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三日月のゆりかご


 すべてを忘れゆく君に
 ぼくらにしか読めない地図をあげる

 ほら これでもう大丈夫だろう
 だからさ ここで少し眠ろうよ


 夢遊病の君は 空中を柔らかに漂い
 靄となって 新世界を見せてくれる

 ゆりかごには 君と僕のこども
 白くてちちゃな 三日月をにぎって


 浄化するように覚醒した赤子の瞳は
 果てしなく黒く光を宿していない

 愛おしいおててに 触れてみても
 まるで温もりは 感じられず


 いつだって わずかな壁が通せんぼするんだ
 願っても届かない 想いと似ていて

 泣きじゃくる君に 僕は言葉さえもかけられず
 フェイクグリーンのように 立ち竦んでしまった


 「メロンソーダ、結局飲ませてあげられなかっ
 たね。ごめんね。」


 デパートの屋上 遊具はもう決して動かない
 後ろに乗せてくれた自転車も 奈落へ沈んでった


 ひかりのなかに生まれ
 存在がこすれ合い
 おなじ時を過ごし
 今ここで生きているのは
 まぎれもなく奇跡で
 だれも触れられやしないからさ



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