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本と共に旅をする

ある日ふらっと本屋で本を眺めていると、「沢木耕太郎」の文字が目に入った。沢木耕太郎氏といえば『深夜特急』。まだ読んだことはないものの、一度読んでみたいと思っていたので、名前は存じ上げていた。
私の目に留まったのは、沢木氏の新著『天路の旅人』という本だった。それなりに厚い。

帯に「第二次大戦末期、中国大陸の奥深くまで「密偵」として侵入した日本人がいた」とある。
(これは読んでみたい。。)
早速買って読んでみると、面白い。面白い。あっという間に読了。

主人公は西川一三という青年で、蒙古人巡礼僧になりすまし、中国大陸の奥深くまで密偵(日本が敗戦を迎えてからは巡礼僧)として歩みを進める。


飢え、野生動物、匪賊、厳しい自然(ヒマラヤ越えなど)、投獄…等々常に主人公はギリギリの状態で生を保っている。
当然、日本人だということを知られてはいけないので、行く先々で蒙古語、チベット語、ヒンドゥー語、ウルドゥー語…などを身につけ、蒙古人巡礼僧として生きていく。
訪れた場所の言葉を学び自分のものにしていくことは、その国の人々からの信用を得ることに繋がっていく。

常に目の前の生に向き合い、与えられた仕事はしっかりとこなす。旅を続けていくうち、欲はなくなり、最下層と呼ばれるような生活であっても、彼にとっては恵まれたものだったようだ。

そしてある日突然、旅は予期せぬ形で終わりを迎える。



戦時という時代背景に加え、西川一三の巡礼僧としての姿があまりにも衝撃的で、行ったことのない土地を想像することに夢中になった。

それに外国人になりすますなんて難易度高すぎる!言葉だけでなく生活習慣も変えていかなければならないって…相当難しいことだと思うんだ。

私もよく一人旅をする。
誰かと感情を共有する旅も良いものだが、自分の性格には一人旅の方が向いている。自由さ、旅先での出逢い、(特に海外で)困難に対処する力が得られることが大きい。
ただし、当然のことながらこんなに生死を賭けた一人旅は経験無い。

この主人公と自分の一番の違いは「未来に対する考え方」にあるようだ。私はどうしても将来に対する不安が頭をよぎるのだが、西川一三という男は一切それがない。

もう、潔いくらいその日一日を暮していければいいと思っているし、おそらく蓄えをするという考えもなかっただろう。「病気になったらどうしよう」ではなく、「病気になったら死ねばいい」そう考えていた気がする。

もう充分なものを私たちは持っている。
身の回りにあるもので工夫して生活し、「知足」という概念を持っていれば、不満なく生きていける。そんなことを教えられた。


西川一三というかなり変わった人間が、溢れ出る好奇心に突き動かされ進む物語。
帰国後の人生に多少の切なさを感じたものの、一貫して清々しく、心に残る一冊になった📕


歳月もお金も有限の中で、次はどこへ行こうか。それを考える時間も、本の中で想像を膨らませる時間も、どちらも心地よい。

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