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3.5%の夜明け|四角大輔 連載#01「ひとりの力」

「自分がマイカップを使ったって、なにも変わらない」
「選挙で一票を投じたって、結果にはなんの影響もない」
 ふと、こう思ったことはないだろうか。恥ずかしながら、ぼくはある。
 
 さて、あなたは自分の力をどれくらい信じているだろうか。
「わたしは無名の個人。なんの力もない」 
 この問いに、多くの人はこう反応するが、決してそんなことはない。
「自分の力を信じないのは、自分の人生を生きていないのと同じだよ」
 こう言えば少しくらいは、ぼくの話を聞いてくれるだろうか。

 近年、世界中の10代が気候危機を解決すべく立ち上がり、いまや史上最大級の市民ムーブメントとなっているが――そのはじまりはひとりの無名の高校生による小さなアクション

 当時15歳だったグレタ・トゥーンベリさんは、気候変動の対策をしない政府に訴えるべく、「学校ストライキ」と称してたったひとりで座り込みを開始――その真摯な姿がSNSで拡散され、世界を動かした。 

 <グレタ・トゥーンベリさんのInstagramより> 


 ひとりの力を示す、もうひとつの例を出そう。
 人種差別を根絶すべく、公民権運動を率いたキング牧師は有名だ。しかし、この歴史的な偉業のはじまりは、ひとりの無名の黒人女性による小さなアクションだった。
 もの静かな事務員ローザ・パークスさんはある日、白人客に席をゆずらなかった。そのせいでバスから強制的におろされ、逮捕される。

©Don Cravens

 この事件をきっかけに、キング牧師をはじめとする各界のリーダー、そして市民が立ち上がり――全米、そして世界を変えるムーブメントに発展したのだ。
 
 誤解を恐れず言うならば、グレタさんとローザさんは「ただ座り続けただけ」である。行為だけを切り取ると、あなたにも、ぼくにも、誰にでもできること。
 もちろん――15歳の少女が、学校を休んで国会前で座り続ける行為には、大きな勇気を要するし――黒人への暴力が日常的だったあの時代に、非力な女性がたったひとり、席に座り続ける決断には相当の覚悟が必要だ。
 だからぼくは、ふたりのことを心から尊敬しているし、「自分は無力だ」と落ち込むたび、ふたりのことを思い出しては勇気をもらっている。
 
 とはいえ、10代でハーバード大学を主席で卒業したり、小さな体で何人もの大男を投げ倒すような、一部の選ばれし者にしかできない超人的行為ではない。
〝小さなことなら、誰にでもできる(No One Is Too Small to Make a Difference.)〟とは、グレタさんの言葉で――
〝変化のための、最初の一歩を恐れてはならない(To bring about change, you must not be afraid to take the first step.)〟は、ローザさんの言葉。
 とてもシンプルな言葉だが、自分の人生を生きるために、とても大切なことを伝えてくれている。
 
 そして、この言葉はぼくらにこんな励ましをくれる。
「あなたが今生きているのは、これまでの人生で何度も小さな一歩を踏み出し、無数の小さなこと積み重ねてきたからだよ」
 そう、ぼくらは誰もが「自分の人生」という――おそらく世の中でもっとも難しい――ビッグプロジェクトを、自らの手でつむいできた。そして、母親のお腹から出てくるとき、誰もが命がけの冒険をしたことを決して忘れてはいけない。
 ふたりから勇気を受け取ったあなたに、この連載タイトルにある「3.5%」が意味する数字の物語を話してみたい。

<エリカ・チェノウェスさんのTEDトークより> 

〝人口の3.5%が、積極的かつ持続的に活動して失敗した市民ムーブメントはない〟
 これは、ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェスさんのTEDトーク(*1)での有名な発言。過去約100年の間に成功した世界323の市民ムーブメントを研究し、そこから割り出した数字という。
 
「あなたもチーム3.5%に入りませんか?」
 ズバリこれが、当連載のテーマ。
 そして、一緒にこのチームメンバーを増やしていかない?
――というのが、ぼくからの提案だ。
 
 エリカさんの研究は、独裁国家や軍事侵攻への抵抗運動を対象としているから、実際はもっと低いパーセンテージでも社会変化を起こせるかもしれない。実際に彼女は、著書(*2)でこう書いている。
〝その多くの市民ムーブメントが、3.5%よりはるかに少ない人数で成功した〟
 たとえば、5人家族ならば、あなたひとりでもう20%、10人のグループならば10%も占める。40人学級であれば早くも2.5%、100人の組織だとしてもすでに1%だ。
 もしも、40人学級でひとりを仲間にできたら5%となり、100人の組織であれば3人を巻き込むことで4%となる。

<NHKのInstagram「地球のミライ」より> 

 こう考えれば、「変化を起こすことって意外に簡単かも」なんて思えてこないだろうか。
ぜひ一度、あなたにとって「理想の世界」をイメージしてみてほしい。「弱者にやさしい社会」や「戦争のない世の中」など――なんでもいい。この段階では、あらゆる制約を取り払ってイマジネーションを完全に解き放つこと(物理の法則だって無視していい!)。
 人は誰もが無限の想像力をもっている。他の生き物にはないこの能力こそが、人間に与えられた最大のギフトだ。子どものころのように、頭のなかで空想を思い切りふくらまそう。
 もし具体的なイメージが浮かんできたら、箇条書きにして書き出してみよう。文字とは、人間に与えられたもうひとつの最高のギフト。そして、文字にする行為こそが、もっとも小さなファーストアクションと言っていいだろう。
 100人いれば100通りの「理想」があるはず。そして、その「理想」に近づくために、「今すぐできる小さなこと」「今日からできる最初の一歩」を踏み出してみてほしい。
 無名の個人だった、グレタさんとローザさんのアクションから学び取れるヒント――もう説明不要だろう――それは「自分にできることからはじめる」である。誰もがこれまで、必死になって自分の人生をデザインしてはず。これからは意識を少しだけ、「社会をデザインするため」にシフトさせてみてほしいんだ。
 
 ちなみに、9月14日発売の拙著『超ミニマル主義』では、「小さなイノベーションの起こし方」「ルールブレイカーになることを恐れない」という2つのチャプターを使い、ぼくの実体験から体得したひとりからはじめる変化の起こし方を解説している。
 最後は、ぼくがもっとも尊敬する歴史上の偉人、ガンジーの言葉で締めくくりたい。
〝世界を変えたければ、あなた自身がその変化のひとつになろう(Be the change you wish to see in the world)〟

※1)The success of nonviolent civil resistance
※2)Why Civil Resistance Works: The Strategic Logic of Nonviolent Conflict


四角大輔|Daisuke YOSUMI 
執筆家/森の生活者 /Greenpeace Japan & 環境省アンバサダー

レコード会社プロデューサー時代に、10回のミリオンヒットを記録した後、ニュージーランドに移住。
湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない働き方を構築。
第一子誕生を受けて、ミニマル仕事術をさらに極め――週3日・午前中だけ働く――育児のための超時短ワークスタイルを実践中。
 
ポスト資本主義的な人生をデザインする学校〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。
著書に、『人生やらなくていいリスト』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『バックパッキング登山入門』など。
2022年9月14日、新刊『超ミニマル主義』発売。


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