見出し画像

部屋の中のバン◯シー【介護職のすべらない話①】

みなさまこんにちはこんばんは。
神奈川県の平塚市で福祉ネイリスト・カインズヘルパー(自費ヘルパー)として活動しているCalaColoの橋本です。



介護や障がい福祉に関わっていると、それはそれは面白い人や面白い事件、たまに面白くない事件に出くわします。
同僚や同業の方に話すときにする持ちネタのようなお話があり、ここはひとつせっかくなので世の中の皆さまにも発信してみようかなと思い筆を取っております。(筆じゃなくてパソコンですが。)

タイトルにわざわざ"①"とつけたということは、続き物にする気まんまんです。
どこまで思い出せるか、どこまで文章に落とし込むことができるかは、我ながら未知数ですが、暇をみつけて少しずつ書いていこうと思います。

たまには思い出さないと忘れてしまって、もったいないのでね。
よかったら読んでいってください。




※注意


この話は、お食事時にはふさわしくない内容がかなり含まれます。

お食事中の方、デリケートな方はこの先へ進まずブラウザバックを推奨いたします←

また、実際の出来事を基にお話するため、人物や場所の特定を避けるため若干の創作も含まれます。
このため、人名等のあらゆる固有名詞はすべて架空の名前を使用しております。実在の人物や地名、企業等とは一切の関わりはありません。

なお、"読み物"として作成する都合上、ふさわしくない表現が含まれることがありますが、あらゆる個人等を批判し貶す目的で作成するものではありません。


ご了承の上お進みくださいませ。




一番手にこの話を持ってくるセンスを疑う顔。





どこが入口?なぞの住宅地。


当時、訪問介護の常勤ヘルパーとして、殻付きのヒヨコながらもなんとか独り立ちして日々忙しくしておりました。


※訪問介護?常勤ヘルパー?よくわからない、って方はこちらからお読みいただけると、話が入ってきやすいかもしれませんのでぜひ↓


その事業所の実施エリア(訪問できる地域には市区町村の指定があります)は、割と栄えた地方都市であり、渋滞や細い道が多く、家に駐車場がないなんてこともあり、もっぱら移動は自転車でした。

その頃はまだスマホの黎明期で、マップの精度も悪くGPSが拾えない、なんてこともよくあったため、頼りになるのは己の土地勘と会社で見てきた紙の地図です。

ずっとその周辺で遊び回っていたこともあり、一度行った場所は割と覚えられるため、今では不便だなと思うようなことも当時はとくに不便を感じていませんでした。(若かったから覚えがよかった、という気がしないでもない)


それなのに、なぜかいつもたどり着けない、いつも迷う、そんなお宅がありました。

何回行っても曲がり角を間違える、通り過ぎる、迷う。

割と真面目に私、その土地に嫌われているのでは?と考えたこともあるくらいです。


まあ、いつも迷うせいでその分を見越して早めに移動しているため、なんとかかんとか、間に合わせてはおりました。



結構な爆速で走り抜ける系ヘルパー




やっとついたよ、もう。


旦那さん、こんにちは〜。


そんな感じで、訪問前からてんやわんやしながら、やっとの思いで利用者さんのお宅に到着。

お宅の壁際に自転車を停め、荷物を持ち、いざ訪問。

そこのお宅は、ご夫婦2人暮らしで、お2人とも要介護。
旦那さんはほぼ寝たきりで、奥さんは認知症。
奥さんの徘徊(当て所なく外に出てしまって、帰れなくなってしまう)を心配して、お子さんが外に鍵をつけているお宅なので、こちらから鍵を開けて入室。

その日の仕事は、旦那さんのお手洗い介助と食事の準備・片付け、奥さんのお手洗い介助と食事の準備・片付けです。
奥さんのお部屋、というよりお宅全体が"しーん"としており、昼夜逆転していることもあって日中はお休み中のことが多いため、先に旦那さんのお部屋に入ってご挨拶。

旦那さんもうつらうつらとしていましたが、声をかけると目を覚ました様子だったので、そのままベッド横のポータブルトイレに。その間ベッドを整えて、汚れ物を片付け、用を足し終わった旦那さんにベッドに戻ってもらって、トイレの片付けと昼食の準備。

テーブルに食事を準備すると旦那さんはご自分で食べることができるので、旦那さん用のやわらかごはん(レトルト)をセッティングしていったん退室。



次は奥さん、こんにちは〜。


とりあえず旦那さんへのお仕事が一段落し、洗った手を拭きつつ声をかけながらドアを開けて入室すると、奥さんは横になってすやすやとお休み中。

よく寝てるな〜起きてくれるかな〜なんて思いつつ奥さんの元へ近づき、その歩みを進めると、そこでなんとなく違和感。なにか見てはいけないものが視界に入ったような…?


…ん、んん??
んんんんんん!!??

お部屋においてあるソファで横になっている奥さんの向こう側の壁、どこにでもよくある白い壁。

正確には、"元"白い壁。

それが、いったい、"なんなの"か、瞬時に理解する。



「うへぁ!!!!!!!!!!!!!」(心の声)



たぶん、割とマジで、この顔してたと思う。





アートなのかもしれない。


まあ、こうなると介護の経験がある方にはお分かりですね。

はい、ご自身が排泄されたモノで描かれた見事な壁画がそこにはありました。


実際のところ、割とよくある話で、その方の手が届く範囲が茶色く染まるなんてことがあるんですね。

ただ、この奥さんのすごいところは、天井ギリギリまで壁一面にアートを施している点です。

この方はとくに背も高くないし、いくらなんでも背伸びしたくらいでは天井際まで届くとは考えられません。
横になっているソファの上に立ったとしても、そう簡単に届くとも思えません。


このあとしなければならない清掃活動に身震いし、時間が足りるだろうかと必死で脳内計算を行う私は、ドン引きする反面、内心「すげーな…」とある種の感動を覚えました。



いや、もうこれアートだわ。(感嘆)

タイトルをつけるとしたら、"荒波"、ですかね。



こちらは無関係な某所でみた野生のバン◯シー





それからどうした。


とりあえず、奥さん、起きてー!


とにかく、壁に描いたということは、絵の具が手につきまくっている、どころか服やあらゆるところにつきまくっているということ。

お風呂に入ってもらう時間はないし、このあと時間を空けて訪問入浴が来る予定。

まずは手を洗ってもらって、着替えて、その隙に拭いてキレイにできるところは拭いておこう、という応急処置をすることにし、奥さんに起きてもらう。


が、そういうときに限って起きてくれないんだよな〜。

しかも、なんか旦那さん呼んでるし。
大声で何度も呼ぶから、手を止めてなんだなんだと慌てて行ったら、1回めは「はやく食後の皿を片付けろ」、2回目は「リモコンをよこせ」(旦那さんの手が届く範囲にある)とのこと。


ちょっと待っとけ!!!!!!!
(ちゃんと片付けて、リモコンも渡して、また横になってもらいました)



反応、反射、音速、高速。


訪問介護には時間に限りがあります。
厳密には、多少前後することができるのですが、その日は後ろに仕事が入っていることもあり、せいぜい30分くらい。

介護保険サービスを利用するに当たって、「単位」という通貨みたいなものがあり、介護認定を受けるとその介護度に応じて単位が付与されます。何に何単位使うかはその方により、訪問介護はもちろん、訪問看護や訪問入浴、デイサービスやショートステイなどのすべての介護サービスで合算されます。

この付与された単位数を超えてしまうと、超過分は100%自己負担で利用者さんが払うことになるため、基本的にはその単位数を超えないようにサービスを組み合わせています。

で、この奥さんはいつも単位ぎりぎり。
下手に延長してしまうと、足が出る、責任者に嫌味言われる、ケアマネに文句言われる。



ああもう!!やったろうじゃねえの!!(やけっぱち)


たぶん、ヘルパー人生の中で1・2を争うレベルの速度で、もはや脊髄反射で動いていたんじゃないかと思います。




どうにかこうにか。


温かいおしぼりを用意し、寝ぼけ眼の奥さんの体をとにかくキレイにし、ひとまず次の入浴までは過ごせる状態に。

普段は買い置きの食べ物の中から選んでもらうものの、さすがに聞いている余裕がないため数種のパンと、飲み物等をあわせて用意し、座ってもらって食事を取ってもらう。



その隙に壁画の掃除。

全然落ちねえ。(笑うしかない)


濡れ雑巾くらいではどうにもならず、結局洗濯洗剤をぬるま湯で溶かしたものを使って、8割がたキレイにすることができましたとさ。
(シミはもう許してほしい)


このときの私はきっと、最強のヘルパーだったと思う。





その後のこと。


結局すべてをなんとか終わらせ、退室したのは予定の10分オーバー。
我ながらよくやった、と自分を鼓舞しつつ、顛末を事務所へ一報入れてから次のお宅へ自転車を走らせ、すべての業務が終わってやっとこさ帰社。

疲労感と、軽い達成感を抱きながら帰社した私に半笑いで近づいてくる責任者。

「なぁ〜にぃ〜?大変だったんだってぇ〜?」
「そこまでやらなくてもよかったのに〜」
「どうせ入浴あるんだしぃ〜」
「がんばりすぎでしょぉ〜(嘲笑)」




(◯すぞ!!!!!!)

(なんぼなんでも、う◯こまみれでご飯食べさせて、その本人と部屋を放置して知らぬ存ぜぬで帰るやつがいるか!入浴って言ったって数時間後やぞ!!!!)


何が一番腹立つって、「どうせあの人またやるから意味ない、適当にやっとけ」と、利用者さんのことも私のことも馬鹿にしている発言でしたね。

この責任者は、すでに訪問介護の世界から去っており、こんなことを言うサービス提供責任者に当たることはないと思うので、その点はご安心を。




なぜ壁画を描いていたのか。


これは、ご本人の意思を確認するすべがないため、あくまで私の想像でしかないので話半分に聞いていただければ幸いです。

まずは、排泄物を触ってしまう方の心理としてよく聞く説が、「下着の中が気持ち悪い」と感じて、その気持ち悪いものを除去しようとして、またはむず痒さから掻こうとして触ってしまう、というものです。
排泄物=汚いという認識がなかったり、または薄かったり、そもそも下着の中に排泄物があるという認識や、出てしまったという認識の問題でもあります。

さらに、手に排泄物がついた状態だと、それが何か認識をしているかはさておき、ともかく不快なので拭うために服や壁、周囲の物になすりつけるという行為が起こります。
そもそも、なすりつけずとも手の届く範囲にはくっついてしまいますね。


次に、この利用者さんが壁画を描いた理由についての考察。

前述の不快感からのなすりつけ、というのは初手にあると思います。
ただ、その後壁一面に広げたのは、もしかしたら本当に何かを描こうとしたような気もするのです。

いったん排泄物だということは置いておいて、ただの茶色い色がつく何かと認識していたとしたら、"画材"として認識したのかもしれません。

とくにこの方は日常的に便秘薬を処方されて服薬していたため、"ゆるめ"です。その感触は泥や絵の具とそう遠くないものだと思います。


この現場に遭遇することは嬉しくもなければ歓迎する気はありませんし、あとになって思い出して面白がれていますが、やっぱりあんまり遭遇したくはありません。

とはいえ、利用者さんのこういった行動を一概に不適切だの非常識だのと言って、激しく拒絶する気にもなれないのです。
だって、認知機能に障害が出ているからこその、「認知症」なんですから。

私たちが持っている常識と、認知症を発症している人の常識がかならずしも合致するとは限らないのです。


正直なところ、この方くらいに症状が進行している方だと、その心情や考えを確実に汲むことはかなり難しいです。
あくまで推し量ることが精一杯なのですが、どんなに不思議な行動でもその方の中での合理性があってのことであるとして、なるべく想像して考えるようにしています。



よく見て、よく考える。それがなかなか難しい。





おわりに。


すべらない話って言ってるのに、しょっぱなからなかなかハードな内容で、介護に関わりがない方が見たらびっくりするかもしれませんね。

(同業者にはけっこうウケるんですが…程度ってもんがね)

一応注意書きの先に進んで読んでいただいたので大丈夫かとは思いますが、ご気分を害された方がいたらすみませんでした。


登場人物や場所をわからないように多少の創作を入れているため、話に整合性がない部分があるかもしれませんが、お目溢しいただきますようお願いします。
また、もし過去の同僚の方がうっかりこれを読んで、誰のことかなんとなく想像がついたとしても、そっと胸にしまっておいてくださいませ。


次回はもう少しソフトな話を思い出して書いてみよう思いますが、さて、なんの話がいいかな。
といったところで、この話はおしまいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?