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入店した方が日本人かどうか微妙なときのサービスマン心理

「いらっしゃいませ!」

入り口から若い女性が入ってきた。
顔には少し緊張したような笑顔が浮かんでいる。

「おひとり様ですか?」

私が人差し指をたててジェスチャーしながらたずねると、相手は微笑みながら人差し指をたててうなずく。

「こちらのお席へどうぞ」

私は中央の席へうながし、椅子を引いた。
ゆっくりと店内の様子を伺いながら、女性は席の前にやってきた。

「コートをお預かりします」

私は上着を脱ぐ仕草を見せて伝える。
女性は着ていたコートを脱いで、私に預けてくれた。

店内奥のコートラックに向かいながら、私は迷っていた。
見た目は日本人である。しかし、アジア系の外国人の場合は区別がつかないこともある。

ここまでのやり取りの間にいくつかのトラップを仕掛けてあった。

「いらっしゃいませ」のあとの反応、「おひとり様ですか?」への返答、「コートをお預かりします」と言われた時のリアクション。
このいずれかで日本語が聞ければ問題はない。

しかし、女性は微笑みを浮かべているが声を発してはいない。
この場合は外国人である可能性が高い。

だが、確証がない。
控えめな日本人で声を出さない人もいる。

このあとメニューを持っていって説明をするが、日本語のメニューで大丈夫だろうか?外国人と分かっていれば、英語で書かれたメニューを持っていった方がサービスとしてはスマートだ。

私はとりあえず日本語のメニューを持っていった。
もし、英語のメニューを持っていって日本人だったら失礼になってしまうからだ。
ちなみに先日、うちのベテランスタッフがお客様に「日本語お上手ですね」と褒めたら日本人であった。何としてもこのパターンだけは避けたい。

さて、ここからが確かめる最後のチャンスになる。

メニューを広げ、説明をする。
このとき、説明しながらお客様の様子をみる。日本人であればメニューの文字を見る。外国人の場合は文字ではなく、記号を見るような視線になるのだ。

思ったとおり、視線から「何が書いてあるかわからない」という記号を見る目になっている。

私が恐る恐る「イングリッシュメニュー?」とたずねると、ホッとした顔で「イエス。プリーズ」と英語が返ってきた。

これで一安心だ。
分からないというのは何とも不安だが、分かってしまえば怖いものはない。すっかり気を良くした私は、「ホエアーアーユーフロム?」と笑顔でたずねた。

彼女はただこちらを見て、静かに笑顔を浮かべている。

なるほど、私の英語も記号ということか・・・。

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