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カフェをやりたい人達へ

カウンターでカップを洗っていると、こんな会話が聞こえてきた。
「仕事やめたら、カフェでもやりたいと思ってるのよ」
「ええ!いいな!そしたら私も雇ってね」

また、以前に来たお客さんは、しげしげと店内やコーヒーカップを眺めて
「趣味の世界やなぁ」と呟いていた。

どうやら、カフェは誰にでもできる職業のように思われているらしい。

いいだろう。いかにこの仕事が大変であるかを、20年以上のキャリアを持つ私がとくと語ってしんぜよう。この話を聴き終えた後は、「もう二度とカフェをやりたいなんて申しません」「こんなのは人のやることじゃない!」と、考えを改めるはずだ。

「カフェをやりたい人」についての考察

そもそも何故カフェをやりたいと思う人が多いのか。
これを私の偏見に満ちた視点で語ってみたいと思う。

まず、こういった話は企業に勤めた経験のある人から聞くことが多い。
そして人間関係に疲れていたり、時間に追われていたりと現況を抜け出したいと願っている人が多いように思われる。

これは何も現在に限ったことではない。
1980年代に喫茶店ブームというものがあった。この時、脱サラして喫茶店を開業する人も多かったのだが、当時は「でもしか喫茶」と揶揄されたようである。つまりこれは、組織での仕事が嫌になって個人で仕事をしたいけど、スキルもなければ資本も少ない。そこで、「喫茶店でもしようか」「喫茶店しかできない」と始めた人達である。

精神的に追い込まれれば、ゆっくりしたいとか旅行に行きたいなど誰でも考えるだろう。一時期であればそれで踏ん張りもきくが、この先ずっととなるとストレスフリーで仕事したいと考えるのも当然のことかと思われる。

仕事のストレス

ここで問題になるのは、カフェの業務はストレスフリーなのかという所だ。
当たり前だがストレスが一切ないなんて事はない。
では、企業にお勤めの方に比べて許容できる範囲のストレスなのか?
これを私の経験と照らし合わせてみたいと思う。
あくまで私個人の経験と考えなので、大いに偏っているものと思ってもらいたい。

まず、企業にお勤めの方はどういった事にストレスを感じているのだろうか。厚生労働省の「令和3年労働安全衛生調査」に次のような調査結果が出ている。

①    仕事の量(43.2%)
②    仕事の失敗・責任の発生(33.7%)
③    仕事の質(33.6%)
④    対人関係(25.7%)
⑤    役割・地位の変化(17.9%)

今回は個人営業のカフェを前提に、上位5つのストレスはカフェにもあるか考えて行きたい。

比較①仕事の量

これは自分のキャパシティーを超えた仕事量が課せられるということだろう。
私の場合は、体力的なキャパは大きいのだが頭のキャパはお粗末だ。同時に2つ以上の出来事が起こるとショートする仕組みになっている。そんな私をしらけた目で見ている妻の視線がいたい。
よって、カフェは仕事量が少ないとはいえない。

比較②仕事の失敗・責任の発生

どんな仕事でもどんな人間でも失敗はあるだろう。要はそれを周囲がどのように受け止めてくれるかが問題ではないかと思われる。失敗したときに怒られたり、責任を取らされたりすると辛くなる。
私の妻は優しい人なので叱責されることはない。ただ、おもむろに鼻からため息が出るだけだ。(傍にいるとそよ風を感じる)
責任の発生については、私は責任転嫁だけは得意だ。何かあったときは反射的に「だって〜」や「〜のせいで」と言えるようになっている。
よって、カフェは失敗も責任の発生もあるが認めないということが大事である。

比較③仕事の質

コーヒーさえ出していればカフェとしてやっていけるわけではない。
商品やサービスなどのちょっとした違いが大きな差となって返ってくるものである。
私の場合、他のカフェに負けない「質」といえば、筋肉質と隠蔽体質である。日々、仕事にはいっさい活かされない筋肉を鍛え、明るみにでると信用を失いかねない自分の本性はひた隠しに隠している。
このようにカフェも質は重要なのである。

比較④対人関係

小規模なカフェの場合、対人関係といえばパートナーとお客さんになるだろう。パートナーとの関係性はここまで読んでいただいた方には改めて説明する必要はないだろう。亭主関白でないことだけは確かだ。
お客さんとの関係には気をつかっている。カフェのマスターは聞き上手でなければならない。しかも、ただ聞いていればいいというわけでもない。どんな難しい話でも聞くためには理解するだけの資質が求められる。聞いている際に若干口が開きっぱなしになっているようだが、決して内容が理解できていないということではない。あれは脳に円滑に酸素を送り込むテクニックなのだ。妻曰く、頭の上にピヨピヨひよこが走り回っているように見えるらしいが、きっと気のせいだろう。
このように接客業はいろいろな方と接することになるので、私のような高いスキルが求められる。

比較⑤役割・地位の変化

私は開業当初、妻に「心配するな。俺の言うとおりやっていれば大丈夫だ」と息巻いていた。
しかし、10年も経つとすっかり立場が逆転し、何をするにも妻にお伺いを立てなくてはいけなくなってしまった。何を言うにも平身低頭、顔色をうかがうスキルだけは成長したといえよう。
このように役割・地位の変化は甚だしく、企業の比ではない。

まとめ

これらの事例からわかるようにカフェは企業に勤めている方に比べて、ストレスが少ないわけでも気楽な稼業なわけでもない。むしろ薄氷を履むような毎日なのである。
いま一番心配なことといえば、これを読んだ人が「あそこに行くのはよしておこう」と思ってしまうことである。

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