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祝祭の星(SFショートショート)

 あらすじ
 ビル・ウッズ艦長の乗る宇宙探査艦は、未知の惑星に到着するが……。


 その惑星から放たれた電波を、地球人の乗った宇宙探査艦がキャッチした。電波を受信すると、宇宙艦の司令室のホロモニターに、青い惑星が映し出される。
「この電波をキャッチした他星人のみなさん、我々プム星人は、みなさんの訪問を歓迎します」
 スピーカーから流れたのは、英語である。ちなみに電波を傍受したスターシップ内で使われている公用語も同じ言語だ。司令室に搭載された翻訳機が例え未知の言語でも可能な限り、英語に訳してくれる。艦長は、電波の来た惑星に向かって返信した。
「こちらは地球の探査艦。是非ともプム星に訪問したい」
 やがてプム星から返信が来た。ホロモニターには、地球人によく似た女性が映しだされる。
「我々が全宇宙に対して発信しているメッセージに対し、返信していただき誠にありがとうございます。私はプム星のポナ大統領です」
 女性が、自己紹介をした。
「はじめまして。自分はビル・ウッズ艦長です」
「はじめまして。こちらはいつでも歓迎です。艦長のご都合のよろしい時にいらしてください。なんなら今でも大丈夫です」
 大統領は、笑顔で答えた。
「でしたらすぐにでも、そちらの軌道上にワープアウトしたいのですが」
「承知しました。ちょうどこちらの首都が朝なので、都合がいいです」
 艦はプム星の軌道上にワープアウトした。そしてそこからビルを入れた8名が、マイクロ・ワープ機能を使って首都の地上に転送される。8人はネックレス型の翻訳機を下げているので、これで会話は可能なはずだ。
プム星の大気の成分は地球と似ており、特殊な装備をしなくても呼吸ができた。重力は地球よりやや大きかったが、歩行に支障をきたす程でもない。
科学文明は地球と同じかそれ以上に進んでおり、首都には超高層ビルが建ち並び、エアカーやリニアモーターカーが走っている。8名を歓待するため歓迎祭が急遽開かれた。
 道路は通行止めとなり、楽団によるパレードが行われ、景気付けの爆竹が鳴らされ、手品師がマジックを披露し、ダンスに興じたり、歌う者も登場したのだ。翻訳機は機能しており、プム星人達の会話を理解する事が可能であった。
「突然の訪問なのに、こんなに大勢よく集まりましたね」
 ビルの感想に、ポナが答える。
「この星では、毎日がお祭りなのです。プム星では労働は全てロボットが行います。人間は働かなくて良いのです。連日イベントに参加して、楽しむのが我々の生活です」
「それは地球も同じです。私も本来なら、故郷で遊んで暮らせます。ですが宇宙への思いが断ちがたく、こうして探査艦に乗り、銀河系調査の旅に来たのです。それは他の乗組員も一緒です」
「素敵ですわね。宇宙への夢があるなんて」
 実際現在宇宙探査に派遣されたスターシップは、人工知能の司令で動く無人艦が主流である。その方が人件費もかからず安上がりだし、乗員の安全を心配する必要がない。にも関わらず有人艦があるのは、ビルのような搭乗希望者がいるからだ。
「プム星も以前は宇宙探査もしていましたが、今はやめてます。故郷で美食や祭りを楽しむのが人生だと心得る人が増えましたので」
 確かに祭りの規模は大きく、どの催しも楽しめた。そこは地球以上である。夜は歓迎会に招かれたが、出された酒や食事はみな美味かった。料理に対するこだわりは、地球人を遥かに超えているようだ。
 飲みすぎたせいかビルは突然眠くなり、気づいた時には意識を失っていた。

 ビルを含めた8名の地球人達が食事中に次々と眠りに落ちたのを眺めながら、ポナ大統領は満足していた。実は地球人達に振る舞った料理の中に睡眠薬が入っていたのだ。
 この後は、この8人を調理する番である。美食を極めたプム星人は、こうして他の惑星の知的生命体を誘いだし、かれらを食べるのを楽しみにしていた。

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