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はじめての 【後編】 〜二拠点の記録〜

マイナス7℃を記録した夜も、小屋の中にテントを設置して厚着したら寒くて眠れないという事はなかった。

午前6時にセットしていたアラームが鳴る。
朝がやってきた。

そして、ほぼ同時に朝の習慣もやってきた。

「オナカイタイ、、、」
それも突然ドシンと押し寄せて圧迫してくるタイプのものであった。

この小屋には別棟にボットンのトイレがあるのだが、町の人に聞いたところ「使える状態なのかわからない」との事なので使わないでおく事にしていた。

私は大脳皮質が提示してきた複数の選択肢で大いに迷った。

・選択肢その1
【車で最寄りの道の駅に行く】

これは片道10分ほどなのだが、マイナス7℃を記録した朝にツルツルにすり減ったノーマルタイヤで向かうのはいかがなものか。

雪は降り積もっていないが、山から水が道路に流れ出している場所はスケートリンクのようになっているはずだ。

スリップして何かに衝突した拍子に開門してしまったら、警察も救急車も呼ぶに呼べないという状況になってしまう。

「うむ、これはやめておこう、、、」

すでに出口が震えはじめているにも関わらずこの決断を下せたことは賢明だったと言えよう。

「次だ、次、、、」


・選択肢その2
【徒歩1時間で道の駅へ向かう】

これならアイスバーンの危険も避けられようが、時間的にダムの決壊は避けられそうない。

「ム、ムリ、、、絶対間に合わへん」


・選択肢その3
【使えるかわからないボットンを使う】

イチかバチかで使ってみるという選択肢はある。
しかしご存知の通り、ボットンのトイレは使用を始めると悪臭を放つ。
今はもう使われていないので無臭なのだが、一度でもブツを落とせばその後ずっと後悔する事になるだろう。

そして、もしそのボットンが実は使用不能の状態であったならば目も当てられない。

そこで最後の選択肢である。

【念のために買っておいた災害用トイレを使う】

貯水量の限界を越えそうだったのでためらっている猶予はなかった。
届いたままだったダンボール箱を急いで開封する。

中に入っていたポリ袋と凝固剤を携えてボットン便所に駆け込む。
本来は洋式トイレの便座にポリ袋を固定したり、災害用の便器とセットで使うのだが、和式には固定のしようがない。

仕方が無いので和式でのホームポジションの構えをとり、ポリ袋を広げる。
ポリ袋がボットンの底に落下しないよう、広げた口の右側を右足で踏み、口の左側を左手で持ってブツを受け止める事にした。

※※ ※※ ※※ ※※
表現が生々しかったのでこの部分はカットしました。
無事に受け止めました。
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実はトイレットペーパーも忘れてきたのだが、便所の中にいつから置きっぱなしなのかも不明のチリ紙が備えてあって助かった。
これも日頃から善行を積んできた報いだろう。

あとは凝固剤を入れて袋の口を縛れば完了だ。

こうして私は事なきを得て、キンキンに冷えた日の素晴らしい朝焼けを拝む事が出来たのだった。

ついでに整地も始めたのであった。

みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。