【小説】異世界に飛ばされたら弱いまま不老不死にさせられて人生詰んだ件 Episode.29 エリックのお仕事

 ソムニア歴1000年 不変の月(秋)

俺がウィンミルトンに来てから一週間、ロナとの生活はまだ慣れないが夜ちゃんと眠れる様にはなった。

「ロスト、おはよう」

「おう、ロナもおはよう」

朝、お互いに挨拶をしてロナが作ってくれた朝食を食べる。

「そういえば、今日ってエリックに呼ばれてるんだっけ?」

「ああ」

昨晩、エリックが家にやって来て手伝って欲しい事があるから明日は予定を空けておいてくれと言っていたのだ。

「手伝って欲しい事って何だろうね?」

「分からん、エリックの家は鍛冶屋だからそれの手伝いとかじゃないか?」

そんな会話を交わしながら、俺達は朝食を食べ終えて外出する準備を整える。

とは言っても、俺は準備するものなど何もないのでロナが準備するのを待つだけだ。

「でも、待ち合わせ場所が町の入口だから何処どこかに出かけるんじゃないの?」

「そういや、そうだったな」

俺は着替えをしに部屋に入ったロナを待ち、扉越しに彼女との会話を続ける。

改めて昨日のエリックの話を思い返してみると、待ち合わせはウィンミルトンの入口で必要な荷物は自分が用意するから出来るだけ身軽な格好で来て欲しいというものだった。

「お待たせ」

俺が考え込んでいる内にロナが着替えを終え、部屋から出てくる。

普段着から狩りの時に着ていく軽装な衣装に着替えたらしい。

ちなみに俺は元いた世界で着ていた私服と屋敷の生活の時にルドルフさんから頂いた衣装、それとロナからお父さんのお古と言って貰った服の三種類しか服を持たないので着替えるという発想がそもそもなかったりする。

「おう、じゃ行くか」

その返事と共に俺達は、待ち合わせ場所であるウィンミルトンの入口へと向かった。

「あれ、ロナとロスト?」

待ち合わせ場所に向かうと、エリックではなくトールが待っていた。

「何だ、トールも呼ばれたのか?」

「ああ、手伝って欲しい事があるってさ」

どうやら、エリックはトールにも声をかけていた様だ。

「トールも今日やること知らされてないの?」

「おう、明日まで秘密だって言われてな」

ここまで前情報がないと何をやらされるのか、不安になってきた。

「おはよう、今日は三人とも集まってくれてありがとう」

そこへエリックが陽気に挨拶をしながら現れる。

「それはいいけど、今日は何をするんだよ?」

そんな彼に俺達三人を代表し、今一番気になっている質問をトールが尋ねた。

「その前にまずは皆これを持ってほしい」

そう言うとエリックは、左右の先端がとがったつるはしの様なもの手渡してくる。

俺はそれを渡された時点で今日何をするのか大体察する事が出来た。

同じ様に手渡された二人も、表情から何をするか察したらしい。

「皆もう察していると思うが、今日やるのは鉱石の採掘さいくつだ」

予想的中、こりゃ今日も仕事には困らなそうだ。

Episode.29 エリックのお仕事

ロナと狩りに出かけた森を抜け、現れた山道を歩き続けていると今回の目的地である洞窟が見えてきた。

「ロスト、大丈夫? 疲れてない?」

「大丈夫大丈夫、俺も色々経験して少しは体力ついたしな」

目的地に到着するとロナがそう声をかけてくれ、疲れてはいたものの彼女を心配させまいと強がって見せる。

「本当に大丈夫か? これから重労働だぞ」

横にいたトールが、そんな俺をからかう様にひじで小突いてくる。

正直な話、休みたい。

「ロストくん、無理は良くないぞ? 疲れている時は素直に言ってくれ」

「すみません、疲れたんで休ませて下さい」

エリックのその言葉で観念し、素直に休ませて欲しいと皆に伝えると笑われてしまった。

その後、丁度いいから昼食にしようとエリックが提案して彼が持参してきた弁当を皆で食べた。

メニューはお馴染みの固いパンと干した果物だ。

「そういや、採掘するのはいいけど何で急に言い出したんだ?」

食べている最中、トールが再びエリックに質問を始めた。

「私も思った、エリックの所って別に採掘するほど材料に困ってないんじゃないの?」

ロナもトールと同じ事を思っていたのか、二人してエリックを問い詰める。

「いや、今回のは自分が私用で必要なものだから店の物を使う訳にはいかないんだ」

エリックはそんな二人へ申し訳なさそうに笑い、今回採掘に向かう事情の説明をした。

「私用? 何か作るのか?」

「ふふふ、それは出来てからのお楽しみだ」

エリックがそう答えた時、一瞬だけ俺の方を見ていた気がするが多分関係ないだろう。

……

…………

………………

……………………

昼食を食べ終えた俺達は、目的の鉱石を求めて洞窟の中へと進む。

中は思ったより暗くなく、陽が射している事から松明たいまつなどの光源は必要ない様だ。

「皆、足元には気をつけるんだぞ?」

「「「はーい」へーい」」

この場所に来た事があるのか、エリックが先頭に立って俺達を先導してくれる。

しばらく進んでいると開けた場所に辿り着き、そこが採掘ポイントだとエリックから説明された。

「じゃあ、自分が指定したポイントで各自作業を始めてくれ」

エリックの指示の元、俺達はそれぞれの場所で両手につるはしを握り目の前の石を削る。

エリックが指定した場所は、既に銅や鉄などの鉱石が露出していて他の場所に比べると苦労はあまりなさそうだ。

その後、エリックからつるはしを使った採掘のやり方を俺達三人はレクチャーされて作業を開始する。

「結構重いな」

改めてエリックに渡されたつるはしを手に持つと、愛用している斧と同じぐらいの重さはあった。

しかし、屋敷の頃にまきを割る仕事をやっていたので同じ重さのつるはしを振り回す事は出来そうだ。

「よしっ」

俺は頭上につるはしを振り上げ、そのまま勢いよく振り下ろす。

カーンと洞窟内につるはしの音が響き渡り、同時に俺の腕に薪割りの時とは違う衝撃が走る。

「うぇ、これは重労働だわ」

最初の一振りで薪割りの倍の体力を消耗したと感じ、自分が役に立てるか不安になった。

横目で三人の様子を伺うと、多少息が上がってるものの問題なく作業を進めているのが見えた。

「異世界人、恐るべし」

盗賊退治の時から感じていた異世界の人と俺のスペックの違いを改めて痛感し、作業を再開する。

それから数時間作業に集中し、必要な量を採れたとエリックから終了を知らせる合図が送られてきた。

「では、本日の結果発表ー」

「「「わー」」……わー」

洞窟を出て、皆それぞれ本日れた鉱石の結果発表を行う事になった。

「ロナ、採掘量さいくつりょう20kg」

「何だ、そんなもんかー」

いや、十分凄いと思うのですが?

「トール、採掘量35kg」

「よっしゃー、ロナに勝った」

力仕事はトールのが得意な様だ。

「そして、自分の採掘量は50kgだ」

流石に経験者のエリックは、採れる量も半端はんぱじゃない。

「おぉ、エリック流石だねー」

「ちぇっ、負けたよ」

そんなエリックの結果に各々賛辞さんじの言葉を送る。

さぁ、暗くなる前に町へかえ――

「そういえば、ロストは?」

町へか――

「そうだったそうだった、ロストの結果も教えてくれよ」

どうやら、言わないと帰してもらえない様だ。

「……ろだよ」

俺は消え入りそうな声で結果を報告する。

「え、何て?」

「……ゼロだよ」

そう答えた瞬間、にぎやかだった空気が一変して哀愁あいしゅうただようものになってしまった。

「「ご、ごめん」」

その空気に耐えられなくなった二人が俺に謝罪し、更に重い空気にはなったがエリックの目的は達成されたので良しとしよう。

悲惨な幕引きを迎えた採掘作業であったが、後日嬉しい事が起こり気分が回復するのをこの時の俺はまだ知らない。













































































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