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本と人がつながり、人と人がつながった話。

カフェのコンセプトの一つに、「本と人がつながり、人と人がつながる」というようなテーマを掲げていた。

カフェのある地元には、地元の人たちが集まれるコミュニティーのような場所がすでに存在していたが、他にもっと違う形で人と人が繋がれるような場所を作りたいと思っていて、自分も好きである「本」をきっかけに人が集まってくるようなコミュニティーなら作れるのではないかと考えて、冒頭のようなスローガンができた。

だけど、僕みたいなコミュニケーションが苦手な人間に、地域に根付いたコミュニティーのような場所が作れるのだろうかと全く自信がなかったけど、好きなことを仕事にさせてもらっている以上、なんらかの形で地元の貢献、恩返しをしていきたいと想いを馳せつつも、特に何も行動を起こすこともなくカフェの業務をこなす日々が過ぎていった。

そんなある日、自分が思っている以上に早く、その時は訪れた。


***


いつものように変わらず営業中、女性の常連さんが一人で今日も席に座り、本を読みながら自分の時間を過ごしていた。

離れた席にも愛知県から移住してきたという老夫婦の常連さん。

一人の常連さんを接客している最中に、本の話も少し交わしていた。その女性は絵本も大好きだという。

そんな僕と常連さんとの会話がきっかけで、今度はそのお客さん同士が話をし始めた。

老夫婦の奥さんの方も絵本が大好きだということで意気投合し、連作先も交換し以後お店に二人で来店してくれる時もあった。

二人とも絵本や紙芝居の読み聞かせにも興味を持っていて、ずっとみんなの前で読み聞かせをしてみたかったという。

老夫婦の奥さんの方は特に行動力があり、ここ地元で絵本と紙芝居を読み聞かせる活動をする為に「お話し会」を結成した。もちろんその時お店で出会った女性のお客さんも誘って、さらに地元で絵本と紙芝居の読み聞かせに興味を持っていた人達にも声をかけて、今では6人ほどのメンバーが集まりボランティアで定期的に地元の学童やコミュニティーなどで読み聞かせを行う会となっていた。

そんな中、お話し会の人たちから、もっと読み聞かせをできる場が欲しいという相談があり、CAFEめがね書房でも是非やってみて下さいという提案を出し、去年2019年から『絵本と紙芝居の読み語りの時間』と題して月に一度、店内で読み聞かせをするイベントをしてもらっている。

読み聞かせイベントはお店のオープン前の朝の時間帯ということもあり、決してお客さんは多くなく、お客さんが来ない日もあるが、お話し会の人達はみんなでこうして集まって、絵本を読んだり話したりしていること自体を楽しんでいるように思えた。

めがね書房の読み聞かせイベントに来てくれるお客さんは、お話し会の方曰く、他の場所と何だか客層が違うらしい。だから、いつもどんなお客さんが来てくれるか楽しみにしているとのこと。

僕自身も絵本や紙芝居が好きなので、たとえ誰もお客さんが来なくても、僕が一人のお客さんとなって毎月楽しんでいる。


***


お話し会のメンバーの一人が「この場所があったから皆んなと出会えたのよ」とお礼を言ってくれた時があった。


本が好きな人がお店に来てくれる。


本と人がつながったことで僕とお客さんがつながり、さらにお客さん同士がつながった。


文字どおり、本と人がつながり、人と人がつながったのだ。


外から見たら、僕のような人間が経営している暗いお店なので、そんなコミュニティーのできるような場所ではなく、自分の好きなことだけをやっているだけだったのに、このお店があったことで、こうして幸せを感じてくれる人がいると思うと、本当にこのお店をやって良かったと心の底から思えるようになった。


最近はコロナの影響でうち以外でやっていた読み聞かせが中止になったりしていたけど、めがね書房では何とか対策をしてイベントを再開させた。


「私たちの生きている楽しみの一つなの」と一人のメンバーの方が言ってくれた。


まだまだ影響力の少ないお店だけど、少なくともお話し会のみなさんの人生に影響を与えている。生きる力になれている。

そんな風に思うと、僕自身もやりがいを感じることができる。


まだまだお店を続けていかないと。


改めてそう思った。




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