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子どもの成長記録。いつだって背中を押してくれるのは子どもだった。弱視の治療の話。

この記事には、子どもが片目遠視による弱視で0.1弱から治療し約3年かけて矯正0.9に至る過程を書きます。

この体験談がどなたかの参考になると幸いです。症状や治療については個人差があると思いますので心配なことがある方は眼科にご相談をお願いいたします。
なお、現在も治療継続中です。

👓治療開始までのこと

3歳児検診の日。
私は有給休暇を取っていた。
インフルエンザの予防接種と、保育園の手続と、詰め込み過ぎて一日中大忙しだった。

検診は無事に終わり、最後役所を出た時息子は随分と久しぶりに腕の中で寝息を立てていた。
重くなったな…
嬉しいようなさみしいような複雑な気持ちでうちへ帰った。

3歳児健診の前に視力検査と聴力検査を自宅でやり結果を提出することになっている。
私もやったつもりでいたがのちに自己検査の甘さを思い知ることになった。

息子の右目はほとんど見えていなかったのだ。

以前から斜視が気になって別途検査を受けたらいともあっさり遠視が判明した。診断名は遠視、斜視、弱視、など。専門的な長い難解な名前がずらずら並んだ。

スポットビジョンスクリーナーという機械のある小児科でスクリーニングをして、その後小児眼科を標榜する眼科へ行き、メガネをかけるまで一気に進んだ。

片目が普通に見えている場合、傍目には普通に見えているように見える。そうなると、もう片方の目の異常は発見が遅れることが危惧されている。子どもの視力の発達は時間のリミットがあるからだ。

眼科に行くと初めての子はすぐわかる。検査の時良い方の目を塞がれて泣くからだ。どちらかだけ視力が悪いかは、片方ずつ目を覆ってみると発見しやすいと思われた。
*目の検査をした方がよい場合の例は、3歳児検診の案内にチェックリストがありました*

スポットビジョンスクリーナーは、スクリーニング目的で暗室で機械の光るところを見るだけですぐに終わる。6か月から測定できるそうだ。3歳児健診で取り入れている自治体もあると聞いたことがある。

視力検査は別途行う。視力検査は、小さな子ども専用の方法やツールがあって視能訓練士さんが上手に相手をしてくれた。眼鏡が必要なら1週間目薬を点眼して(これがまた、嫌がるので大変だった)より精密に検査をする。眼科医が度数などを書いた処方箋を出してくれ、その後眼鏡を購入した。オグラメガネで2週間ほどでできた。よって眼鏡をかけるまでは検査から1か月くらいはかかった。

眼鏡をかける、これが視力を上げるために欠かせない。脳によく見えた状態の映像を送り込むためと聞いた。併せて片側を改善したいので、良い方の目をアイパッチというもので覆って、悪い方の目を使う訓練をする。つまり、ほとんど見えていない目でものを見るのだ。これはなかなか、3歳児にはハードルが高かった。早い子はもっと早くから始める。

👓治療開始すぐのこと

眼鏡を作った時、レンズが厚くて驚いた。よほど悪いんだなと思ったのと同時にメガネ顔に慣れず、別人になってしまったような複雑な気持ちになった。視力が育たなかったのは私のせいかも、可哀想なことをしたのかも、と自責が止まらなかった。その頃は写真を撮る頻度も減ってしまった。

そんな気持ちは子どもにはすぐ伝わるのかもしれない。眼鏡をかけようとするとぐずるので、私も健康診断で使う眼鏡を新調し一緒にかけたり、眼鏡をかけてる知人に会わせてカッコ良いね!と褒めてもらったり、ポジティブなキャンペーンをたくさんした。

小さな子どもたちは純粋で、メガネかっこいいな!と息子は保育園でたちまち人気者になったようだ。眼鏡を進んでかけてくれるようになり、そのうち、眼鏡をかけると少しよく見えると本人が自覚すると自然とつけるようになってくれた。子どもの逞しさに助けられた。

問題はアイパッチだ。
眼鏡に取り付ける布製のものを眼鏡屋さんで眼鏡と一緒に購入した。車やバスなど好きなデザインを選んでもらった。アイパッチとともに時間を測るタイマーを買った。
目に直接貼って覆うタイプのものは眼科のそばにある薬局でも売っている。うちの場合、皮膚が繊細だったのでかぶれるかもしれないと思い、布製のものにした。

初めてアイパッチをつけたときのことは忘れられない。

なにせ、アイパッチをつけると0.1ほどの視力。一番最初につけたとき、ぽろぽろと涙を流して怖いと泣いた。当たり前だ。息子の頭を撫でて、抱きしめて数分だけがんばった。その夜私は寝息を立てる息子の隣で静かに泣いた。

👓アイパッチを続けるコツ

最初に見せたのはYouTube。眼科の先生から子どもは単純だからテレビやゲームなら釣られてくれると聞いたからだ。YouTubeはどんどん候補を出してくれて、よく見ている動画に似たものを出してくれるから都合がいいと思った。主人公の顔がデカいBaby Busや機関車トーマス、ペッパーピッグなどをよく見た。

その日からちょっとでもいいから毎日アイパッチをつけて、時間を記録した。子どもの適応力は凄まじい。日に日に継続時間は伸びていった。この頃既に子どもには自分で困難を乗り越えていく力があると確信していた。

医師に告げられた目標は1日3時間。これがなかなか難しい。私もアイパッチを着けてみたら普通の視力でもとてもストレスに感じた。心を鬼にして、でも本人の前では明るく振る舞って、毎日少しでも長くできるよう励ました。

YouTubeや、SwitchやiPadのアプリゲームなど、お気に入りをたくさん見つけた。片目で危ないのでアイパッチは家にいるときだけする。ちょうどコロナ禍で篭りっきりになりますます継続が楽になった。リモートワークになったのをいいことに、保育園の迎えも1時間早めてアイパッチの時間にあてた。

アイパッチをつけ、視力が上がり、視力が上がるのでアイパッチがつけられる。好循環ができた。テレビやゲームのやり過ぎは一般家庭ではいけない事だがうちではアイパッチ装着時間獲得のため積極的に推奨された。

このアイパッチと仲良くなるために心掛けたことがある。

一つは、アイパッチをする時間に前向きな名前をつけたこと。私はそれを「チャレンジ」と名付けた。負荷をかけることをチャレンジというからまあ英語の意味も合うし、いわば毎日能力拡張にチャレンジしているのでよさそうだ。我が家でしか通じない暗号のようでよい。

もう一つは、出来たことをうんと褒めること。困難と対峙すること、継続していることに自信をもってほしい。

今は、テレビやゲーム関係なしに、起きたらアイパッチをつけ、保育園に行く時はずして、保育園から帰ったらアイパッチをつけて、目標の3時間を終えるという生活をしている。だから毎日3時間のタイマーが鳴ったらおめでとう!と声をかけている。

テレビやゲーム関係なく、3時間生活の中でアイパッチをする生活はもう450日以上続いている。最初はテレビやゲームのときだけだったが、アイパッチを常につけるように切り替えた時、アイパッチ装着時間の記録をやめて毎日カレンダーに絵を描くことにした。常にアイパッチをつけるようになるのを機に、テレビ、ゲーム時間は制限付きになった。

ご褒美に好きな絵を勝手にカレンダーに描き始めたら息子はリクエストをくれるようになった。虫、花、魚、恐竜、動物。たくさんのものを描いてきた。息子が誕生日にもらった図鑑は私の方がよく開いている。

👓アイパッチ訓練がもたらしたもの

進捗が目に見えるのはいいらしい。実施したことを記録していると、継続意欲が湧くようだ。

胃腸炎で入院しアイパッチができなかったときも、3時間やっては一日分絵を描き、また3時間やって絵を描き、あれよあれよと5日分を取り戻した。物をご褒美にするのもいいかもしれないが息子は物欲がなくこの方法がよかった。逆に、もうカレンダーに絵を描くという私の楽しみに付き合ってくれているだけかもしれない。

3時間測るのも忙しい時は大変だ。着替えで眼鏡を外す時タイマーを止めたり、お風呂からあがってまたタイマーをつけたり、親が忘れそうなときもある。息子も慣れて自分でやってくれる。息子はすっかり習慣を味方につけたな、と思う。何事にも応用できるスキルだ。

アイパッチとは別に、良い方の目を見えにくくする目薬を寝る前に点眼している。こちらは負担感がないようだ。親の点眼スキルが飛躍的に上がった。これもラッキー。

👓挫けそうになった時

先に書いたように、子どもの適応力は凄まじい。私は不安になったり泣いてしまったりしたけど本人がきちんと続けてくれたことで救われてきた。

いつだって、子どもへの心配は、子ども自身が壁を打ち破っていく。私はその姿に背中を押されているだけだった。

もちろん、めがねをかけ始めた頃は息子がもういやだ!と投げ出して、私もまいっか、となってしまっとこともあったけど、我が子にコツコツ続ける根性があってよかった。一度、悩んだ時がある。

5歳の誕生日を前に、0.1から矯正0.7まで上がったものの暫く停滞が続いた。先生は「今までと違うことをしないとだめですよ」と厳しくおっしゃった。それまでアイパッチはテレビやゲームのときだけとして、平日は1時間ほど土日にドカンとまとめて時間を稼いでいたがやはり足りていなかったのだ。朝起きたらすぐつけて、3時間達成してから寝る、1日のうちに3時間確保する方式に変えようと決意した。

しかし、問題は本人だ。どう説得するか。
毎日漏れなく3時間やらないと目が良くならないことや、あと3年もしたら視力の成長は止まってしまうことを伝えるが、どうもピンときていなかった。0.1から始め、今の方がだいぶいいのだから無理もない。気の進まない提案に乗ってもらうにはどうすればよいか。

考え抜いて私は本気の説得に挑んだ。
息子はバスの運転手になりたいと言っていた。

「今のままチャレンジ(アイパッチの我が家での呼び名)を続けていたら、目の検査で良い成績が取れなくて運転免許がもらえないかもしれないよ。朝起きたらすぐチャレンジして、お家に帰ったらまたすぐチャレンジしよう。そしたらバスの運転手さんになれるかもしれないよ」

こんなこと5歳児に言っていいのか。
バスの運転手にならなくても、なんとしてもやってもらわなければならない。
やらないよ!と言われてしまうだろうか?

不安だったが、先生からの苦言の翌日朝に息子に言った。息子はうつむいて考え込んでいた。
保育園に迎えに行くと息子は指を噛んでいた。そんなこと普段はしない。よほどプレッシャーだったんだろう。私は自分を責めた。その夜私はまたひとり静かに泣いた。

次の日の朝。

チャレンジしようか?と息子に聞いてみると息子はやると言った。その日から、3時間生活時間に地道にアイパッチをつけて今に至る。

毎日カレンダーに絵が連なって、毎日おめでとうを重ねている。

👓おわりに

昨年末、停滞期を抜けたのか矯正で0.9になった。
私は息子を誇らしく思った。
まだチャレンジは続いている。

初めてアイパッチをつけて泣いたとき。
バスの運転手になれないかもしれないと言った日保育園で指を噛んでいたとき。
辛くて怖くて挫けそうなときも、きみは自分で立ち上がって前に向かっていた。

最終的にはどれくらいまで改善するかわからないけれど最後まで伴走したい。

いつのまにか自分でアイパッチを眼鏡から外せるようになって(つけるのは難しそうだ)、タイマーも自分でつけて消して、親に出来ることは減っているけれど、背中を押してもらってばかりだけど、できることがあるうちにさせてほしいと思う。

最後のおめでとうをいう日まで。

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後日談を書きました!2024年1月。

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