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R4200号(SFショートショート)

  あらすじ
 未来のある国。この国は今、自国の始めた戦争のさなかにある。そのため工場では戦闘用ドローンが生産されていたのだが……。



  朝の9時。R4200号は、本日の作業を開始した。R4200号は工場で、戦闘用ドローンの組みたてに従事している。
 現在この国は自国が始めた戦争のさなかにあり、ドローンはいくらあっても足りないくらいだ。
 当然ながら長時間作業をしても、R4200号は疲れを知らない。しゃべるでもなく、黙々と作業を続ける。様子を見にきた工場長の顔は満足そうだ。
 工場長は工場内を一通り見て回ると、自分のために用意された個室に向かう。
  ホロテレビのスイッチを入れると、国営放送のニュース番組の立体映像が浮かびあがる。
 かつてこの国には民放もあったが、今の与党が政権を握ってから全ての放送局が国営化され、検閲が入るようになったのだ。
 ニュース番組は、この国の軍隊が戦う隣国との戦争で連戦連勝していると報道していた。その時である。
 突然空襲警報が鳴った。工場長は手近にあった防空頭巾を頭にかぶると、防空壕へ向かって走る。逃げる途中で上空を飛ぶ敵の爆撃機の姿が見えた。
 防空壕に入った直後に、どこかに落下した爆弾が爆発した音が響き渡った。
 防空壕内にいた人達の中から悲鳴が響き渡る。最近になって、この町にやってくる敵機の数が増えた気がするが、それについて言及する者はいない。
どこに秘密警察のスパイがいるかわからないのだ。
 ニュース番組の報道を信じるなら、わが国の軍隊は連戦連勝で、常に隣国の軍隊を圧倒し、圧政に苦しむ隣国の民衆を毎日のように解放していた。
 工場長は、この国の行く末に一抹の疑問がある。本当にこの国は勝っているのか? 
 襲来する敵機の数が増えてゆき、この都市は廃墟だらけになってしまうのではなかろうか。
「ロボットは避難させないの」
 たまたま工場長の近くにいた、近所に住む飲み仲間の1人が聞いてきた。
「ロボット達が倒れちまったら、ドローンの生産も止まって国も困るでしょう」
「空襲警報が鳴ると作業をやめるけど、避難はしないよ。思考が作業モードになってるから、危険を感じて逃げるという行為を取れないんだ」
「かわいそうな話だね」
 飲み仲間の男は、酸っぱい物でも食べたような顔をする。
「わが国は連戦連勝だから、もうこんな爆撃はないだろう。心配しなくても大丈夫さ」
「そ、そりゃあもちろんわかってるさ」
 飲み仲間の男は、慌てて答えた。

 空襲警報が鳴った時R4200号は、一旦作業を中止した。
 工場長があわてふためきながら工場を出て防空壕に向かったのを見ていたが、当然R4200号は、恐怖を感じたりはしない。
 一緒に作業をしていたM9600号も作業を中止し、R4200号同様直立不動の状態になる。
 やがて空襲警報が止み、敵機が味方に撃墜されたという放送が、館内に流れた。
 R4200号とM9600号は直立不動の姿勢をやめ、また作業を開始する。当然ながら昼休みはなく、夜の9時まで12時間ぶっ続けの作業が続く。
 夜の9時を過ぎるとR4200号とM9600号は他の作業員と共に腕に注射を打ってもらい、労働モードから解放された。
 突然それまで感じなかった疲労と空腹が一挙にR4200号を襲ってくる。
 かれら作業員を揶揄して「ロボット」と呼ぶ者がいるのも無理はない。
 朝9時前に注射を打たれて労働モードに入ると感情も恐怖心もなくなって、作業に没頭するからだ。
 今の与党が政権を掌握してから、この国は変わった。
 野党は全て強制的に解散させられ、投票で政治家を選べなくなる。
 野党議員と国内の少数民族はガス室で虐殺された。
 一握りの富裕層を除いた大半の国民が労働者階級と決められ、この階級は名前を持つ事ができなくなった。
 R4200号のように、ナンバーが振り当てられたのだ。
 疲労困憊の彼は、工場のすぐ近くにある四畳半の部屋に帰ると配給された食材で作った夕食を食べ、そのまますぐに眠ってしまった。
 R4200号は、明日も明後日もドローンを作る。偉大なるわが国の発展に尽くすのだ。

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