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ライブゲーム 第2話「1億2700万分の14」(修正版)

この記事は、週刊少年マガジン原作大賞で投稿した、
https://note.com/ca110/n/nfd1597cddd6bを一部加筆修正したものである。

第1話「白昼夢」

前半:https://note.com/ca110/n/n95aaf310e365
後半:https://note.com/ca110/n/nbfe4503222da

本編

 7:25、僕はいつも大体この時間に学校へ着く。正門が空くのは7:30からなので、この時間に来れば大体1番乗りで学校に入り、その後、朝の会が始まるまで、たっぷり校庭で遊ぶことができる。
「おはよう」
 花岡の声だ。あいつはいつも僕の2,3分後くらいにやってくる。大体朝はこいつと遊ぶ。
 一昨日、花岡と遊んだとき、一度こいつが消えたような気がしたが、本人に聞いても全く覚えていなかった。というより思い返してみても辻褄の合わないことばかりで、家に帰った後パソコンで調べてみると、白昼夢という現象があるらしく、そういうことだったのかと何となく納得した。
 正門が空き、開門担当の先生に挨拶する。そのまま下駄箱で靴を履き替え、周りに先生がいないか注意しながら、教室までダッシュ。素早く体操服に着替え、再びダッシュで下駄箱に戻り、靴を履き替えて校庭へ。
「っしゃあ一番!!」
「ずるいだろ。廊下走るなよ」
 花岡がノコノコ後からやってくる。
「お前だって走ってるくせに」
「俺は靴下で滑ってるんだよ。走ってねえよ」
 そんなやり取りをしながら、サッカーボールを取りに行く。この時間は僕と花岡しかいないから大して面白くないが、あと20~30分くらいしたら5~6人でゲームができるというのがいつもの感じだ。いつも朝遊ぶのは、4年で同じクラスだったメンバーが多い。花岡は3,4年で一緒。あとは水野、岩崎、矢川、森、庄司あたりか。これに横田とか九条とか遠野とかが入ってくる日もあるが。5年で同じクラスになった人とはなかなか遊ぶことはなかった。
 そもそも朝早く来なかったり、室内で遊ぶような人が多い。

 8:15になると予備チャイムが鳴り、5分後に朝の会が始まる。ボールの片付けを最後に持っていた奴に押し付け、下駄箱に行く途中、ちょうど登校してきた青柳に会った。白昼夢の中では会話こそしたが、クラスの中ではそんな喋る方ではない。そもそも青柳はクラブの活動ばっかで全然放課後とか遊ばないし。軽く挨拶をして、特にお互い何も話すことなく一緒に教室へむかう。何度か一昨日のことを聞いてみようか考えたが、やっぱり僕が見た幻の気がして切り出すことはできなかった。

「白昼夢て結局意味よくわかんなかったけど、それって妄想ってこと?」
「妄想じゃないんだけど、なんか寝てないのに夢を見るみたいな」
 昼休みは、朝や中休みと全然違うメンバーと一緒にいる。この5人は5年生になってから一緒になったメンバーだ。4年生のときから一緒だった三上、そして今年から同じクラスの星野、松田、佐々木。家が同じ方向にあるのと、三上は4年のときから仲が良く、星野と松田は三上と最初の席が近かったこともあって仲良くなり、僕も近かったせいで巻き込まれ、星野と仲良かった佐々木もそこに加わったみたいな感じだ。今は、佐々木、三上と僕が同じ班ということもあって、給食後は大体、星野と松田がやって来てだべるというのが恒例になっている。今日は僕から白昼夢を見たことがあるかと4人に聞いたところだった。
「寝てなきゃ夢見れないと思うけど」
 三上がそう返す。他の3人も同意という感じだ。
「いや、だからそういうのがあるんだって」
「で、結局その白昼夢がどうかしたの?」
 佐々木が聞いてきた。ちょっと迷った末、僕は昨日見た内容の一部をしゃべることにした。事故とか、足が切れた女の子の話は伏せて、ただ人がどんどん消えていく夢を、公園で遊んでる途中で見た。という感じに。
「へえ、怖い夢だね。なんか意味ありげだし、夢占いしてみよっか」
 星野はそう言うと、クラスの後ろの棚の学級文庫から、夢占いの本を取り出した。最近クラスで占いが流行っているらしく、学級文庫に血液型占いとか夢占いとか、心理テストみたいな本も入荷された。たしか誰かがタロットカードを学校に持ち込んで没収されたって話も帰りの会で聞いた気がする。
「人が消える夢でしょ。あ、あるよ。ほら。えーっと、消えた人は知っている人ですか?知らない人ですか?」
「知っている人だよ」
「へー誰だろ。えーっとね、知っている人が消えた場合はその人との関係性が薄くなることを表してるんだって。嫌な夢だね。消えた知っている人はうちらじゃないよね?」
「違うけど」
「よかったー」
 そう言うと、星野は
「そうそうあたしが昨日見た夢は」
 と言いながら自分の夢占いを始めた。周りも盛り上がり始め、果てはいつものように恋バナにつながった。それを聞き流しつつ、僕は花岡と疎遠になる想像をしようとしたがイメージがわかなかった。

「じゃあ僕は公園で遊んでから帰るから」
「はーい。じゃあねー」
 そう言って、三上たちと公園の前で別れる。花岡たちはもう少し後で来るはずだ。特にすることもなく、当てもなくぶらぶらしようかと思ったところで、トイレ横の公衆電話が目に入った。
 一昨日の記憶がよみがえる。白昼夢の中で、あの女の子がかけた電話番号を思い出す。自信はないが、多分これだという11桁の数字が頭に浮かぶ。あの記憶が妄想かどうか、この番号にかけてみれば分かるのではないか。少なくとも存在する電話番号なのだとしたら、僕の白昼夢も全くの妄想ということではないはずだ。
 テレホンカードを挿入し、受話器を上げる。慎重にボタンを押す。間違えてたら、そもそも電話番号も妄想の産物だったら、嫌な考えばかり浮かぶが、もうコール音は鳴り始めている。4コール鳴り、そろそろ受話器を降ろそうか考え始めたところで、つながる音がした。相手は無言だ。
「もしもし」
 恐る恐る声をかける。受話器の向こうは沈黙のままだ。なにを喋るべきか。一昨日のことは上手く説明できる自信はない。しかし向こうから何も言わないなら、こっちから何らかの話題を切り出さなければならない。思い出したのはあの女の子の名前だ。
「朱莉さんのことで聞きたいことがあって電話しました」
「どうやってこの番号を?いや、それよりも名前を教えてくれるかい?」
 初めて声が返ってくる。低くて響く声だ。名前を教えるかどうか、少し迷う。日ごろから知らない人に名前を簡単に教えてはいけないと言われている。しかし、名前を言わないと会話が進まない。それに、この人は朱莉という言葉に反応している。あの夢がただの白昼夢でないことの何よりの証拠だ。ここで名前を言わずに電話を切ってしまえば、もうあの事については謎のままだ。
「三島光輝です」
「三島君でいいのかな?声的に小学生だよね?」
「はい」
 名前だけでなく、小学生であることもバレてしまった。もし相手が悪いやつだったら、大変なことになるかもしれない。しかしあの状況であの子が最期に電話をかける相手が悪者というのもおかしい。まともな人であることを信じて話を進めるしかないだろう。
「三島君、実は私たちも君のことを探していたんだよ。君に話すべきことと渡したい物があってね。いまからそっちに迎えを送るから、どこの公衆電話か教えてくれるかい?」
 前言撤回。悪者かもしれない。それくらい話が怪しい。
「ごめんなさい。言えないです。失礼します」
「君は先週土曜日に起きたことが気になって電話をしたんじゃないのかい?」
 受話器を置こうとした手を止める。
「私たちなら、あれがなんだったのか説明できる。なんなら親御さんと来てもらっても構わない」
 かなり迷ったが、結局場所を伝えることにした。でも公園ではなくそこから少し離れたスーパーを指定した。大人が多くいるし、いざというときに助けを求めやすい。
「そこなら30分くらいで着くよ。迎えに行く車は……」
 車の特徴を話し終えるとそのまま電話は切れた。

 連れてこられた建物は、5階立てのビルだった。黒いワンボックスカー、口数が少ないドライバー。電話口で話した人とは明確に違う人だ。なにせ請謁が違う。いつもなら絶対についていかない状況だけど、あの不思議な白昼夢の正体を知りたいという好奇心が勝った。

 ドライバーに続いて建物の中に入っていく。エレベーターで下へ向かうとがらんとした空間にATMのようなボックス型の機械が置かれている。
 ディスプレイには謎の表示がある。
9/8
ALIVE
HOTTA☆☆
ANDO☆
NINA☆
KATAYAMA☆
ARAGAKI
IDUKA
UEKI
KATO
OOTUKA
MAEDA(S)
SUGIMOTO
TANAKA
SUDO
MISHIMA

 一番下は自分の名前だ。
「この穴の中に指を突っ込んで」
 と、右上にある穴を指さした。言われたとおりに指を突っ込むと、電子音と共に、僕の名前が点滅し、機械中央部のトレーが開いた。中にあるものを見て僕は目を疑った。
 いままで見たことないくらい量の1万円札がそこにあった。
「それがゲームを生き残ったご褒美。たった14人の生き残りに与えられるね」
 恐る恐るお金をかき集め枚数を数えた。71枚。
「ゲームってなんなんですか。というかこのお金って本物なんですか」
 ただっぴろい空間に僕の震える声だけが木霊した。

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