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男性が知っておいてもいい女性用品の買いかた

付き合っていた女の子と少し遠出したある日、行った場所が楽しく急遽1泊することになった。ホテルにチェックインして先に一人で温泉に入り21時半ごろ部屋に戻ると、彼女が「あのな、思いがけず急に生理になってん」と教えてくれた。

それは本当に、本当に思いがけないタイミングだったらしく、彼女は薬以外は何も持っていないらしかった。体調が悪く話すのも大変そうだったので、「普段使っているものとは違うかもしれないけど」と前置きをして、急いで必要そうなものを買いに一人ビジネスホテルのすぐ近くにあったドラッグストアに駆け込んだ。

幸い、以前からしんどいときに欲しい食べ物と飲み物だけは聞いていたのでそれを買い物かごに入れた。そして寝るとき用(多い日用)と日中用(普通用)のナプキンと、念のため生理用ショーツといわゆる生理の時用のウェットシートを安くで買った。本当はバラエティパックがあればよかったのだけれど、そんなものははなから存在していないと知っていた。

私は急いで買い物を済ませ、10分後に彼女にそれらを渡した。ひとまず必要なものは無事に揃っていたようで、そっと胸をなでおろした。

その2週間後のこと

そんな出来事も忘れかけていたある日、その彼女と家で過ごしていたら、彼女が意を決した顔で、「あんな、あの日買うてきてくれたもののことなんやけどな…」と切り出してきた。

私は自分が見当外れのものを買っていたのかもと思い、「ごめん! 間違った買い物をしてしまっていたかも」と謝った。一応、旅行から帰った数日後に彼女と電話をしていたときに「次から同じことがあったときのために本当に必要だったものを教えてくれないかな」と聞いてはいた。その時は「ちゃんと全部そろってたわ」と言ってくれたのだけれど、本当は言い出せなかったのかもしれない。

そんなことを考えていたら、「ちゃうねん」と彼女が言った。

「ちゃうねん、逆やねん。完璧に揃いすぎててん。食べ物とか飲み物とか、以前から伝えとったことをしてくれたんは嬉しかってん。ただな、生理用品のことは私は一度も話してないやん。せやのに買ってきた生理用品が完璧すぎやねん」

「えっ、ごめん!たしかに商品名は聞いてないし今も知らないんだけど、もしかして普段使っている商品と偶然同じだった?」

「ちゃうねん、そんなこととちゃうねん。そうやなくて」と彼女はどこまで話すか逡巡した表情を見せたあと、結局すべて話すと決めたらしく口をひらいた。

「あんな、あんたが買うてきたものの何から何まで完璧すぎてん。いつも私が使うとるものがわからへんから、きっと夜用も昼用も値段が手頃でかつ量がそない入ってないものにしてくれたんやろ。そこまではええねん。ただな、あんたはそういう時用のショーツまで買うてきて、なおかつ生理用ウェットシートまで買ってきたんや。総額もなんか絶妙に許せる範囲内やし。しかも、あんた普段絶対にエコバック使うのにあの日はあえてレジ袋もらってきたやろ。あるに越したことはないと思って。あってる!全部合ってんねんけど、完璧すぎて少し嫌やってん。慣れてるって思った。ちょっと間違っとってほしかった。ごめんな」

私は思った。モテの世界は難しすぎる。彼女は私が購入した商品を通して、私の以前の恋人の影を見てモヤッとしたらしかった。きっと以前もこういう事があって、私が昔の恋人に教えてもらった歴史があるから商品を揃えられたのだと思ったらしかった。

私は心の中だけで釈明した。ーー違う、違うのだよ。僕は別に昔の恋人から教えられてなどいないのだよ。

昔読んだ女性作家のエッセイで「生理に理解ありますみたいな顔をしている男ほど何もわかっちゃいねぇ。ナプキンだって多い日用と少ない日用の2種類しかないと思っていやがるし、どんな違いがあるかすらわかっちゃいねぇ」的な文章を読んだときに、これワシやないかいと思ったのだよ。

そんな矢先に幼なじみの女の子と出かけたときに幼なじみが「生理やってらんねー」みたいな話をしてきたから、思い切って「もし僕が誰かと付き合ったとしたら何を買えばいいの」と聞いてみたんだよ。そしたら幼なじみがそれはすごく大事なことじゃと言って、わざわざドラッグストアまで行って買った方がいい商品と価格帯と注意点を教えてくれた過去があるのだよーー。

でも、と私は思った。でも仮にいろいろ教えてくれたのが前の恋人ではなく幼なじみの女の子だと知ったところで、彼女の嫉妬は軽減されないのだろう。小さい頃からの女友達から教えてもらうのも、それはそれで嫌なのだ、たぶん。

私はほかの女の子に教えてもらうのではなく、事前に彼女と一緒にドラッグストアに行き、彼女から色々教えてもらい、あの日の旅行を迎えるべきだったのだ。

ーー結局その彼女とは全く違う理由で数ヶ月後に別れた。彼女と別れてから1年くらい経つ。

もし私が今後誰かと付き合ったとしたら、二度と同じ鉄は踏まないと決めている。もしそういうことがあっても、完璧ではない買い物をすると決めている。

だが、と思う。だがこのエッセイでこんなにも「生理用ナプキン」を連呼した私はみなに気持ち悪がられるだろう。好かれるなどもってのほかだ。自分で書いていてもちょっと気持ち悪いもの。気を悪くした方々ごめんなさい。

「モテる男への道はまだまだ遠いようやで!」、と彼女の声が聞こえた気がした。幻聴かしら。

ーー今回もまたとてもふざけた内容だけれど、個人的に「性別が違うから」で線を引いているあれこれってすごく多いよなと思う。

センシティブな内容だから触れられたくない人もいると思うけれど、風邪で寝込んでいる人におかゆとかお薬を渡すみたいに、困っているときに必要なものを提供できる知識を持っていること自体は間違ったことではないのではないかと思ったりする、多分。


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