興味深い母の話。誰かの人生の最後に忘れられてしまう人、慕われる人。
40過ぎ存命の祖父母はたったひとり。
96歳の父方のおばあちゃんだ。
いなかの両親がショートステイやデイサービスなどの介護サービスを使いながら自宅で介護している。
そんな両親も70歳近辺だ。
おばあちゃんは下のお世話が必要で、家にいる時は主に父が世話をして、母は食事作りや掃除なんかをしている。
母から興味深い話を聞いた。
父には妹さんがいるがおばあちゃんに介護が必要になってから、とんと顔を見せないそうだ。しかも、妹さんは口が悪くて優しくしてくれないと言う。
亡くなったおじいちゃんはだいぶ前に脳梗塞を経て老人ホームにお世話になっていて、その頃は妹さんはかなり頻繁に来ていた。コロナで来づらくなったのかもしれないし、それぞれ、家庭の事情があるだろうからそこは置いておいて。
おばあちゃんに、「子どもは何人?」と聞くと、「息子と嫁がいる」と言うそうだ。
おばあちゃんの中では、妹さんがいなくなってしまっている。
おばあちゃんは、孫にはニコニコしていたけれど、母曰く、嫁には厳しくて全然優しくなかったそうだ。
それが今、おばあちゃんは母をとても頼りにしている。
ヘルパーさんの作るご飯は食べないけど、母の料理は美味しい美味しいとよく食べる。
そう語る母の表情はどこか得意気だ。
おばあちゃんは、母に醜い言葉を吐くこともあるそうだけど、「そんなに嫁が嫌なら妹さんのおうちに行く?」と父が聞くと、ブルブル震えて歯を食いしばって嫌がると言う。
母は、昔おばあちゃんに嫌な思いをさせられて介護もしたくないくらいと言っていたものの、おばあちゃんに頼られて昔のトラウマが僅かに癒されているように見えた。
不思議なものだと思う。
おばあちゃんは、父の妹さんと一緒になって母の悪口を言っていたときもあったのに。
今では、父と母はおばあちゃんの中では大きな存在なのに妹さんはそうではない。
きっと、まだ赤ちゃんだった妹さんを抱くおばあちゃんの目はニコニコ笑っていたに違いない。優しい声で語りかけて、愛情を注いできたはずだ。今はどうだろう。おばあちゃんは、人生の最後に妹さんに会いたいのだろうか。
自分の人生の最後に、近くにいて安らぎを与えてくれる人はどんな人だろうか。
逆に、誰かの人生の最後に、自分は忘れられてしまうだろうか、それとも最後にあなたといられてよかったと思ってもらえることがあるだろうか。
母のように、ありがとうと言われて見送れるならば、きっと、それはすばらしいことだと思う。
母はまた今日もおばあちゃんにごはんを作っている。
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