ずの番に戻った。


Episode.21 予期せぬ事態


交代で番をし、洞穴の中の騒ぎ声がしなくなってから2時間が経とうとしている。


「そろそろ行くわよ? まだ距離があるとは言え、出来るだけ大きな物音はたてない様に」

そのフィオの声に俺達は頷き、大岩の前へとやって来た。


全員が集まった事を確認すると、フィオは風の魔法で大岩を宙に浮かばせる。


「……っ!」

ただ彼女の魔法だけで大岩を運ぶのは難しく、俺達は急いで大岩の元に集まって各々おのおのに運ぶのを手伝った。


「皆、行くぞっ」

フィオが魔法で集中しているので、エリックが代わりに皆に合図をして移動を開始する。


魔法と四人でかついでいるおかげか、大岩を運び出す事は簡単そうだ。


「はぁ……はぁ……」

運び出す事は出来るが、他の三人は問題ないものの俺の体力が先に限界を迎えようとしている。


やはり、この世界の住人と平凡な世界にいた俺では体の構造自体が違うので薪割りをした程度では差は埋まらない様だ。


それでも、何とか洞穴の近くまで運ぶ事には成功した。


「すまん、もう駄目だ」

俺はそう謝罪し、その場でへたり込む様に倒れる。


「だらしないわねぇ、後はあたし達でやるからあんたは休んでなさい」

フィオはそんな俺にため息をらしつつ、指示を出して大岩を運ぶ作業に意識を集中させる。


「ロナ、後は自分達でやるからロストくんの介抱お願いできるか?」


「分かった」

エリックがロナに俺の付き添いを頼み、俺が断る間もなく三人で行ってしまった。


「……別に置いて行ってくれて構わないぞ?」

付き添ってくれているロナに申し訳ないと感じ、精一杯の強がりで一人で大丈夫だと彼女に伝える。


「まぁまぁ、何かあったらロスト一人じゃ危険でしょ?」

そんな俺の強がりを制し、ロナは倒れている俺の横に座る。


「それは、そうだが……」

何かあるとしたら、こっちより運んでる三人の方じゃ……と口にしようとした所でそれは現れた。


「うぃ〜、お前ら帰ったぞぉ〜?」

身長が2m近くある大男が酒の匂いをただよわせて此方にやって来たのだ。


「あぁ〜? 何だ、お前らは〜?」

俺はこの男が現れるまで盗賊団のリーダーは、例の青ひげの男だと思っていた。


でも、それは間違いだったのだ。


「何とか言えやぁ!」

この男の体格や立ち振る舞い、呟いた言葉からリーダーはこいつだと感覚で理解する。


「お前ら、町の連中だな? 俺達を退治しに来たってんなら容赦しねぇぞっ!」

黙ったままの俺達にしびれを切らした大男は、背に担いでいた斧を手に取り近付いてくる。


「ロスト!」

ロナのその掛け声で我に返った俺は大男から距離をとり、同じ様に斧を持って身構えた。


勝てない、その言葉が何度も脳内で再生される。


しかし、今この大男を三人のいる場所へ通したら作戦がバレて仲間を呼ばれてしまうだろう。


そうならない為には、俺達二人でこいつをしばらく足止めする必要がある。


「くそぉぉぉ!」

俺は勝てる見込みがないと理解しながらも、目の前の大男に向かって我武者羅がむしゃらに斧を振るった。

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