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スーサイド・ツアー(第23話 衝撃)
まずびっくりしたのは、港に船がつながれていた事だ。日々野達を送り届けた漁船と同じぐらいの小さな船だ。
4人は、恐る恐るその船に近づいた。鼻を突く異臭がする。
「死臭だな」
日々野はそうつぶやくと、ポケットから出したハンカチで、自分の鼻と口を隠した。
甲板の上には、うつ伏せにたおれた男女各1名の遺体がある。ハエがたかっていた。女の方は顔と服と背格好から一美だとわかったが、男は初めて見る
スーサイド・ツアー(第22話 失踪)
水曜の夜11時30分。たまたま自室の北の窓から外を見ていた日々野は、1階の北口から逃げるように外へ出て行く一美を見かけた。彼女はバッグと懐中電灯を持っている。一美は一瞬こちらを振り向き目が合った。
その眼差しは、悪魔でも見たかのような戦慄を浮かべている。
が、すぐに目をそらすと脱兎のごとくその場から北へ向かって走り去り、その後は東に降りる階段を駆け降りてゆくのが見える。
多分港に向かうのだ
スーサイド・ツアー(第21話 逃亡)
翠は1人で、那須一美の部屋に向かった。他の者は、それぞれ自室へと戻る。翠は、一美の部屋のドアをノックした。
「大丈夫? 倉橋だけど。みんな心配してるよ」
回答はなかった。しばらくして永遠にも思える時間が過ぎた後、ようやく言葉が返ってくる。ノックしたのが翠の腕時計で午後4時だったが回答が戻ってきたのが3分後だ。
カップラーメンならすでに出来上がった頃だし、ウルトラマンなら怪獣を倒し終えた後だろ
スーサイド・ツアー(第20話 ふくらむ不安)
日々野達4人はエレベーターに乗り、一旦7階まで上がった。エレベーターを出て、7階にある井村の部屋に一旦入る。
まだ水曜で、来てから2日しか経過してないのに、すでにそこはかなり散らかっていた。
「もうゴミ屋敷か」
日々野は、そう吐き捨てた。
「悪かったな。俺の部屋だからいいだろうよ。翠ちゃん、片付けてくれる?」
井村はニッコリ笑顔になる。
「冗談。あたし、メイドさんじゃないもん」
翠が、に
スーサイド・ツアー(第19話 盲点)
「あたしだって知らなかった!」
絶叫したのは、一美である。
「ただただあたしは美優さんの事が心配で……それだけなのに……」
一美はその後声にならない声をあげるとエレベーターまで走っていく。そして上に向かうボタンを押すと中に入り、自分の部屋がある4階のボタンを押した。
エレベーターが4階へ上がり、かごのドアが左右に開く。一美は自分の部屋に入ると、中から部屋を施錠する。
あんなふうに疑われたり
スーサイド・ツアー(第18話 疑惑)
相変わらず妹尾の声は小さかったが、普段よりちょっとだけ明瞭に発音しているように聞こえる。
「女なんて、そんなもんだよ」
井村がそう吐き捨てた。
「あら、あたしもそう?」
いたずらっぽそうな目で、翠が井村を見ながら聞いた。
「そ、それはねえけど」
井村の目が、泳ぐ。
「そう言えば10時の後、10時半ぐらいにも余震があったな」
日々野がそう口にする。
「俺も、気づいた」
井村がそう同意
スーサイド・ツアー(第17話 告白)
部屋に1人で戻った一美は、深い眠気を感じていた。外は気が狂いそうな暑さが始まりはじめていたが、室内はエアコンから流れる空気が心地よい。
ベッドに潜りこんだ彼女は、やがて眠りに落ちたのだ。
やがて、ビルの震えに気づいて目が覚めてスマホで時刻を確認したら、午前10時だった。大した揺れではなかったので、そのまま寝る。再び起きて時計を確認したら昼の12時を過ぎていた。
多分美優が1階の厨房で食事を作
スーサイド・ツアー(第16話 探索)
島の探索をすると決まり、美優は医師の日々野と一緒に港に向かって歩き始めた。井村と一美と翠の3人は港とは逆方向の右側へ、つまりは時計回りに進んでゆく。
「辛いなら、部屋に戻った方がいいんじゃないですか?」
日々野が優しく言葉をかけてきた。
「大丈夫。むしろ何かしてる方が、気がまぎれるから。優しいのね」
「一応医者ですから」
「お医者さんが自死を選ぶなんて、社会にとって損失だと思うけど」
「人
スーサイド・ツアー(第15話 祈り)
外はまだ暗かった。出る時に大広間の時計を見ると、午前3時半を過ぎている。冷房の効いた屋内から出ると、蒸し暑い6月の熱帯夜が待ち受けていた。
再び夫の遺体にまみえるのかと思うと、美優は胸が張り裂けそうになる。
「美優さん、無理しないで」
翠が、声をかけてきた。
「よければ大広間に残ってて」
「ありがとう。でもやっぱりあたし行かないと」
重たい足を引きずりながら、美優はそう宣った。結局大広間に
スーサイド・ツアー(第14話 新たな謎)
一美が去った後、美優は夫のうつぶせになった顔に懐中電灯の光を当てて、覗きこむ。全く息をしていない。
何度も礼央の名前を呼んだが返事はなく、ピクリとも動かなかった。背中には複数の傷跡があり、ありえないほど大量の血が流れている。すでにアリやハエがたかりはじめていた。足音が聞こえてくる。
驚いて港の方を見ると、いつのまにか去っていった方向から、一美の姿が現れた。
「港まで行ったけど、誰もいな
スーサイド・ツアー(第13話 闇の中へ)
殺意を感じたのは一瞬だった。やがて礼央は一種の虚脱状態になり、重い足を引きずりながら、部屋に戻る。
「どうだった?」
美優が、聞いてきた。
「犯人かどうかはわからない。だが、動機がやはり考えつかない」
その日は天気こそ晴れていたが、建物の中は、重苦しい暗雲が立ち込めていた。
昼食の時も、夕食の時も、皆口数が少なかったのだ。
美優は食器洗いを終えた後1階の喫煙所でタバコを吸い、その
スーサイド・ツアー(第12話 沸き起こる殺意)
ドアには小さな丸い覗き窓がついてるので、そちらで確認したのだろう。 やがて一美が顔を出したが、ドアチェーンは、かけたままである。
「一体何?」
怯えた顔で、こっちを見た。
「死体の画像を撮ってましたよね? よければ見せてくれませんか?」
「何で?」
狼でも見るような目だ。
「見れば何か、犯人の手がかりになる点がわかるかもと考えたんです」
「素人に何がわかるの?」
その言葉は、ナイフのよう
スーサイド・ツアー(第11話 怪しい女)
「がっかりだよ」
部屋に戻ると、美優がそうつぶやいた。
「お店の経営が上手くいかなくなって借金作って夜逃げ同然にここへ来た。来週の月曜日に死ぬまでのひとときを楽しもうと考えてたのに、こんなはめになるなんて」
美優は床にくずおれると泣き出し始める。
(俺は美優を幸せにできなかったんだな)
激しい後悔が、身を苛んだ。結婚して、店を2人で始めた時は世界で1番じゃないかと思えるほど幸福だったのに。
スーサイド・ツアー(第10話 わからぬ動機)
日々野の目線の先には、井村がいた。
「君は、理亜さんに色目を使ってたな。が、袖にされたんでカッとなり、彼女を殺した。そういう可能性もある」
「人聞きの悪い話するんじゃねえよ」
井村が医師に食ってかかる。
「でもそれ、逆にあるかしら?」
意外な助け船を出したのは、翠だ。
「確かに井村さんは色目を使ってるように見えたけど、理亜さんはかなり警戒してた。簡単に部屋を開錠するとは思えない」
「部屋を施