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スーサイド・ツアー(第27話 最終話 地獄の果てに)

 宇沢の両手は力強く、井村の首をぐいぐいと締め上げる。このままでは、あの世に行ってしまいそうだ。
 もみあううちにいつのまにか体が反転し、井村の方があおむけになり、宇沢の方がのしかかる体勢になっていた。
 その時突然鈍い音がして、井村の首をしめていた宇沢の両手が力をなくす。
 宇沢の体を横に押しのけると、太い木の枝を持った翠の姿がある。
「途中でいいの見つけたから持ってきた」
 誇らしげな笑みを浮かべて、翠が木の枝を左右に振ってみせた。
「ありがと。船には行かなかったんだ」
 井村が聞いた。
「まだね。3人で一緒に行きましょう」
 翠がそう返答する。翠の後ろに妹尾がいた。3人は、港に向かう。そこにはモニターに映った船の姿がある。
 その船から50代ぐらいの女性が降りてきた。
「一体あんた、誰なんです?」
 井村がそう質問する。
「あたしは、雑誌の編集者よ。うちの社員の瀬戸と、フリーライターの那須っていう女性がいるはずだけど」
 井村は、すぐに返答できなかった。
「残念だけど那須さんは、殺されたわ。今、あのビルの地下室でのびている宇沢って奴に。那須さんのそばにもう1つ見知らぬ男性の死体があったけど、もしかしたら、それが瀬戸さんかもね」
「嘘でしょう! こないだ2人の元気な姿を見たばかりなのに!」
 船から現れた女性は目を丸くする。
「あたしも信じたくないですけど、事実です」
 船で現れた女性は警官達を伴っており、地下室で倒れていた宇沢は逮捕される。
 無理もないが、井村と翠と妹尾の3人は、警官達から嫌というほど説教された。
 そして、闇サイトをインターネット上で発見してから今までの状況を、根掘り葉掘り質問される。
 翠がこの島に来たので、東京ではさぞや大騒ぎになってるだろうと思いきや、そうはなっていなかった。
 彼女は事前に1週間のオフを取り、1人旅に行くとマネージャーに言い残していったのだ。
「あたしもう女優として終わったな。今度の件が大々的に報道されたら、悪いイメージがついちゃいそう」
「大丈夫だろ。君には俺や、多くのファンがついてるから。翠ちゃんがくじけそうになったら、俺が支える」
「ありがとう。気持ちだけでも、嬉しい」
 翠の目に涙が光る。
「お前のことも、俺が支える」
 井村は、妹尾に向かって話す。
「お前をいじめる奴がいたら、俺が倒す」
 妹尾の目にも、涙がにじんだ。
「ともかく3人で、この島を出よう。こんな地獄を目の当たりにしたら、元の世界も天国に見えるだろうさ」
 井村は、そんなふうに笑い飛ばした。

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