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精神科 救急急性期病棟への入院 #9

※前回はこちらです


人と話をするようになる まだ少しだけ

OTの楽しさを知ってしまった私は、翌日から毎日14時になると自らの足でホールへと向かい、約1時間のOTに参加するようになりました。塗り絵をしていると45分なんてあっという間ですが、まだ本調子には遠い感じで10分ぐらいで集中力が途切れてしまい、少し休んで、また塗っての繰り返し。

慣れてきた頃には少し難しい塗り絵にもチャレンジするようになり、数日かけて黙々と色を塗り、仕上げ、また別の塗り絵をする日々。

OTが終わると、少しだけホールに残ってテレビを観るようにもなり、初日は5分ぐらい、次の日は10分ぐらい、その次の日は15分ぐらい。

少しずつだけどその時間が長くなるようになり、徐々にホールの環境にも適応し始める。隠れ隔離状態だったあの頃の自分とはまるで別人のよう。

ホールにいると、いつも一人でいる私のところに来てくれて話しかけてくれる人もいたりして、それなりに普通の会話ができるようになっていました。

話しかけてきてくれるのはいつも女性の方ばかり。男の人は大声で怒鳴ったりする人もいるし、中には女性の部屋に侵入して怒られてる人とか、人の飲み物を勝手に飲んで怒られてる人とかもいたりして、なんだかますます男性に対する苦手意識が強くなる。

中にはすごくおとなしい男性の方もいて、いつも一人で座ってて、ご飯を食べ終わるとすぐに部屋へ戻っていく人もいます。なんだか少し前の自分を見てるようで、何とも言えない気持ちになったりすることも。

女性の方と話していると、

「え?、私よりも先に入院されてたんですね…」

そう言われることが何度かあり

ですよね…
ホールに出るようになったのつい最近だし…
じつは一か月ぐらい前から入院してたんです…私

話しかけてきてくれるのはごくごく普通に見える方ばかり。一般の病院と違い、ここは精神科の急性期病棟という特性上、おいそれとその方の病状や入院の理由などは聞きづらく、私も相手から聞かれてもそう簡単には自分のことを話したりはしません。それでも、時間を重ねるにつれ、自然に信頼関係のようなものが生まれ、いろいろな話をするようにもなりました。

男の人って、そのあたりはけっこうストレートな場合が多くて、同性ながらついつい男性とは距離を取りたくなってしまうのです。入院したばかりの頃に嫌な経験もしてるし…

週末が暇すぎる件 

OTが唯一の楽しみみたいになってきているので、OTの無い週末は暇すぎてすることがありません。金曜日のOTが終わると少し憂鬱な気分になり、土日はホールへ行くこともなく部屋で過ごす。1日1回、ホール近くの壁に貼ってある献立表を見に行ったり、図書ルームへ行って図鑑を読んだり。部屋から出るのはその時ぐらい。図書ルームにはNHKの「きょうの健康」のバックナンバーが過去5年間分ぐらい置いてあって、一時期はそればっかり読んでました。

ホールへ行けばテレビがあるけど、もともと観たい番組がそう多くあるわけでもなく、好きで欠かさず録画していたのはブラタモリとかドキュメント72時間とかぐらい。ニュースは見たいけど、ホールのテレビでNHKが流れている時間帯なんてほぼほぼ無くて、だいたいいつもバラエティ系の番組ばかり。

バラエティもちゃんと観ていれば面白いんだろうな、とは思うけど、入院中はなんだかそういう番組を見る気にもならなくて。

やっぱり、まだまだ本調子じゃないのかな。テレビを観て笑いたい気分になんてなれない。

ギトギト油ギッシュなひと

一応、ホールにあるテレビのチャンネルを選ぶ権利は患者さん全員にあるのだけれど、でも、実際には入院経験の長い所謂「ベテラン」の人がチャンネル権を握っていたりして、結局その人が見たい番組がずっと流れてる。ひとりで笑いながらテレビ見て、他の人はまだ消灯時間じゃないのにどんどん自分の部屋へ帰ってしまう。

これって、特に精神科病棟ではどこの病院でもありそうな気がします。

そのチャンネル権を握っているのは、私がはじめて廊下に出ることができた日、すごく嫌な思いをしたあの人です。

ホールではいつも遠い席に座っていて、目が合えば挨拶ぐらいはしていたけど、ずっと近づかないようにしてました。

いつも大きな声で話してて、うわさ話が大好きで、自分より弱い立場にある人への圧力がすごい。そういうのって、見ていればすぐにわかる。

入院の経験が長いからという理由で威張ってるのは意味不明だし、しかもこんな狭い世界で威張って何が楽しいの?。なんだかすごく気分が悪くなってくる。体調を崩して入院してるのに、そんな人のことで腹を立てるのもなんだかバカみたいだし、1秒だってそんな人のために自分の時間を使うのはイヤ。もう、同じ空気を吸うのが嫌なレベルでそういう人は大嫌い。

だから、私はそういう心の狭い人とは距離を置くし、なるべくなら傍に近づかないようにしています。

その人にもいろんなことがあったんだろうし、今も何かあるからこうして同じ病棟に入院してるのだと思う。その部分に関しては、理解する気持ちは常に持ち続けていたいと思う。

でもね、あなたのしていること
やっぱり間違ってるよ。


独裁政権の崩壊

私のそんな心の内を知ってくれたのかわからないけど、その何日か後にめずらしく男性の看護師さんが部屋にやってきて

「病棟内で何かあったら本人に直接言わないで、看護師に言ってね。きちんと対処するから」

病院の看護師さんはいつも忙しそうにしていて
でも、見ていないようで、ちゃんと見ていて
病棟内で何が起きているのか知っている

すごいと思いました。
病院のスタッフの皆さんに感謝です。


この数日後、病棟内に置かれていたテレビのリモコンはナースステーションへ移動され、一人がチャンネル権を独占するようなことはなくなりました。


最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回へ続きます。

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