間借りカレー地獄変〜10〜トラッシュカリーデストロイ

 目の前には9Lのカレーソース、1kg弱のハンバーグと手羽元、8合近い米。これを、これを、これを今から廃棄する。

 1月、2週間ほどは順調だった。最大で25名の行列ができた。しかしその後だ。とんとお客様が来なくなった。そして目の前には捨てざるを得ない食品が鎮座している。

「金を払って生ゴミを作る仕事か」

 そんな言葉が頭に浮かんだ時、実験店舗として辞めようかと考えた。何しろ毎日作ってもお客様が来ないのだ。味が悪いのか?対応が悪いのか?オペレーションが悪いのか?
 心当たりは無限にある。注文を間違えるなどしょっちゅうだ。ニュースを見れば国内でも伝染病患者が発生し、船の中ではドえらいことになっている。

「まさかこの伝染病が広がる訳もねえし、これにビビって来ない訳ではないだろう」

 色々と考える。メニューを考えた。当店はノーマルカレーとハードコアカレーの2種類しかない。味は同じで肉の量が変わるだけである。当店より少し先輩の要町のお店は2種類だしている。そしてかなり話題になりつつある。

 新メニューを考えるか。しかし私は間借りカレー。2時間で仕込みをやって営業後2時間で翌日の仕込みなどを終えなけれならない。そしてコンロは3つ。そのうちの2つはメインのカレーで使っている。
 トッピングも多少は考えた。チーズ、バター、バターコーン、オムレツなど。しかしそれだけでは駄目なのかもしれない。何度も来たいと思ってもらえる新メニューを考えないといけない。では別のカレーを作るか?厨房を使える時間は限られているし現実的ではないかもしれない。これ以上早く到着するにはほぼ始発で行動をしなければならない。
 その生活を続けるには無理がある。そしてお客様が少ない状態、ありもので新メニューを作ることができれば最高だ。別メニューを出してさらにそれを廃棄するなんて状態になったら多分、完全に心が折れる。

 オーナーからも「慣れてきたらなにか新メニューを出した方が良い」とは言われた。トンカツトッピングも考えたが、毎日豚肉をカツとして仕込むのは現実的ではない。
 心を掴む新メニュー。そしてどこにもないものを作らなければならない。食べた人間がwebで「ヤバイものを食べた」と言いたくなる物を。

 当時は土日が休みで金曜の閉店後、圧倒的量の廃棄に半べそになりながら考えた。シュマルツも捨てなければならない。ああ、辛い。毎日自分のカレーを食べて捨てている。くそう。何も思いつかねえ。全部くったらあ!
 そう思った私は頭がおかしくなる食べ物を食べて発散しようとした。もう駄目になりたい。駄目な時は酒をガン飲みするなどで駄目になれとキャプテンハーロックも言っていたのだ。ハーロック、俺もそうするよ。

 ビールを購入。カレーを作るぞ。俺は王様だ。ビールで全てを流す。だから思い切り食っても良い。あ!シュマルツを普段の三倍くらい乗せてしまった!こんなん油っこくて食えるか!いや、ハーロック。俺はやるぜ。とりあえず山程余っていたフライドオニオンを全部ぶっかけた。全てのやるせなさやイライラをカレーにぶち込み普段はやらないのに全混ぜして胃袋に叩き込んでやる。

「うめえええええええええええええええええ!」

 なんだこれは、圧倒的脂が俺の脳をノックした。うまい。うますぎる。十万石まんじゅうに匹敵するレベルの旨さではないか。いや、うまいとかではなく、欲望に沿って脳が開く。なんだこれは。これが、これがシュマルツの本気なのか?

「これは。。。もう少しカレーを減らせばバランスが良くなる!」

 デブなのでもう一杯作る。脂が多すぎるのでハードコアカレーよりは肉を減らそう。チキンがあるともう少しバランスが取れるかもしれない。

「くうううううううううううう!」

 血糖値スパイクで意識が吹っ飛びそうになる。吹っ飛ばせ。吹っ飛ばしてしまえ。ハーロックに従え。

 完全に脳が開ききってしまい、片付けがいつもより遅くなった。しかし、私の脳は早くなっている。これは、これは行けるのではないか?名前を決めて新メニューにしよう。シュマルツと飯が主体。カレーは加速装置。○○カレーじゃインパクトが弱い。わかりやすく、そして欲望を刺激する名前を付けねば。

「シュマルツと。。。飯。。。シュマルツめし。。。」

 テッテレー!新メニュー爆誕。シュマルツめしが生まれた!ツイッターに載せたら割と反応が良い!しかし注文した人が次々に撃沈していく!これはシュマルツが多いのか?それに作るに手間がかかるシュマルツがすごい速さで消耗していく。やはり通常の5倍はやりすぎか。だったら三倍だ!通常の三倍はガンダム好きなら反応する!俺はF91しか知らんけどな!

 シュマルツめしの反応を見ると「食べる欲望」「バカの食べ物」などと称賛が並んでいる。ありがたい。本当にありがたい。俺はまともになろうとしていた。だからこそ当店を求める人との間に齟齬が発生していたのだ。その齟齬が正された。この道だ。この道を行けばどうなっちゃうんだろうか?バカヤロー!馬鹿になれ!!!!!!納豆たべちゃってごめんね!あ!伝説的プロレスラー!わかったよ!オイラ。。。バカになる!!!

~続く~

チョロリーン!今思い出しても倒れそうになる時代の話だね!約一年前だ!本当に5月には閉めようと思っていたが2月は息を吹き返した!しかし。。。この後。。。目には見えないアイツらが。。。牙を剥く!

ここから先は

28字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?