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Is this LOVE? 【短編投げっ放し小説】

★このお話の最後の言葉は、読んで下さった皆様にお任せ致します。

【本編】
目を覚ますと、視界に入ったのは、見慣れない真っ白な天井と、眩しい照明の光。

頭を上げようと首を動かしたが、それは叶わなかった。

一瞬見えたのは、数名の、白衣か白装束のようなものを着た、人間。いや、キャップとマスクをしていたから、人間なのかどうかもわからない。

もう一度、体を動かすことを試みるが、どうやら手首と足首、そして首と腰の辺りが固定されていて、わずかに浮かす程度の動きしか出来なかった。

「何なの、これ?あなた達、何者なの?」
私は問うた。

「何者かと聞かれて、答える人はいませんよ」
白い者の内の一人が、冷淡に言った。声質から、成人の男性なのはわかった。

彼は人と言った。一応人間ということだろうか。それとも、便宜上、人という表現を用いただけだろうか。

「何のつもりなの?ねぇ、こんなことして、一体どうするつもり?」
私は口調を強めた。少しずつ頭が目覚め始め、置かれている理不尽な状況に苛立った。

「キャトルミーティレーションのようなものでしょうか」
先程とは別の白い者の一人がそう言うと、他の者達がクスクスと笑った。

「ねぇ、ふざけないで!面白くも何ともないわよ。目的は?何が目的なの!?」
怖さより、怒りが込み上げて来た。

「目的、ですか?そうですね、『あなたの幸せのため』でしょうか」

幸せのため?こんな状態にされて、幸せのためだなんて言われても、私には意味が全く理解出来ない。

「何が幸せのためよ!冗談じゃないわ。こんなことして、あなたたちタダで済むと思っているの!?」

大声で叫んだが、真っ白な静かな部屋の中で、私の声だけが鳴り響く。強いて言えば、小さく不気味な機械音だけは聴こえてきた。

「さぁ、始めようか」
白い者の一人が言った。何かを持った、音がした。

「何をするつもり?やめなさいよ!やめてー!!」
私は全力で叫んだが、腰の辺りに何かが刺され、やがて全身の力が抜け落ち、意識を失った。


再び目覚めた時、目の前は闇だった。いや、違う。何かで目を覆われているのだ。体を起こそうとすると、鉛のように重く不自由だが、拘束されてはいないようだった。

「あっ、無理に体を起こさないで下さい。しばらくリハビリが必要なんです」
誰かが言った。声の主は成人の女性だ。

状況は全くもって不明だけど、どうやら私は何らかの手術をされたようだった。彼らの言う、キャトルミーティレーションか。

「私は何をされたの?何が目的なの?」
私が問うと、
「言われませんでしたか、『あなたの幸せのため』だと」
その女性は言った。

何にせよ、私は生きている…少なくとも生かされてはいるようだから、この状況を受け入れ、リハビリに励んだ。

それから何日経ったのだろうか。それすらもわからなかったが、だんだんと体は言うことを聞くようになり、ある日「明日には目の包帯も取れますよ」と女性が言った。

そして、翌日。

「包帯を取りますね。ゆっくりと目を開けて下さい。久しぶりの光だから、しばらく焦点が合わないかも知れないけれど、すぐに慣れますから安心して下さいね」
その声は、あの日の白い者の声だった。

包帯が外され、私はゆっくりと目を開けた。照明は薄暗くしてくれていたようだったが、それでも眩しくて、一度目を閉じた。何度かそれを繰り返しながら、少しずつ、目を光に慣れさせる。やがて目は光に慣れ、焦点も合い始めた。私の目の前には、全身鏡があった。

あの日、私は一度死んだようなものだった。自分がどんな状態にされたのか、初めて目にするのだ。覚悟を決める為に、最後にもう一度ギュッと目を瞑り、そしてゆっくりと開けた。

「えっ」
私は思わず声を出した。

「これ、本当に私ですか?」

「えぇ、もちろんあなたですよ」

鏡に映っていたのは、女優にもモデルにもなれそうな美女だった。人工的な物ではない、美しさと可憐さを併せ持った、誰からも好かれる顔と、過不足の無い、均整の取れた体。

「なんで…」

「お母様からのご依頼です。あなたが容姿に悩み、『死にたい』と漏らすようになったことに、心を痛めていました。そして、借金をしてまでこちらにご依頼頂いたのです」

確かに私は死にたかった。醜い容姿のせいで、22歳になった現在まで辛い思いばかりさせられてきたのだ。男だって女だって、結局容姿で相手を値踏みする。社会全体が、外見至上主義に突き進んでいるのだから。そのせいで性格も暗くなり、人との繋がりはネット上だけ。いつからか、家から出ることも億劫になってしまった。ただ起きて、食事をして、テレビを見るか、スマホかPCに向かうだけの日々。罪悪感に苛まれながら生きる日々。きっとあのままの生活が続いたら、私は自死を選択しただろう。

「お母さんは?迎えに来てくれるの?」

「いえ、迎えには来ません。しばらくは会えないでしょう。もしかしたら、もう二度と会えないかも知れない」

「えっ?どういうこと…?」

「言ったでしょう、お母様は多額の借金を背負ったのです。あなたの幸せのために」

「いくらよ」

「一億円。法的に認められていない施術も含んでいますから、それでも安い方です」

我が家は決して裕福な家庭ではない。父が先に亡くなってからは母がパートで得る収入で生活をしているのだ。一億円なんて払えるはずも無い…。

私はもう一度、鏡に映る私を見た。確かに美しくて可憐だが、元々の私の面影は皆無だ。自分のままだと思えるのは声のみで、まるで脳だけを取り外して別の容れ物に移し替えた
ようだった。母から、そして亡くなった父からもらった『私』は、もう全てどこかに消えてしまった。

「お母さんはどこよ!?」

「それは言えません。そういう契約なのです。繰り返しますが…、あなたのお母様は、あなたの幸せだけを願っているのです。私たちは、そのお手伝いをしたのです。どうぞご理解下さい」

私はその言葉の意味を、母の想いを、必死で考えた。涙が溢れ出て止まらなくなった。

そして、私はこう言った。

「お母さん…、『               』」。

【fin.】

※このお話は心理テストなどではありません。話の続きも、皆様にお任せ致します。

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