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【宮城】日本三御湯のひとつ、名取のお湯「秋保温泉」

人類の歴史は、約400万年もの昔にさかのぼるという。

アフリカを中心に生活していた猿人が、その始まり。

次に、火を使う原人が現れ(約100万年前)、彼らの時代が、20万年ほど前まで続く。

やがて人類は、旧人を経て、現代人と変わらぬ脳の大きさを持つ「新人」へと進化する。

今から約3万年ほど前の話である。




宮城県仙台市太白たいはく区西部に奥羽おうう山脈のひとつ神室岳かむろだけ(標高1,356m)がある。

「神室」とは「神の住む所」という意味で、山と谷が際立つ美しい山容から命名された。

その地層は第3紀以前のもので、200万年以上も前にさかのぼるという。

その神室岳の麓、二口渓谷ふたくちきょうこくに源を発する名取川なとりがわという総延長55キロにも及ぶ一級河川がある。

名取川は太古の昔から、さまざまに川筋を変えながら、切り立った崖を刻み、段丘を造り、恵みの大地を築いてきた。

上流には落差55m、幅6mで流れ落ちる秋保あきう大滝や、磊々峡らいらいきょうといった渓谷など、自然の造形美が広がる。

やがて流域には豊かな平野が築かれ、多くの人々が暮らすようになった。

その証拠に、太白区からは約2万年前の時代の暮らしの跡を残す遺跡(富沢遺跡)が発掘されている。

仙台市内にある遺跡の約3分の1にあたる、250ヶ所近くが名取川沿いにあり、そのほとんどが太白区内に位置している。


旧石器時代から縄文時代にかけて人類は、丘陵や川沿いのやや高いところで生活を営んでいた。

狩猟や木の実の採集には、その方が好都合だったのだろう。

丘陵や谷筋に獣を獲るための落とし穴を掘り、住居を造り、背後に追る森や川沿いの林で木の実を拾った。

弥生時代以降は名取川周辺に水田が広がり、古墳時代には有力な豪族が権力を振るっていた。

名取川周辺には、有力な豪族がいたことを伝える特徴的な前方後円墳が、いくつか残されている。

そして時代とともに人々は、名取川の下流や広瀬川流域へと、次第に生活範囲を広げていった。

母なる川はいつも、人間の歩みとともにあった。



仙台の奥座敷
「秋保温泉」

時代は飛鳥時代(593年〜710年)。

都はまだ現在の奈良県の明日香あすか村付近にあった。

隋が中国を統一し、618年に唐がそれを引き継ぐ激動の時代である。

大和朝廷は630年に第1回遣唐使を送って、唐の強大さを目の当たりにした。

そこで一刻も早く国内を統一して国力を充実させようと、奥州の蝦夷えぞ(現在の東北地方、北海道に住んでいた民族)や九州の隼人はやと(現在の鹿児島地方に住んでいた民族)を服属させるための出征をくり返すようになる。

こうした状況の中で対蝦夷計略を担当したのが、越後えちご(現在の新潟県あたり)の国司として赴任していた阿倍比羅夫あべのひらふだった。


658年4月、比羅夫ひらふは180隻の軍船をひきいて奥州に向かい、飽田(秋田)、淳代(能代)の蝦夷を服属させることに成功した。

その頃だろうか。

彼は東北地方を統治する際、戦いで傷ついた兵士たちを癒すために秋保あきうの地で温泉を利用した。

これがきっかけとなり、秋保の温泉は戦傷を癒す「霊泉」として人々に広く知られるようになった。

平安時代には、この秋保温泉は「薬湯」として朝廷に献上され、その効能が広く認められるようになる。


こんな話がある。

第29代欽明きんめい天王が在位中に(皮膚病)に感染し、八方手を尽くして治療を行ったものの一向に治らなかったが、秋保温泉の効能を聞いてその湯を都に搬送させ、沐浴したところ数日で全快した。

欽明天皇は大変お喜びになり、歌を一句詠んだ。

「覚束な雲の上まで見てしかな鳥のみゆけば跡はかもなし」
(奇妙なことに、名取のお湯を禁中(御所)へ奉ったところ、鳥膚が消えうせた)


以後、秋保温泉は皇室の御料温泉の1つとして位置づけられ「御湯」の称号を賜り、別所温泉(信濃御湯)、野沢温泉(犬養御湯)(あるいはいわき湯本温泉(三函御湯))と共に「日本三御湯」と称せられるようになった。

鎌倉時代から江戸時代にかけて、秋保温泉は武士や僧侶たちの保養地としても知られるようになり、多くの文人墨客もこの地を訪れた。

特に江戸時代には、仙台藩主・伊達氏の庇護のもとで発展し、地域の経済や文化の中心地として栄えるようになった。

戦後になると、秋保温泉は観光地としての発展を遂げ、温泉宿やリゾート施設が次々と建設された。

現在では、歴史的な温泉街の魅力を保ちながら、現代的な観光施設も充実しており、国内外からの観光客が訪れる人気の温泉地となっている。


秋保温泉は、同じ宮城県の鳴子温泉、福島県の飯坂温泉とともに「奥州三名湯」の1つとして数えられ、兵庫県の有馬温泉や愛媛県の道後温泉と並んで「日本三名湯」の1つに数えられたこともある。

秋保温泉
泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物泉
効能:筋肉痛、末梢循環障害、冷え性、疲労回復、自律神経不安定症、不眠、 うつ状態など


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