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【怪談小噺】呪いの創り方

ある時、男はふと思った。
「呪いを創りたい」

別に誰かを恨んでいるとかではない。ただ単に自由研究の様な感覚で“創ってみたい”と思ったのだ。

男を仮に田中さんとしよう。
田中さんは特別研究熱心でも信仰心があついわけでもない、仕事もそれなり、最近彼女と別れた独身の至って平々凡々な30代の男だった。

それがある休日の日、近所のコンビニ前でたむろする若者5人組を見てふと呪いを創りたい、創らねばと思ったのだ。

それは熱帯夜が続く月の出ない晩であった。

家に帰って田中さんは呪いの作り方を調べ始めた。ネット記事から電子書籍、Twitter、YouTube、休日はあっという間に過ぎていった。

“呪いを創りたい”と仕事中も頭を占めるのはそれだけだった。どうすれば良いのか、何が良いのか、退社後に図書館行って調べたりもした。

主な呪いの方法は
犬神、丑の刻参り、蠱毒だと知った。
その中でも田中さんは“蠱毒”を重点的に調べた。

主に毒虫を使う蠱毒。
だが田中さん、虫はちょっと嫌だな…と考えた。
虫が大の苦手で触ることはおろか見ることも厭うほど。かと言って他もやりたいとは思わなかった。犬神は純粋に可哀想だと思い、丑の刻参りも特定の誰かがいるわけでもない。
そんなことを言ったら蠱毒で呪いたい相手がいるわけではないが、「呪いを創る」には最適解だと思ったのだ。

では何を集めようか。虫は触りたくないため他が望ましい。どうしようかと重ねり歩いていると喧々轟々と口喧嘩をしている爺さんたちを見つけた。

どうやら騒音がどうの、ゴミがどうのとよくあるご近所争いのようだ。互いに迷惑だなんだとどなりあい非常に近所迷惑である。
いつものことなのだろうか、近所のおばさま方もやれやれと言った表情で遠巻きに見ていたり、素知らぬ顔で素通りしていく。
それでもこの罵詈雑言は耳に心地よいものではないため皆顔を顰めている。

そこで田中さん、ピンときた。
“言葉”も毒だと。強い物が勝者となる虫にの蠱毒とは多少違うが、強い思いの言葉を集めたら良いのではないだろうか。
早速近所のホームセンターで蓋つきの壺を買ってきた。梅干しを入れるようなそんな壺だ。
この壺の蓋を開け、2人に近づく。

「もし良ければ、この壺の中に不平不満を吐き出しませんか?」

爺さんたちは怪訝な顔をするも、田中さんの飄々とした態度に充てられたのか1人ずつその壺の中に相手への罵詈雑言や日々の生活の不満などをぶちまけた。その間もう一方はなにおぅ!?など今にも飛びかかりそうであったが田中さんが宥めていた。
あらかた言い終わったので、もう1人の爺さんに渡し同じように壺の中へ不平不満を吐き出して。
その間、先に言い終わった爺さんは嘘にように静かだった。

2人ともあらかた言い終わったら、何やらとてもスッキリして、ムカムカしていた気分が落ち着いて、穏やかな顔をしていた。

2人は田中さんに俺を言って、またその壺を貸して欲しいと言ってそれぞれの家に入って行った。

蓋を閉めた壺の中には物体は何も入っていない。でも、“毒”は入ったのだと感じた。


翌日以降、この噂を聞きつけて地域住民たちが壺に毒を吐かせて欲しいと訪れるようになった。その中には喧嘩をしていた2人の爺さんもいた。

重さは変わらないはずの壺が徐々に重くなるような気がした。

そして半年が経つころ、その壺は誰も触っていないし、物が当たってもいないのにピシリと亀裂が入った。

田中さんは嬉しく思った。ようやく完成したのだと。

この壺はその地域の中でよく人が往来する公園で、老若男女が踏む頻度の高い中央あたりに蓋をとった状態で丑三つ時に埋めた。

毎日毎日、その壺の上を元気な子供達や幸せそうなカップル、穏やかな老人たちが歩いていく。

毎日毎日、毎日毎日、“言霊の蠱毒”の上を通っていく。

ある時から、子供たちはそのツボが埋められている公園で怪我をすることが多くなった。
骨折、裂傷、喧嘩。
またある時から、カップル達の修羅場が多くなった。
浮気、不倫、別れ、殺傷。
またまたある時から、老人たちの不幸が始まった。
喧嘩、発作、通り魔、暴行、不審死。

”この公園だけ何かよくない事が起きる“と噂が立ち人々は訪れなくなった。

田中さんは呪いが完成した事が嬉しくて、一晩中その壺が埋まる位置で踊っていた。

こうして完成した言霊の蠱毒を土地に開け放ち、その土地は地域住民たちの創り出した呪いによって徐々に穢れていった。

あぁ、そうそう。
最近は近所のコンビニにたむろする若者を見かけなくなった。噂では少年院に行ったとか入院してるとかなんとか。

次はどこに埋めようか、今から楽しみに思う田中さんなのであった。

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