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素数が好きな彼女 l エッセイ

いいなと思っていた女の子と過ごした翌朝、目覚めた女の子に「私、人数が素数じゃないと気がすまないんだよね」と言われたことがあった。

私は自分がただの素数を満たすだけの人員だったことと、そんな理由で振られてしまうことにまぁまぁショックを受けたけれど、それ以上に「世の中には本当に色々な人がいるなぁ」と思った。その時点で私は13番目の素数だったらしい。彼女はせっせと人数を数え、それが素数になるように微調整をしていたのだ。

きっかけや背景があればまだ理解しやすかったのだが、逆に動機はなく、素数の存在を知ってしばらくたったある朝目覚めた瞬間、理由なく宿命的にそう感じたらしい。私は畏怖の念すら抱いた。

そして13番目の素数は、同時にその数列から外れる運命だった。もう7年も前の話だ。

恋人にはなれなかったけど趣味が近かったこともあり、私と彼女(仮称「素子さん」)はそれからはただの友達として日々を過ごした。一度、素子さんに彼氏ができた。私は興味本位でこう聞いてみた。

私「でもいいの?彼氏ができたら素数じゃなくなっちゃうんじゃない」

素「大丈夫、そこはなんとでもなる」

私は素子さんの「なんとでもなる」が結構怖かったけれど、自分には関係ないのでそれ以上突っ込むことなくなんとなく話を終えた。

割り切れない思い

その3年後、素子さんは別の男の人と結婚した。そして11年後(去年の年末)に離婚したらしい。彼女は九州から遠く離れた関東のとある県で結婚生活を送っていて、別れたあともその土地に住み続けるらしかった。

電話越しに素子さんの離婚の経緯を聞いていると、彼女が旦那さんと離婚したあとで新しい恋人ができたと知った。私は興味本位でこう聞いてみた。

「そうなんだ。でも素数問題は大丈夫だったの?」

素子さんは出来の悪い弟子の質問を受けたお師匠様のような声で当然のようにこう言った。

「もちろん素数じゃなくなったよ。20になってしまった。だからちゃんと帳尻を合わせて数列を21にしたよ」

私は素子さんの話にそうなんだと相槌を打ちながら、心のなかでこう思った。お師匠さま、21は素数じゃないよ。19の次は23だよ。

素子さんの「素数信仰」は、数学的な正確さを超えて、彼女のアイデンティティの一部となっていた。そしていつの間にか、私のほうが素数に詳しくなっていた。なんて品のない素数の覚えかたなのだと、割り切れない思いを抱えたまま夜の電話を終えた。みなに幸あれ。

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