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【第24〜27回】『アカシアは花咲く』『[改訳]通話』『ストーナー』

こんにちは。
文学ラジオ空飛び猫たちです。
2020年にお送りした文学作品の紹介はこれが最後です。

硬派な文学作品を楽しもう!をコンセプトにしたラジオ番組です。毎週月曜日7時にpodcast等で配信しています。ラジオをきっかけに、文学作品に触れていただけると嬉しいです。

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【第24回】『アカシアは花咲く』デボラ・フォーゲル著 〜1930年代に書かれた詩的な散文〜

あらすじ
戦間期ポーランドの作家ブルーノ・シュルツの第一短編集『肉桂色(にっけいいろ)の店』成立に多大な影響を与えた存在として、知る人ぞ知る存在だったデボラ・フォーゲル。今世紀に入ってからその作品が再発見され、世界のモダニズム地図を書き換える存在として注目を集めている。その短編集『アカシアは花咲く』と、イディッシュ語で発表された短編3作を併載。ブルーノ・シュルツによる書評も収めた。

感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
ラジオではお互いに好きな文章を朗読して感想を述べているのですが、詩的に綴られる文章がとにかく美しいです。《人間がコーヒーを飲むのは黄色い灯りのともる灰色の夕方、またもや何かがだめになってしまった夕刻。》この文章なんかすごく好きです。訳の力もあると思いますが、まったく古びた印象はなくて現代に書かれたものではないかと思うくらいです。二度読みましたが、《アカシア》は何を意味するか、《灰色》とは何か、わからないことは多々ありましたが、それでも心に残る言葉やこの本から得たイメージがあって非常におもしろい読書体験になりました。読む度にイメージが変わるのではないかと思います。
万人に合う本ではないと思いますが、好きな人にはたまらないと思います。美しい文章に触れたい人や、ゆっくりとした読書を好む人はかなりはまると思います。

ミエ
ページをめくると不意に出会う文章に魅せられます。例えば、《路上へ、十月の琥珀色の夕闇に出れば十分だ。午後四時と五時の間のそのひととき、人生はいつも「壊れてしまって」いて、どんなことも私たちには起こりえない。》《ふいに、広場のアカシアが花開いた。そのあと、起こらなかったけれども起こりえた物の哀しい匂いで、あらゆる街路を満たした。》読んだもののよくわからない、けれども不思議な感覚の美しさがあった、というのが率直な感想です。今の日本からは遠い時代の遠い国の話ですが、どこか通じ合うところがありました。1930年代、ポーランドのリヴィウに住んでいたデボラ・フォーゲルは30代半で書いています。戦時中の厳しい時代に書き留めたのが、伝統的な小説ではなく、人物の個性を消した散文だったのは考えさせられます。
このような文学作品があったことがおもしろいと思えましたし、今の時代に翻訳されて読めるようになったのも感慨深いと思いました。文学作品が好きな人は試しで一度読んでみてもおもしろいと思います。

【第25回】『[改訳]通話』ロベルト・ボラーニョ著 〜愛すべき売れない作家たち〜

あらすじ
亡命作家との奇妙な友情、刑事たちの対話、ポルノ女優の独白、ある米国人女性の半生……名もなき彼らの「声」に耳を傾ける14の物語。短篇の名手でもあったボラーニョの戦慄の第一短篇集。

感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
短編集はどれも個人的な感情が深く描かれているのに、しつこくなくて読みやすいです。しかもユーモアを忘れていない。小説を読んでいると自分にも結びつくところがあって、例えば『文学の冒険』の売れない作家の主人公Bが売れっ子作家のAを嫉妬してしまう気持ちとかは自分の中にもある感情だと思えました。好きなタイプの作家だったので、今度は長編『2666』を読みたくなりました。
短編はかなり読みやすくて短いので、興味持った人はとりあえず読んでみてほしいです。

ミエ
『通話』の登場人物はだいたい詩人か作家か批評家、もしくは人生に没落した人間が出てくる傾向にあるけど、ストーリーも人物描写も巧みでぐいぐい引き込まれてしまいます。ユーモア満載で笑える描写もたくさんあります。『通話』は軽めに読めるのでボラーニョの入り口としておすすめの短編集です。
ボラーニョは引き出しの多い作家で、2つの長編やボラーニョ・コレクションで重たい小説も書いています。『通話』をきっかけにボラーニョを知っていくと魅力的な文学の世界に浸れると思います。

【第26・27回】『ストーナー 前編・後編』ジョン・ウィリアムズ著

【第26回 前編】〜文学に恋した男の人生〜
【第27回 後編】〜完璧に美しい小説〜

あらすじ
半世紀前に刊行された小説が、いま、世界中に静かな熱狂を巻き起こしている。名翻訳家が命を賭して最期に訳した、“完璧に美しい小説”。
《読んでいると、さざ波のようにひたひたと悲しみが寄せてくる。どのページの隅にもかすかに暗い影がちらつき、これからどうなるのだろう、ストーナーはどうするだろうと、期待と不安に駆られ、もどかしい思いでページを繰らずにはいられない。(…)しかしそんな彼にも幸福な時間は訪れる。しみじみとした喜びに浸り、情熱に身を焦がす時間が……。ぎこちなく、おずおずと手を伸ばし、ストーナーはそのひとときを至宝のように慈しむ。その一瞬一瞬がまぶしいばかりの輝きを放つ。なんと美しい小説だろう。そう思うのは、静かな共感が胸に満ちてくるからにちがいない。》(「訳者あとがきに代えて」より)

感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
特別な一冊です。平凡な大学教師ストーナーの一生が淡々と描かれていて、地味な話ですが、ストーナーの人生から目が離せなくなってどんどん夢中になっていきます。特別な人生ではないからこそ、誰もの人生に重なるものがあると思います。時代的なこともあって悲しいことや辛いことが連続して起こりますが、でも人生のどこかで満たされて幸せを感じるところもあって、自分の人生にも重なるリアルさを感じました。あとストーナーは人生の中で妥協したり諦めたりすることもあって、その変容も小説で描かれています。最後には静かな感動が待っています。終盤のストーナーが自分の人生を振り返るシーンは本当に印象的で、いずれ自分にも同じような瞬間が訪れるんだと思えて強く心に残っています。
すべての人にオススメできる数少ない作品です。ストーナーの心情が丁寧に描かれるので、すっと読めると思います。読みやすくてリーダビリティが高いのに、ここまで胸を打つ作品は本当に貴重だと思います。

ミエ
文学の道を志した男の一生が描かれている骨太な小説でありながら、読みやすいです。純文学作品ですが、次の展開が気になってミステリーを読んでいるような高揚感がありました。はまると一気に読みたくなります。主人公ストーナーに共感できる人は多いと思います。貧しい農家に生まれ育った環境、孤立した大学生活、教師になったものの出世の見込みがなくなった状況、結婚して子供もできたのに家庭はぼろぼろ。ストーナーの人生は失敗の連続です。でも自分自身の情熱に従って生きているだけで、バカ正直に思えるほど誠実そのもの。こんな人生はきついと思うけど、人として尊敬しています。それと序盤のシーンですが、ストーナーが恩師の授業でシェイクスピアのソネットに出会い、文学に恋した描写は鮮やかに心に残っています。
一人の人生を始まりから終わりまで味わえる読書体験なので、コロナで大変な思いをした人や将来が不安に思えた人は、人生を考える一冊として読んでみてほしいです。

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