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ベトナムの家具にみた大きさの多様性(前編)

1.はじめに

 家具は大きさによって、その特性が異なるところが面白い。例えば、座面の高さが45cmほどでは背筋を伸ばし行儀良く座る椅子、35cmほどでは深く腰かけ脚を放り出して寛ぐソファというように、建物や空間の大きさからすればごく僅かな違いによって、大きく体感が変化する。それは家具が大きさによって人の姿勢や行為を治具的に補助するからであり、当然ではあるが身体と家具の大きさが分かち難く結びついていることを意味する。

 その一方で、他の文化圏の家具が極端に低かったり、異様に広かったりするのを目の当たりにすると、家具の大きさは普遍的な身体の大きさだけではなく、地域ごとの生活文化や環境など、実に様々な要因が関係し合いながら立ち現れるものだと考えられる。

 今回取り上げるベトナムの家具は、路上でみられる低いプラスチック椅子や市場でみられる地面から高く上げられたプラットフォーム、平らで硬い木製のソファなど、その大きさには私たちの想像を超えるような多様性が認められる。 これらは一見無秩序にみえるが、ここから見出せるベトナム独自の文化があるはずではないだろうか。

座面の低いプラスチック製の椅子での食事
市場でみられるプラットフォームでの胡座
座面が平らで硬い木製ソファでの休息



2.ベトナムの座文化

 私が調査を重ねたベトナム南部ホーチミンシティは、熱帯モンスーン地域に属し年中30度を越える猛暑の地であるが、日陰や日が沈む頃を選べば申し分なく屋外で寛げる環境だ。そのため、室内のみならず路上や店先など、街の至る所に家具が置かれている。その多くはカフェや売り子による撤収を前提とした仮設的な設えであるため、また強烈な陽射しを避けて日陰の動きを追い掛けるように家具を移動するためか、小さく軽い家具が好まれている。

路上に仮設的に設えられたカフェ

 
一方室内はというと、東南アジアでよくみる赤茶色のハードウッド製のソファやデイベッドなど、大きく、重々しく、そして座面が平坦な家具をよくみかける。複数人が寝転べるほど大きな1枚板による天板や、中国やフランスの歴史的な影響が滲む緻密な彫刻がとても立派で、先祖から代々受け継いだ家宝だという話を聞いたことから、文化基盤にある祖先崇拝の一端を家具が下支えしているのではないかと推察している。

装飾の施された木製ソファとテーブル

 また忘れてはならないのが、ベトナムの人々はここまで話したようないわゆる家具以外にも座る、ということだ。それは我々日本人のような床座に加えて、カゴやバケツなど有り合わせに座るアドホックな座、またそのエクストリームな例として木の上に猿が寝るかのごとくバイクに器用に寝そべる例までみることができる。

バイクでの器用な昼寝

(後編につづく)

小泉亮輔
1996年千葉県生まれ. 2018年芝浦工業大学卒業. 2019年~2020年 NISHIZAWA ARCHITECTSインターン. 2021年東京工業大学修了(那須聖研究室). 2021年〜畝森泰行建築設計事務所勤務

写真:Ryosuke Koizumi, 2021
出典:小泉亮輔, 那須聖:人体系家具の大きさと行動場面からみた身体尺度 ベトナム・ホーチミン市ビンタン地区ティゲー市場とその周辺を対象として, 日本建築学会計画系論文集, 87巻797号, p.1116-1123, 2022年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/87/797/87_1116/_article/-char/ja/


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