異世界に飛ばされたら弱いまま不老不死にさせられて人生詰んだ件 Episode.32 救援要請

 ソムニア歴1000年 再生の月(冬)

猪の瘴魔しょうまに敗れた俺達はクリフさんの馬車に急いで乗せてもらい、ウィンミルトンへ帰還する事が出来た。

「二人共、大丈夫かね!?」

馬車からエリック達を支えて降りると、慌てたクリフさんが二人に向かって声をかけてきた。

「だ、大丈夫、です」

「は、はは、これくらい平気、平気」

負傷はしているものの、意識のある二人はクリフさんに心配をかけまいと精一杯の笑顔で受け答えをする。

「トール、あんた大丈夫なの!?」

「げ、ね、姉ちゃん」

そこへアデラさんが駆けつけ、慌てた様子でトールの周りを行ったり来たりし始めた。

「怪我してるじゃない! 早く治癒師ちゆしさんに見せないと……っ!」

「だ、大丈夫だから姉ちゃん落ち着けって」

そんな彼女を苦笑しながら宥め、数分後にようやく話が出来る状態となった。

一方、エリックも父親と思われる人が心配そうに声をかけている。

父親は鍛治師と聞いていたが、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうといった感じで納得する体格の人であった。

「……怪我したのか?」

「はい」

エリックの返事を聞くと懐から小さな麻袋あさぶくろを取り出し、それを彼に投げて渡す。

「……鎮痛ちんつう効果のある薬草だ、二人で食べろ」

「ありがとう、父さん」

どうやら薬代わりの薬草をエリックに渡した様だ。

アデラさんもエリックの父親も二人の事がとても大事なんだなと今回の一件で知る事が出来た。

「お二人共、すみません……大事な息子さんや弟さんをこんな目に遭わせてしまって……」

「……息子が決めた事だ、貴方を攻める気はない」

「そうですよ、町の為に必要な事をしただけですから気になさらないで下さい」

クリフさんは心配する二人に頭を下げ、エリック達を負傷させてしまった事について謝罪した。

そして、それに続く様に次の言葉を口にする。

「こうなってしまった以上、王都の騎士団に討伐をお願いしようと思います」

王都の騎士団、今回ばかりは彼らにお願いするしかないだろう。

クリフさんのその言葉を聞き、俺達は異論はないと頷くのだった。

Episode.32 救援要請

その後、クリフさんは王都に救援を要請しに出かける事になったのだが……

「え、俺達も王都に?」

「ああ、怪我した二人を王都にいる治癒師に診せるのだが私は騎士団に用事があるからね? 君達にお願いしたいんだ」

つまり、二人の付き添いを俺達にしてほしいって事らしい。

トールの父親もアデラさんも仕事で付き添えないらしく、俺達に役目が回ってきたみたいだ。

俺達は互いに目で確認を取り合い、引き受ける事に決めた。

「分かりました、俺達も行きます」

こうして、初めての王都行きが決定したのである。

翌日、俺達はクリフさんの馬車に乗り込んで王都へと出発した。

向かっている道中、クリフさんから王都について色々聞かせて貰った。

王都は王都ゲン・イングサムと言い、ルドルフさんの屋敷やラットヴィルと言った村、ウィンミルトンなどを含めたイングサム地方と呼ばれる一帯を統治している大国である。

国王の名は、ゲラルト・イングサム。

ソムニア大陸には他に別の一帯を統治する三つの大国があり、ゲン・イングサムはその中で森林や平原といった比較的穏やかな土地の多い北西に位置する場所にあ

るらしい。

「瘴魔さえいなければ、他国と比べれば住みやすい土地なんだがね」

瘴魔が現れる以前は作物の栽培などで交易が盛んだった様だ。

今では瘴魔の襲撃を恐れて交易も必要最低限にしか行わなくなってしまったみたいである。

それは他の三国も同様で苦しい状況は何処も一緒らしい。

「ゲラルト王は、その状況を何とかする為に騎士団を総動員させて瘴魔討伐作戦を行っているそうだ」

で、その作戦のせいで各村や町の防衛はおろそかになっているという訳だ。

「良い返事を貰える可能性は低いが、出来るだけ対応してもらえる様に頼んでみるよ」

俺達じゃ謁見えっけんすら叶わないと思うので、クリフさんに頑張って貰うしかないだろう。

その後、王都に着いた俺達はクリフさんと別れて治癒師のいる城下町へと降り立った。

「いてぇ、もっとゆっくり歩いてくれよ」

肩で支えているトールが痛みに耐えきれず、俺に文句を言ってくる。

「悪いが我慢してくれ、じゃないと前に進めないからな」

そんなトールに謝罪しつつ、俺はまた一歩と前に進んだ。

「エリック、大丈夫?」

「あ、ああ、すまない」

後ろではロナが同じ様にエリックへ肩を貸し、支えながら俺達に付いて来ている。

しばらくそんなやり取りをしていたが、何とか治癒師のいる場所へと到着する事が出来た。

治癒師の人に二人の治療をお願いし、料金を支払うと俺達の仕事は終了となった。

「じゃあ、治療が終わったら戻って来るからそれまで大人しくしてろよ?」

「ああ、分かってるよ」

支えていたトールを椅子に座らせ、そう言い残すと俺はロナと一緒に外に出た。

「じゃ、クリフさんの所に戻ろっか」

「そうだな」

仕事を終えた俺達はクリフさんの事が気になり、城のある場所まで再び歩き始める。

「久々に来たけど、ここは相変わらず賑やかだねぇ」

「ロナは来た事あるんだな」

城へ向かう最中、城下町の市場などを横目で見ながらロナと言葉を交わす。

「肉とか毛皮なんかを売りにね」

市場の賑やかさを見てるとここで商売をするのは確かに良いかもしれない。

「そうだ、今度機会があったら一緒に王都を見て回らない? 案内するからさ」

「ロナがいいなら是非お願いしたいね」

そんな唐突とうとつな誘いに俺が頷くと、ロナは表情をぱっと明るくさせて笑顔になる。

「じゃあ、約束ね?」

「ああ、約束だ」

俺は約束を交わし、あの猪の瘴魔が一日も早く討伐されるのを願った。

「待ってください、私の話を聞いてください!」

城の前までやって来るとクリフさんが城の兵士と何やら揉めている場面に遭遇した。

「ええい、うるさい! 我々はドラコベルクの大型瘴魔討伐に忙しいのだ! 通常の瘴魔の一体や二体、自分達で何とかしろ!」

「そんな……っ!」

様子からして討伐隊を派遣してくれる事はなさそうだ。

兵士は言いたい事を言い終えるとクリフさんの元を去り、残されたクリフさんは膝をついて座り込んでしまった。

「クリフさん、大丈夫ですか?」

それを見ていた俺達は慌ててクリフさんに駆け寄り、そう声をかける。

「君達か、すまない……私が不甲斐ないせいで」

「そんな事ないですよ、今回はタイミングが悪かっただけです」

落ち込むクリフさんをロナがそう励まし、俺達は馬車のある場所まで移動を始める。

「良かった、まだいましたか」

すると、不意に背後から声がして振り返ると銀色の甲冑かっちゅうに身を包んだ兵士……より位の高そうな男性が立っていた。

「貴方は?」

「私はイングサム騎士団、団長ロベルト・ルヴェール」

位が高そうとは思ったが、まさか騎士団の団長さんとは……

「先程は部下が失礼なことしてしまい、申し訳ありませんでした」

「い、いえいえ、お気になさらず」

頭を下げる騎士団長さんに驚き、クリフさんは慌てて顔をあげて欲しいとお願いする。

「猪の瘴魔の件、我々は力になれませんが別の者なら対処できるかもしれないと思いましてね? 貴方を探していたんです」

「そ、それはわざわざどうもありがとうございます」

話を聞く限り、この騎士団長さんは話の分かる人の様だ。

「それで別の者というのは?」

「それはですね、王都の剣術大会で優勝した流浪の剣士で名は……」

剣術大会優勝者の剣士、それを聞いただけで期待が高まる。

「オデットという者です」

今回の問題を解決してくれるんじゃないか、そんな希望が見えた気がしたからだ。


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