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幸福の魔法(ショートショート)

 あらすじ
 プザ王国のヌラ王は不老不死を欲していたが……。異世界が舞台のショートショート。SFではありません。


 遥かな昔ズズ大陸のプザという国にヌラという王がいました。
 ヌラ王はプザ国の軍備を増強し、周辺諸国に騎馬軍団を派兵して侵略したのです。
 領土を次々に拡大しましたが、その欲望はとどまる事を知りませんでした。
 プザに狙われた国では多くの者が剣や矢で殺されたのです。
 たくさんの町や村が焼かれ、後には無数の廃墟が残りました。
 プザの若い男達は兵士として連行され、戦場で命を散らしていったのです。また武器を買うために高額の費用がかかるので、プザの民への年貢は重くなりました。
 あまりにも税が重くなったため食えなくなって餓死する者や、一家心中をはかる農民も出たのです。唯一の息子である王子は父に戦をやめるよう説得しましたが、逆に幽閉されてしまいました。
そんなふうにプザの領土を拡大し、権力をほしいままにしてきたヌラ王にも、どうにもならぬ世の理がありました。それは老いです。かつては黒々としていた頭髪は白くなり、その量も減りました。皺も増え、顔にはシミができたのです。
若い頃は頑健だったその肉体は、病に臥せりがちになりました。ヌラ王は不老不死の秘術を求めてズズ大陸全体に使いの者をやりました。
そして勧められるまま様々な薬を飲んだりしましたが、老化は防げなかったのです。世継ぎがないのも悩みでした。唯一の息子は自分の命令で地下牢の中におりましたし、娘を女王にしたり、他から男児をもらって養子にして王子にするのは、ヌラには考えられぬ選択です。
が、それも自分が不老不死を手に入れられれば解決する問題でした。せめてもう少し寿命を延ばせば、新しく男の赤ん坊を若い側室に産ませられると考えたのです。
そんなある日の話。大陸の方々に送りこまれた使者の1人が帰還しました。その者は大陸の東にある海を越えた島にいる魔法使いの情報を仕入れてきたのです。その魔導士はドワという名前でした。
人を不老不死にできるかは不明だが、人を幸福にする魔法を使えるという噂です。ヌラ王はその知らせを持ってきた使いに、魔導士のドワをプザ国へと連れてくるよう命じました。人を幸せにできるのなら、当然老人に若さを取り戻せるだろうと考えたのです。
やがて魔導士が住んでいる東の島から、ヌラ王の元へと連れてこられました。眼前にいるドワは、白いあごひげを長く伸ばした老人です。
「よく、来たな」
 ヌラ王は、魔法使いに声をかけました。
「おぬしは、名高い魔導士と聞く。このわしに、不老不死を授けてくれぬか」
「恐れながら国王陛下。このわたくしには、そのような真似はできませぬ」
「じゃが、人を幸福にする魔法なら使えると聞いた」
「それでしたら、使えます。これからわが魔道をもって、特別な酒を作りたいと存じます。その酒は、人を幸福にする秘薬です」
「ならば早速作ってくれ。必要な物があれば、申せ。何でも取り寄せてみせようぞ」
 やがて魔導士は青い色をした酒を作りました。その酒は、陶器でできた白い杯を満たしています。晴れ渡った青空のような、あるいは紺碧の海のような、美しく澄みきった色をしています。
「どうぞ陛下。これをお飲みになってください。これを飲めば、幸福が訪れます」
「これは、また美味そうじゃな」
 酒好きのヌラ王は喜々として、酒を満たした青い液体を飲みました。それは大変口当たりがよく、一気に飲み干してしまったのです。が、しばらくして、とんでもない事が起こりました。王は突然気分が悪くなり、血を吐きながら、倒れたのです。
 あわてて周囲の部下達が駆け寄りましたが、すでにヌラは死んでいました。
「一体貴様何をした」
 宰相が、魔法使いに怒鳴りました。
「貴様陛下を幸福にするとほざいたではないか」
「陛下を幸福にするなどとは申してませんな。人を幸福にするとは申しましたが」
 王が崩御されたので、地下牢にいた王子がそこから助けだされ、新国王となりました。新王は戦争をやめ、敵の捕虜を解放し、戦場に派兵していた兵士達を故郷のプザに戻し、百姓達の年貢を軽くしました。
 それによって、みんなが幸福になったのです。

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